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婚約破棄された令嬢とパーティー追放された冒険者が国境の隠者と呼ばれるまでの話  作者: あかね
恋人(偽)と一匹

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ミリアの長い一日 3

 ミリアが森を抜け、街道へ合流し何食わぬ顔で町中へ入ったのは夕刻にさしかかった頃合いだった。思った以上に疲れたのは少々の迷子のせいだ。

 聖獣様は方向音痴の傾向がある。激しくはないが、遠回りをさせられたようだ。


 意図的かとも思ったが、本人が気まずそうなので天然ものらしい。


 色々な旅人が行き交うせいか、町中に入るのには苦労しなかった。一人旅の女はいないことはないらしい。

 ただし、だいたいはワケありで身売り同然に歓楽街に身を寄せることが多いと白猫は言っていた。

 ミリアもそちらに行きかけたが、止められた。


「なんのための恋人設定なのかの。ナキは、それは嫌だったから我もつけて路銀もちゃんと渡したであろう?」


 呆れたように言われてしまう。

 そのまま、ある宿を探すように言われる。ミリアは白猫を抱えて、あちこちをうろうろする羽目になった。

 人の住処はよくわからぬと言っていたので、迷子である。どこでも良いのではないかとミリアは思うが、安全と値段のバランスを見ての選択らしい。なにもわからないミリアはそれに従う他なかった。


 疲れ果てて、たまたま入った食堂でミリアが尋ねてようやくその宿の場所がわかった。


 あまりにも疲れていたように見えたからか、店主は開店前の時間であるにもかかわらずミリアを休ませてくれた。

 コップに水を入れて持ってきてもくれた。ミリアは礼を言って口をつける。


「なにをしにきたんだい?」


「いきなり消えた恋人を探しに……。最後の手紙がここで、足止めされてるとか書いてあったので、もしかしてと」


「ふぅん? どういうヤツだい?」


「冒険者で、槍使いで、ちょっと異国風な感じの。えっと、ナキって言います」


 店主に怪訝そうな顔をされた。思い当たる相手がいるらしい。

 僕は目立たないと思うから探そうとするなら冒険者ギルド直行の方が早いよ。なんて言っていたが、あっさり知っている人がいた。


 やっぱりと、ミリアは思ったりもした。たぶん、自認しているところと実体は離れていそうだ。冒険者をやっているのに、そのように見えないところからして既に目立っている。


「あいつが? そういうことしそうにないが、まあ、いい。夕食には早いが食べていきな。

 おや、それはクリス様?」


「そうだと思うんですよ。街道で鳴いてるのを見つけて。どうして、あんなところにいたのかもわかりません。

 似てるだけの別の猫かもしれませんけど」


「うにゃ? にゃにゃっ!?」


「うーん。干し肉食べるかい?」


「にゃっ!」


 媚びている。

 ミリアもちょっと引くくらいに媚びていた。あなた、聖獣なのでは? と思う。


「クリス様のような気がするね。まあ、待ってな」


 笑いながら店主は厨房に去って行く。おいしそうな匂いが漂っていた。

 開店前ということで、店員もおらず、他に客もない。テーブルに明かりを置いていってくれたおかげで明るいが、部屋の隅は既に暗く沈んでいる。


「……どーなの」


 ミリアの足下で毛繕いをしている獣に問いかける。


「うむ? 可愛いは正義であるので、我は可愛がられたいぞ」


 ミリアは曖昧に笑って沈黙する以外に返答できなかった。どう言っても、失礼な物言いにしかならない。


 しばらくして、店主は温かいスープとパン、焼いた肉と野菜をのせた皿を持ってきてくれた。白猫には干し肉を一切れ。

 なんでもない顔をしながら、ミリアは支払いを先に済ませた。実際にお金を使うのはこれが初めてになる。どきどきしながら釣りを受け取り、財布にしまう。

 しばらくの間、ミリアは支払いごとにどきどきするだろう。


 店主はしばらく、白猫と遊ぶ事にしたらしく、近くの椅子に座っていた。

 雑談としてぽつりぽつりと尋ねれば、店主はナキは知っているが、その行方は知らなかった。代わりに冒険者ギルドにでも話を聞きに行けばいいと教えてくれる。


 食事後、なんとか宿屋を見つけた頃には既に日が暮れていた。

 宿屋でもクリス様? と聞かれ、そうだよーと言いたげに白猫はにゃうにゃうと話をしていた。

 ミリアが胡散臭そうに見られながらも泊まれたのはこの白猫の影響が大きいように思う。


「はぁ」


 ミリアは部屋に入りようやく息をつけた気がした。町に入ってからは知らないうちに緊張していたようだ。

 なにはともあれ、町まで抜け出しここまでこれた。この先のことはわからない。

 国同士もどうなるかも。


 すこしばかり落ち着いて考えたいところではある。


「疲れているのだから、さっさと寝るのだぞ」


 寝かしつける気満々の白猫に促され、楽な格好に着替えベッドに入る。

 執務室と私室と会議室を巡るような生活とは全く違う。少し前も部屋の外に出れないような監禁状態。

 それが、山道を歩いたり、町中を迷子になったりとしたのだ。疲れていないわけがない。明日は足が痛そうな気すらしている。靴が合わないということがなかったから血豆が出来ていないのが幸いであった。

 オーダーで作ったはずの靴すら、デザイン重視で痛い目を見たことはよくある。


「明日もよろしくね、クリス様」


「うむ。任せよ」


「おやすみなさい」


「おやすみ」


 優しい声が、小さな温度がミリアを眠りへ誘う。

 長い一日は優しい眠りで幕を閉じた。


「ナキの様子もみてくるかのぅ」


 白猫の長い一日はもうちょっと続く。

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