非日常→日常 2
お茶が冷めるほどの時間をかけてでてきた解答が日常生活の送り方の指南であった。
ミリアも町の暮らしは慣れたようだが、それはあくまで宿屋に泊まって、その他家事的なものを外注している状態である。
実際住むとなると勝手が違うだろうということで、すぐ出来そうなことからはじめた。現在、ミリアは食器を洗うことに挑戦中である。
シンプルなエプロンをつけて、髪を結わえ、真剣な面持ちで挑んでいるのでナキはつい観察してしまう。
ミリアも手順自体は知っていたようで慌てることなく作業をすすめていた。手つきが危なっかしいのは仕方ないだろう。ある意味国一番のお嬢様であったわけで、皿洗いなどすることも一生ない生活の予定だったのだから。
ナキはルー皇女からの提案を思い返す。
護衛として正式に雇用してもよい。その場合にはミリアを匿うような家や新しい身分を与えると。
少々ぐらつく提案ではあったが、ナキは断った。ルー皇女の権力は限定的で、現在のところ父や兄に抗えるほどではないと思ったのだ。どうしてもミリアは目立つだろうし、ルー皇女の近くにいれば見つかる可能性は高い。
断ったあとの、差し出がましいようだけど、姉様を養っていけるの? という素朴な疑問にぐっさりとやられたことも思い出した。
現実的なお子様である。
そのため、ナキも現実的なところを教えることにした。
彼女は生活の場などを整えれば、一人でやっていけると。微妙な顔をされたのは気がつかない振りをした。
「ええと、じっと見られる落ち着かないのだけど」
ナキがそんなことをぐるぐると考えていれば、ミリアに困ったような表情で苦情を申し立てられた。
「思ったよりちゃんと出来てるなと思って」
考えていたことと全く違うことをナキは告げる。
「そう? よかった」
ミリアはほっとしたように微笑んだ。ナキはどきりとしてそっとその姿を視界から外した。
いつもと違うエプロン姿に新妻っぽいと思ったのがすでにおかしい。どう考えても正常じゃない。ナキは自分のことながら引くわ-、ないわーとツッコミをいれる。
「じゃ、続きをよろしく」
「任せて」
自信満々といった様子にナキは苦笑する。大変可愛らしい。ついでにきゅんともする。
昨日の状態と全く一緒である。なんなら自制心がすり切れそうな状態も同じでもある。これ以上は嫌われると自分に言い聞かせてなんとか保っているのだが、今後はあまり自信がない。
ナキとしては昨日のうちに講じてみた対抗策が効果を示していて欲しかったのだが、意味はなかったらしい。
魅了されているわけでもないので、魅了抵抗(大)のスキルが役立つことは望み薄ではあったのだが。そういうことじゃないと実証された時点で詰んだ気もしている。
「本当に大丈夫だから」
「うん。任せた」
ナキは延々と眺めていたいような欲求を断ち切ってキッチンを出る。やることがないわけでもない。
たとえばこの隠れ家の使用方法についてをメモしておくことなど。
ユークリッドはここでは快適を追及したようで現代的な機能が再現されている。エアコン付き、風呂トイレ別、食洗機完備。冷蔵庫もついている。さらに自動式の掃除機もあったので頭が痛くなってきた。ひっそりあったオーブンレンジについては見なかったことにした。
コンロが普通のガス式らしいことに安堵したくらいだ。それもこの世界では存在しないのだが、まだ理解しやすいものだろう。
全てマジックアイテムと言い張るつもりではあるが、そんなものを家事に使う余裕はこの世界にはまだない。
結果的にユークリッドがかなりわけありでおかしいということはミリアにはわかるだろう。そんなマジックアイテムを普通に使えるナキもおかしいということも。
拒絶されないといいけど。
それほど昔でもない記憶が少々うずいた。ちょっとやり過ぎて、化け物などと言われた事はある。親しい相手から言われるのは中々ショックでその後の処理も雑になったことは後悔している。
あれは白猫に会う前のことでナキはそれを誰かに言いたくもない。
「どっか行きたい」
小さくナキはため息をついた。




