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188ヘルマン・ヘッセ『シッダールタ』

読んでいただいている方には大変お待たせいたしました。

ここ暫く体調を崩していたことと多忙が重なったことにより大分間が空いてしまいました。

今後はもう少し早く更新できると思いますのでよろしくお願いいたします。

 十月に入っても暑い日は暑い。

 大分過ごしやすくなって秋の空気が漂ってきたけれど、どうせまた暑くなったり、すぐに寒くなったりするのだろう。

 秋はどこへ行った?

 少しうつらうつらと船をこぎながら、そんなことを考え、図書室で栞と並んで座り「やはり悟り……悟りの境地に立たねば暑さ寒さを克服することは出来ない……」とボンヤリしたことを言ったら、栞が「なんですか、仏教にでも興味あるんですか?」と聞いてくる。


「いやね、悟るとなんか全ての苦しみから解放されるーみたいな? 暑さ寒さも悟るまでみたいな? そんな感じかなあって」


「悟りをなんだと思っているんですか、私もよく知っているわけではないですが、輪廻から外れて目覚めた者にならないとだめですよ?」


「目覚めた者かあー……なんか眠いし無理かなあー」


「無理です」


 栞が間髪入れずに突っ込んでくる。


「最初に悟りとか知りたければ手塚治虫の『ブッダ』とかいいですよ。今貸し出し中だから読めませんけれど」


「手塚治虫の『ブッダ』は流石に私でも知ってるよぉ、読んだことはないけれどぉー」


 そうですねぇと考え込みながら栞は席を立つと本棚の奥に消えていき、そして三冊の本を持ってきた。


「まずブッダの言葉を記したという『ダンマパダ』に『スッタニパータ』です。薄いですし面白いですがちょっととっつきにくい部分はあるかも知れないので、ヘルマン・ヘッセの『シッダールタ』から読み進め行くといいかもしれませんね!」


「ヘルマン・ヘッセってあれでしょ? 「そうかつまり君はそういうやつなんだな」のクジャクヤママユの人」


「なんだかボンヤリとした記憶みたいですが、その人です」


「あの人ってドイツ人じゃなかったっけ? ヘルマンってよく分からないけれどドイツ人とかの名前でしょ? 詳しいわけじゃないけれどそのぐらいはなんとなく分かる……かも」


「そうですね、ドイツ生まれですが途中でスイスの人になります。創作はドイツ語で行っていましたね。ノーベル文学賞も取っている人ではあるんですよ」


「へー知らないうちにノーベル文学賞作家の作品読んでたんだ」


「「少年の日の思い出」はインパクトありますよね。ヘッセは学校になじめずすぐに退学して書店員になるも四日ぐらいでそこも辞めちゃって、色々な職業を転々とするのですがどこも長続きせず、最後にたどり着いたのが作家業でした。『ペーター・カーメンツィント』というデビュー作が大当たりして、その後も自分を投影した『デーミアン』や『車輪の下』等で人気になっていきます」


「苦労した甲斐があって人気作家になったんだねぇ」


「はい。でここにとりいだしましたるは『シッダールタ』です」


「シッダールタってお釈迦様の名前だっけ? うろ覚えだけれど。ドイツ人だかスイス人だかがお釈迦様の物語なんて書けるの?」


「それが書けるんですねぇ。ヘッセは祖父の代からの宗教一家で、祖父はインドのケーララ州で聖書をケララ語に訳しキリスト教の宣教師として活動していました。今でもケーララ州はインドでもキリスト教徒が多いようですね」


「へー聖書丸ごと訳しちゃったんだ、すごー!」


 栞は唇の前で指を振って、ふっふっふと不敵な笑い声を上げる。


「ヘッセの祖父はその後、仏教やヒンディー教の聖典をドイツ語に訳してドイツに紹介しています。


「おー凄い」


「またヘッセの父母も宣教師でインドで結婚します、ヘッセ自身もキリスト教徒でしたが、神学校を退学して自殺に失敗した後、『読書について』で読んだショーペンハウアーの『意思と表徴としての世界』の四巻ではインドをはじめとした東洋思想についても触れられており、ここで東洋思想に深く傾倒していくんですね」


「凄い出会い……」


「またロマン・ロランというこの人もノーベル賞作家の人と、母方の従兄のヴィルヘルム・グンデルトという二人に献辞が贈られているんですが、グンデルトは日本で宣教活動をする傍ら、水戸高校でドイツ語を教え、日本の仏教思想や神道について本を書き、ヘッセもこれを読んでいたそうです。グンデルトはその後ナチに入党してしまい、その後のヘッセとの関係は不明ですがそんな東洋思想に浸る環境にあったようです」


「じゃあ下手な日本人よりも仏教とかに詳しいんだ」


「そういうことですね」


 栞は微笑みながら『シッダールタ』をなでる。


「じゃあその『シッダールタ』はお釈迦様の一代記みたいな内容なの?」


「それがシッダールタはシッダールタでも、お釈迦様であるゴータマ・シッダールタではなくて同名の、別人であるシッダールタさんなんですね。彼はバラモンの家に生まれ、見た目も所作も麗しく父について様々な儀式を完璧にやり遂げ、ゴーヴィンダという親友を持ち日々修行に明け暮れていました」


