彼の秘密(のごく一部)2
「ええとね。スキルってどの程度理解してる? 俺、冒険者とかしか相手してないから一般的認識がよくわかってないんだ」
先ほどの話題から随分遠いところから話が始まった。ミリアは面食らいながらも思い出す。
「熟練すると発生する場合と生まれ持ったものがあるようね。一般的には子供の頃と成人の頃に調べられるくらいかしら。王国内ではそれほど重視はされてないわ」
「レベルとかは?」
「気にする人は気にするけど、って感じかしら。正直、私は調べることすら不敬とか言われちゃう立場だったから。相手に問うのも貴族間ではタブーね」
「え? 便利じゃない?」
「自分の上司より優れたスキル持ちとかね。優秀な爵位無しとか、揉めるらしいわ。
本人の基礎能力の上乗せされるもので、実際の実務についての能力は別とはわかっているのだけど無視し難い要因ってこと」
「……色々しがらみがあって、実力主義にはならないと」
「そう。家族間ですら揉め事になるのよ……。長子が爵位を継ぐということになっているけど、他の兄弟の方が優秀なスキルを持っていた場合、どちらを継がせるとか悩ましい問題よ。
その影響で、長子以外調べない家も多いわ。もったいないとは思うけど、家族間が必要以上殺伐とする必要もないでしょう」
「な、なるほど……。
上位階級は調べないのが一般的なわけね。よく調べられるのが冒険者とか傭兵とか商人あたりなわけだ。兵士とかは?」
「入隊のときには調べられてあちこちに配備されるという話ね。
それで、スキルとレベルがどうしたの?」
今、そのスキルやレベルの話をされたということは、そのなにかでどうにかしたのであろうとミリアは当たりをつけた。何となく察して詳細を聞かないことも出来たが、きっちり聞くことにした。
今後、話をしてくれる機会があるとは限らない。ミリアに限らず、誰に対してもナキはこの話をしたくないのだろう。
「ワケあり特殊スキルを色々持って、ミリアの幻影を重ねて誤魔化してきた」
「騙されたの?」
「ばっちり。単純すぎるんじゃないかって思う」
ミリアはそう、と軽く受け流しそうになって気がついた。
「まって、私の、真似をしたの?」
「……気がついちゃったか」
ナキは項垂れてそう言った。他人の姿をまねるなどというのは規格外ではあったが、それを忘れるほどの衝撃である。
ナキは一般男性である。中身などはさておき、見た目に女性らしさというものはない。仕草も特に女性的とは言えないだろう。
「私が、男っぽいってこと?」
「そんなことないよ。どちらかというと参考にしたのはクリス様の方。あざと可愛いを目指してこんな感じ?」
ナキの姿が揺らいだかと思えば、そこによく知った姿が現れる。柔らかく笑うのは、ミリア自身でも知らない表情だった。
なに? とでも言いたげに首をかしげる仕草は可愛らしいが、ミリアの認識とは大いにずれている。
それに言いようのない恥ずかしさを憶えて両手で顔を覆ってしまう。
「なお、声は別スキルのため声が出ないってふりしたから」
確かに声はいつも通りだった。指の隙間からちらっと確認すれば、一瞬の揺らぎの後にナキの姿が戻るのが見える。
「ミリアの可愛いところ見せるのは大変不快だったけど、油断してもらうにはちょっといい顔してきた。気持ち悪かった。なんか女の人って大変だよね。やらしい視線ばしばし飛んでくるし、油断するとお触りとか無理。ほんっっと無理」
都合の悪いことを誤魔化すように
「……ナキだって」
「え。あ、いや、その。ごめん。気をつけます」
そう言うナキにしても胸元に視線が逗留することくらいあった。少々みっともないと思ってはいるのだが、気にしても小さくなるわけもない。
大変気まずい沈黙が訪れる。このようなときに白猫がいて欲しいのだが、今は不在である。
「……それで?」
「ええと、ミリアが町に残ると思わせといて早朝に町を出てきた。侍女の話については終始否定はしておいたけど、説得するつもりだったようだ。はっきり断ったら、無理矢理連れて行きそうだから完全拒否という態度はしなかったけど。
途中まではミリアの姿でいたけど、町を出てから元に戻ったからそう簡単には捕まらないし、皇女の護衛という名目で入国しているはずだから皇女が戻ったら強制的に帰国になるだろ」
「そうね。長くはいないとルー様も言っていたから大丈夫かもね」
「今後の身の振り方は考えるとしても、逃げ出せたと思っていいんじゃないかな」
それは、別れの時が見えてきたということだ。
「色々、ありがとう。あとはお礼ね。ツテのほうからやってきたから、なにか考えてみるわ」
ミリアとしては引き延ばせるだけ引き延ばすつもりではある。
いっそ、どこかに定住してもらうべく領地などを要求してみてもよい。定住などと贅沢を言わず、帰ってきてくれる場所でもよいのだが。
にこりと穏やかに笑ったはずが、ナキが怯えたようにびくっとしたのが少々心外だった。
「お手柔らかにね。なんつーか、やっぱり怒ってるよな」
ナキがぼそぼそと呟いた言葉は黙殺した。怒っているかといわれるとそれも違う。
少々やる気が出てきたくらいだ。思っていたよりも鬱屈が溜まっていたらしい。ミリアは遠く王宮へ思いを巡らせた。
別に戻るつもりはない。ただし、落とし前はつけさせてもらう。そのくらいは可愛いものだろう。
「たのしみね」




