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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
冒険者と侍女と白猫

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一方その頃、帝国では 3


 冒険者ギルドの受付業務は多岐にわたる。

 総合的に言えば雑用。その上、腕っ節も求められる。帝国内においては特にその傾向が強かった。

 そのため、基本的に引退した冒険者が勤めることが多い。フィランもその一人だ。表面上は穏やかな糸目だが、目を見開いた時は気をつけろなどと言われる事もある四十路。孤児を拾ってはびしばし鍛えて放流するのが趣味というある意味問題児である。

 知らない間にコネやらなんやらがすごいことになっているが、全く自覚はない。

 なお、おしかけ自称嫁はいるが、正式な嫁はいない独身である。


 彼は今日も今日とて業務にいそしんでいる。

 本日は督促の日。

 ギルドに該当人物を呼び出して、金払えと言う日。少々、年を取ったなと思っているので今日は暇をしていた知り合いを受付の裏に控えさせた。夕食1回分が報酬として妥当かは不明である。


 呼び出された男はその内容を聞いて怪訝そうな顔をしていた。


「……金がない?」


「正確には税金が足りてませんよ。延滞してます。そちらの会計役にはきちんとお知らせしましたが、聞いていませんか?」


 フィランの対応は淡々としたものだった。絶句した男に興味もない。日常過ぎる。

 必要な金額を示した書類を出し、事務的に期日と間に合わない場合の対処方を説明する。最終的には無償奉仕や最悪、労働奴隷として一定期間働かされることもある。


 帝国内では冒険者も税金対策が必要だ。収入が一定ではないので、猶予期間は長いがそれでも差し押さえや無償労働は発生する。

 それさえも無視すれば、牢屋行きだ。世知辛い世の中である。


 他国からきた冒険者は面食らうらしいが、その代わりに与えられる保証を知れば従う場合が多い。

 病気や怪我などの場合の見舞金や装備の損傷の場合、無利子での金貸しなどはこの帝国以外ではまずあり得ないようだ。

 それ以外にも登録一年の指導制度や出世払いという名の無賃宿もある。


 冒険者をやめるときの雇用相談などもあり、多少、収入が減っても税を払わないという選択はないとフィランは思っている。


 ただし、まあ、一部は理解しがたいというのもわかっている。利用しなければ無駄金では確かにあるのだ。


「共有の預け金から引いてくれ」


「それが残ってたら、言いません。言いたくないですが、新しい会計の子、使い込み激しくないですか? 各パーティへの干渉は控えるように言われているので黙ってましたが、収入と同等くらい使い込んでますよ?」


「なっ、どうして」


「そこを管理するのがリーダーってもんじゃないですか? パーティ解散するなら分割での処理になります。こっちがおすすめです」


「……持ち帰る」


「女の子、娼館に売るってのもありかと」


「ふざけるなっ」


「というかそういうレベルの話になってんですよ?」


 ぐっと黙った男は踵を返してその場を立ち去った。

 フィランはほっと息をついた。少々、背後が殺気立っていたのだ。


「……フィランは優しい。即奴隷堕ちでよい」


 ちらりと背後に視線を向ければ小柄な少女がつまらなそうにひどいことを言い出す。その隣の女性も大きく肯く。


「そうよね。ナキ追い出すとか信じらんない。あいつもさっさと出ていくとかあり得ない」


「危機管理能力高そうですから、なにか察知したんじゃないですか」


「あたしたちの勧誘蹴って一人旅を決め込むなんて」


 正確には一人と一匹だろうとフィランは思う。

 背後にいた二人とは長い付き合いだ。子供のころに拾って育って、今、冒険者をしている。彼女たちはもう一人加えて三人でパーティを組んでいる。

 フィランも女だけの三人パーティに誘われたら逃げる。ストレスで胃に穴があきそうだ。一見和やかそうで嫌味の応酬などはやめていただきたい。


 彼女たちが話題にしたナキという冒険者は評判がよかった。地味ではあるが礼儀正しく、確実性を重んじる態度がよいらしい。

 僕は臆病なのでと笑っていたことが印象に残っている。

 嘘つけ。と言いたいのを飲み込んで、フィランは愛想笑いをしたことも思いだした。


 冒険者ギルドでブラックリストに記載されるようなヤツである。普通の範囲外だ。記録にある中で、血統により継承されるというスキルをいくつも所有している。誰も見たことのないものや記録にあるだけのものも隠しもしない。


 完全にヤバイ案件だった。慌てず騒がず、珍しいスキルばかりなので人に言わない方が良い、と忠告した当時の受付の対応を賞賛したい。以降なにかにつけて、スキルチェックをさせているが特別待遇とは未だ気がついていないらしい。

 妙にこの地の常識などに疎いことが幸いしたのだろう。ここではそうなんですと力説すれば断ることもなかった。


 その上、ナキの動向は三年より前が存在しない。痕跡を追えない、のではなく存在しないのだ。


 ああ、完全に真っ黒と話を聞いたフィランは遠い目をした。

 異界からの転移者というのは、ごく希に存在する。彼より前に二十年ほど前に大暴れしたのがいたのだ。初動対策を怠って、大事になったのは記憶にある。今はなんでもない顔をして将軍などと言われているが、今でも冒険者ギルドにとってはトラウマである。


 フィランがなぜ知っているかというとナキが所属しているパーティが長く逗留しそうということでギルドマスターが開示した情報だからだ。もちろんギルド職員全員が知ってよいことではない。

 ただ、受付は接触も多く、問題を発見しやすいだろうと知らされたに過ぎない。


 どんな問題児かと思えば、問題の仲裁をしていることや面倒見の良さを発揮していた。異質なのは白猫を連れ歩いていることくらいだ。

 その猫もおかしくて、話を理解しているかのような態度ではある。ただし、とてつもなく可愛い。

 フィランもあの魅惑の毛皮の虜だったのだが、今はいないことが口惜しい。


「クリス様だけでも残ってくれればよかった」


「あんなに貢いだのになにも言わずにいなくなるなんてひどい」


「今どこにいるの?」


「守秘義務」


 国境にいるらしいとはギルド職員の中で噂で聞いていたがフィランは言わなかった。パーティを抜ける手続きやらなんやらをしているときに他国も見て回りたいなどと言っていたのだから信憑性はある。

 えー、とか、教えてよーとか言い出す彼女たちを無視してフィランは次の冒険者の名を呼んだ。

 今日も今日とて仕事は続くのである。

なにも言われていないからといってばれてないわけでもない。

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