「何か恵まれていそうな感じだね」


「はい。彼は規律をよく守り将来を嘱望されますが、ある時もっと深い所に至りたいと苦行僧の一団に加わり、ほとんど何も食べず、私物を持たず、服も襤褸切れといった生活をするのですが、ある時ゴータマ・シッダルータ、つまり目覚めた人であるブッダの噂を聞き苦行生活を捨てブッダのおわす祇園精舎、ジェータマナ・ヴィハーナというのですがそこにゴーヴィンダと共に赴きます」


「そこでブッダに弟子入りしてその生活が描かれている訳ね?」


「いえ、ブッダ自身はそのシーンにしか登場しません。名前はポツポツとでますが」


「あれ? 何か思ってたのと違う……」


「ゴーヴィンダはブッダの説教にいたく感動し、そのまますぐ弟子になるのですが、シッダールタはブッダと軽く論戦をした後、自分で自分の道を探すたびに出ます」


「あーその修行に明け暮れる毎日が物語のメインなのね?」


「いえ、それがシッダールタは女の色香に惑わされ、商売人に身をやつし、滅茶苦茶に稼ぐのですが、稼ぎを全部宴に使い酒を飲み、命知らずのギャンブラーとしてなを馳せてゆきます」


「凄い堕落している……」


「まあこの経験が後に生きてくる訳なのですが、すべては虚しいと悟った時、また修行の道を探るため全財産を置きっぱなしにして、豪邸を後にします。そして昔お世話になった川渡しの老人のところにお世話になり、川のさざめきと対話することの大切さを教わります」


「川のさざめき!」


「はい、途中ゴーヴィンダがブッダの涅槃、つまり亡くなるところに向かうため川渡しを使うのですが、シッダルータだと言うことに気づき大喜びします。そして自分はブッダについて回った物の未だ悟りの境地に至れないことを嘆きます、シッダルータは川の声を聞けといいます、そしてある時川の声の秘密を知った時老川渡しは森の奥に向かい二度と戻ってきません、ブッダとは違う方法で心の安寧を得たのですね」


「川渡しなんて職業で悟れるの凄いねぇ」


「そしてそこに至るまでに街にいた頃の女がシッダルータの子供を連れてきたり、毒蛇にかまれて亡くなったり、子供が何もない生活に怒りを覚えてどこかへ行ってしまうなど、この間にも色々あったのですが、最後に老境に至ったゴーヴィンダが現れます」


「道は別たれたけれど、やっぱり親友なんだね」


「そこで穏やかな顔をしたシッダルータを見て、これが今生であうのが最後だろうといい、どのようにしてその境地に至ったかという話を聞きます」


「もうおじいちゃんなのか……」


「川の声を聞き、自分の内面に深く潜ることで、心は軽くなり迷いも消え失せたというような話をし、二人は別れここでお話は終わります。ネタバレしてもシッダルータの追体験が出来るのでいい話ですね。多分詩織さんでも二日もあれば読める内容なので是非どうですか?」


「うーんこの薄さならわたしでも読めそう! これ読んで悟りRTAに挑戦してみる」


 栞は笑いながら何ですかそれ? といいながら、わたしに本を手渡してきた。


「面白い試みで二〇二五年の十一月から草薙剛主演で『シッダールタ』の舞台があるのですがこれに『デーミアン』をミックスさせた話なんだそうですね。どちらも光文社個展新訳文庫の酒寄新一先生の翻訳を元に脚本化しているそうですが、ここら辺もちょっとした小話であともう一月ほど酒寄先生が自分が今『シッダールタ』翻訳中なのをたまたま監督に言うのがズレていたら『シッダールタ』の脚本の元は新潮文庫になっていたらしいですね」


「へー面白い小話だね、何かそういう情報あると深く入り込めそう」


 栞はわたしが素直に本を受け取ったのが嬉しかったようでニコニコしながら「じゃあ読んでみてくださいね! 感想会しましょう!」と言ってきた。

 わたしはいつもこの微笑みを見たくて本を読んでいる節があるので、もしかしたら読書としては邪なのかも知れないけれど、まあ楽しかったらいいかと思い、二人楽しく話しているところを想像し、東風にもにこりと笑った。

『シッダルータ』は東洋思想とヒッピー文化が結びつき、LSDの開発者が、使用する前に『シッダルータ』を読むことを推奨していました。

ヘッセは特にアメリカと日本で人気があり、最初『シッダルータ』はヘッセ名義ではなく女性名義で投稿したところ文学賞を受賞してしまって大慌てになったという逸話もあります。

本文に書けば良かったと思ったものの、気が向いたら改稿して投稿し直そうと思います。

それでは今度こそ近いうちにー!

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