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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
二人と一匹+一羽

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言いたくないけど言わないと伝わらないけど、言いたくない

 家の周りは菜園があった。特に手入れされていないためか雑草が茂っている。野生化した野菜が時々混じっているようだった。


 ミリアは隣を歩くナキをちらっと見上げた。手が触れそうなくらい近いが触れる事はない。今までなら当たり前のように握られていた手は偽装対応であったことがよくわかる。

 偽装が必要なくなったから、対応がかわることは仕方のないことだ。


 それにしても今まで以上におかしいのはミリアも気がついている。ただ、どう対応するのが正解なのかは見当もつかない。

 視線に気がついたのかナキが視線をむける。向けられた柔らかい笑みが特別でないことはミリアも知っていた。知っていてもどきりとするもので頬が赤くなるのは仕方がないと諦めていた。

 ナキはミリアを見下ろして小さくため息をついた。


「……忍耐力保つかな」


「え?」


「言いたくないけど言わないと伝わらないけど、言いたくない」


「……結局どっち?」


「言いたくない。

 一応、警告ね。俺の事、どうとも思ってないならそういう顔しない」


 ミリアは首をかしげた。

 そして、気がついた。確かに色々邪魔もあったが、ナキの好きに対する返答らしきものはしていなかった。

 正直に言えば好きと言われた段階で許容量を超えている。返答というものが必要であると思い至らなかった。むしろそのことを考えないように昨日から過ごしているので通常の通りのように見えているだろう。たぶん。

 部屋に戻って枕を抱えて思考の無限ループに陥ったのは気がつかれていないと思いたい。夜中に白猫になにしてるのだ、とつっこまれたのは地味に落ち込むが、それはそれである。

 しかし、ミリアの表面的な態度は客観的に言えば完全になかったことにしているようにしか見えない。


「え、あ、その、好意はあるわよ。あんなに甘やかして絆されないと思ってるの?」


 その表現がミリアの精一杯だ。うっかりすると止めどなく好ましいところを並べそうになるのをどうにか押しとどめる。

 さすがにそれは引かれるだろう。ああいうものは小出しにした方が良いに決まっている。


 ナキは一瞬、無表情になったかと思えばすぐに顔を覆ってしまった。よく見れば耳まで赤い。


「……やばい、いろんなものぶん投げたい」


「そ、それは投げていいの?」


「ダメ。絶対、ダメなやつ。今からミリアにとって一番危険なの俺だからね? 憶えておいて」


「意味がわからない……」


 好意を示したら危険になるとはどういうことだろうか。ミリアには危害を加えられる場面の想像がつかない。


「……その、どうしたいの?」


 ミリアは恐る恐る尋ねた。


「知りたい?」


 ナキは小さく笑った。ミリアはどこがというわけではないが、いつもとは違う印象を憶えた。少しだけ怖いと。


「抱きしめるくらい、許されていいような気がするけどどうかな」


「そ、そんな急に」


「そうだよね。うん、わかってた。ちゃんと了承を得てからします。だから、大丈夫、たぶん」


 ナキがなんだか段々自信がなさそうになっていくところに不安を覚える。ミリアは想像するだけで意識が遠くなりそうだった。

 さらに自分が思うよりも免疫がなかったことにショックも受けている。


 微妙な沈黙がきまずい。

 これは両思いという状態で嬉しいはずなのだが、ミリアにとっては気恥ずかしいが先立つ。


「……ナキは、どこかに落ち着くつもりはあるの?」


 ミリアは焦って話題を模索した結果、一番まずい話を振った気がした。ナキは少し困ったように眉を寄せている。


「他力本願で悪いんだけど、そこはミリアにぶんどってもらおうかなと」


「え?」


「今までの報酬代わりってとこ。場所は任せるけど、田舎でほどほどに人がいないほうがいいかな」


「わかったわ。いっそ、どこか占拠してから交渉を初めてもよいと思うけど、候補を探しておく」


「よろしく」


 ほっとしたようなナキの姿にミリアは少しもやっとする。なにか誤魔化されたような気がした。


「……そういえば、話って?」


「さっきので済んだよ。いい子でお留守番しているように」


 ミリアは優しく頭を撫でられるのが釈然としない。そう、子供扱いのようで。しかし、ナキにとっては子供のような扱いしかできないのだろう。

 手を握る以上のことをされたら真っ白になる自信がある。大変情けない自信だが、なれていないものは仕方がない。


 ミリアは偽装だから、演技だからと言い訳していた以前の方が普通に振る舞えた気がした。今なら手を握るのも意識しすぎて茹だりそうだ。


「ナキもふらふらしないでね」


「危ないことには首をつっこまないつもりだけど、どうかな」


 ナキは苦笑したが、ミリアが言ったのはそう言う意味ではない。本人は全く意識していないがそれなりにもてていた。全く気がつかないのが不思議なくらい。

 そう、ナキは鈍かった。そこにミリアは思い至る。迂遠なアプローチではきっと気がつかない。その意味では安心出来る。

 それがよいことなのかはわからないが。


 他の心配は燈明がやらかすくらいだが、それはむしろ確定事項のような気がしていた。

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