1.慣れない朝。
応援よろしく(*‘ω‘ *)
「あ、その……おはようございます」
「あぁ、おはよう。拓海くん」
翌朝、リビングへ向かうとすでにエレナさんが出立の支度をしていた。
これでも執事という役割を与えられたので、朝の四時に起きてみたのだが。大企業の代表という人はやはり、普通の人々とは違う時間で動いているのかもしれない。
「そう硬くならなくていい。キミは執事といえど、客人だからね」
「いえ、そういうわけにはいきませんよ。……立場的に」
「……ふむ、存外に真面目だね。それなら、少し働いてもらおうか」
「働く、ですか?」
エレナさんは俺の態度に感心したように頷きつつ、このように言った。
「私の妹は、ずいぶんと寝坊助でね。この歳になっても、一人で支度するのが苦手なのだよ」
「それはつまり、アリスさんの身支度諸々を手伝えと?」
「話が早くて助かる」
そういうことなら、俺にもできそうな気がする。
食事などはすでに彼女が作っているらしく、必要はないそうだ。
「それでは、健闘を祈るよ」
「はい、いってらっしゃいです」
そんなやり取りがあって、エレナさんは仕事へ向かった。
黒のスーツ姿に朝日を受けながら――。
「……ん、健闘を祈る?」
◆
エレナさんの不穏な一言を気にしつつ、時刻も六時を回った頃合い。
登校時間を考えて、そろそろアリスを起こした方が良いだろう。そう考えて、俺は彼女の部屋のドアをノックした。しかし、おおかたの予想通り反応はない。
朝が弱いというのは、どうやら本当のことらしい。
「鍵は、かかって……ないのか」
なんとも不用心と思ったが、しかし今は好都合だ。
俺は多少の罪悪感を抱きつつもゆっくり、ご主人様の部屋へ足を踏み入れ――。
「……………………」
――絶句した。
なんだろう、この装飾は。
壁という壁に髑髏の面が貼られており、使途不明な棒切れや布が散乱している。やけに大きな壺が部屋の片隅に置かれており、中を覗こうと思ったが勇気は出なかった。
全体的に黒――というよりも、暗という印象の一室。
その中央にあるベッドで、アリスはすやすやと寝息をたてていた。
「これは、どうするか……いや、とりあえず起こすか」
俺は思わず本来の目的を見失いつつも、彼女を起こすことにする。
細い肩に手を置いて、優しく揺すってみた。
「アリスさん、えっと……起きてくださーい……?」
「ふにゅ……うぅ……」
「あ、包まった」
しかし、毛布の中に包まってしまう。
こうなっては少し難しい。だったら多少、手荒だが仕方ない。
「起きてください、アリスさん!!」
「ぴぇ……!?」
俺は思い切り、彼女が抱えている毛布を引っぺがした。
するとさすがのアリスも、微かに意識を覚醒させたらしい。半目の状態ではあるが、こちらを見て頭を微かに揺らしている。目を擦っているから、起きてはいるはずだ。
「おはようございます、アリスさん」
「……あうぅ」
だけども、まだ人語は解せないらしい。
さすがにこれ以上、着替えなどは自分で何とかしてほしいが――。
「自分で着替えられますか?」
「………………」
一か八か訊ねるが、ふわふわとした表情で無言を貫くアリス。
これは駄目か。そう思った時だった。
「…………ん」
「へ……?」
彼女がおもむろに、バンザイしたのは。
「どうしたの、それ……?」
俺は思考停止して、思わず敬語を忘れて訊ねた。
すると、アリスはひとこと。
「ぬがして」
甘えるような口調で、そんなことを言った。
「…………ぶふっ!?」
俺は盛大に吹き出し卒倒しかける。
その気はなくとも、さすがに同い年の女の子を脱がせるなんてできない。というか、この状況下に置かれていること自体が恥ずかしく感じてしまえた。
そのため、こちらは何も言えず口ごもってしまう。
「……ん?」
すると、そんな俺の様子に違和感を覚えたらしい。
アリスは小首を傾げて、改めて目を擦った。
そして――。
「ひゃああああああああああああああああああああああああ!?」
状況を把握したのか、そんな悲鳴を上げる。
俺とアリスの主従関係はこうやって始まったのだった……。
次回更新、たぶん20時くらい。
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