非日常延長戦
猛獣相手をしているような燈明が離れてナキはほっとした。あれは女じゃない。押しのけようとしてもびくともしないのだ。あの細そうな腕が全く動かないのは衝撃だった。
虎やライオンにべろりとなめられたらこんな気分になるのだろうなと思うほどだ。
やれやれとようやくナキはミリアへ視線を向けた。
ものすごく機嫌が悪そうだった。
「あの、ミリアさん?」
「ものすごく、不快。可能なら東方のお方に抗議する」
「そ、そう……」
ナキは実害はそんなになかったのでそこまではいいかなとは言い出せない。下手に言えば庇ってると誤解をされそうな気がした。
ナキは眉間に皺を寄せたままのミリアになにを言えばいいのか途方に暮れる。
「傷は大丈夫?」
「針で刺されたような感じ。もう血は出ないかな」
「良かった」
そう言うわりには悩ましげに寄ったままのミリアの眉はそのままである。
ナキにとってはとても居心地が悪い。悪い事をしたわけでもないのに、むしろ被害者だというのに後ろめたいような気がしてくる。
クリス様助けてと白猫を探すが、扉の向こう側に消えたのがわかった。
「……ああいう人の方が好み?」
「へ? あれは同じ見た目してるだけの猛獣。俺が見てたのはクリス様の方。釘刺しとかしてくれるかな」
「話、聞くかしら?」
「素直についていったから多少は聞くんじゃないか?」
ナキは白猫が真面目な顔で、説教している場面を想像出来ない。可愛いだけかもしれない。
ミリアも何とも言えない顔で扉の向こうを眺めた。
「ナキは、私のどこがよいと思ったの?」
ふと口をついて出たような問いにミリア自身が驚いているようだった。
「最初はその青い眼かな。それから、嘘で偽装の恋人なはずなのに、反応が可愛らしすぎてずぶずぶと落とされた」
「……かわいい?」
「すごく、かわいい」
ミリアの怪訝そうな表情が見る間に赤くなって両手で顔を覆ってしまうまで早かった。
そういうとこ、とナキは指摘しない。とりあえず可愛いところを堪能すべきだ。
「ナキくらいよ。そんなこと言うの。可愛くないとか生意気とか冷たいとか、面白くないとか」
「こんなに可愛いのに見る目がないよね」
「そ、そうなの?」
特にこんな赤い顔をして見上げてくるなどナキとしては反則的と思える。理性ぶん投げていいかなと思う所をようやく思いとどまった。
「そうだよ。
さて、クリス様の様子でも見てくる」
少々不自然かも知れないが、色々限界だった。ナキは扉の外へと向かった。




