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1.慣れない朝。

応援よろしく(*‘ω‘ *)







「あ、その……おはようございます」

「あぁ、おはよう。拓海くん」



 翌朝、リビングへ向かうとすでにエレナさんが出立の支度をしていた。

 これでも執事という役割を与えられたので、朝の四時に起きてみたのだが。大企業の代表という人はやはり、普通の人々とは違う時間で動いているのかもしれない。



「そう硬くならなくていい。キミは執事といえど、客人だからね」

「いえ、そういうわけにはいきませんよ。……立場的に」

「……ふむ、存外に真面目だね。それなら、少し働いてもらおうか」

「働く、ですか?」



 エレナさんは俺の態度に感心したように頷きつつ、このように言った。



「私の妹は、ずいぶんと寝坊助でね。この歳になっても、一人で支度するのが苦手なのだよ」

「それはつまり、アリスさんの身支度諸々を手伝えと?」

「話が早くて助かる」



 そういうことなら、俺にもできそうな気がする。

 食事などはすでに彼女が作っているらしく、必要はないそうだ。



「それでは、健闘を祈るよ」

「はい、いってらっしゃいです」



 そんなやり取りがあって、エレナさんは仕事へ向かった。

 黒のスーツ姿に朝日を受けながら――。



「……ん、健闘を祈る?」







 エレナさんの不穏な一言を気にしつつ、時刻も六時を回った頃合い。

 登校時間を考えて、そろそろアリスを起こした方が良いだろう。そう考えて、俺は彼女の部屋のドアをノックした。しかし、おおかたの予想通り反応はない。

 朝が弱いというのは、どうやら本当のことらしい。



「鍵は、かかって……ないのか」



 なんとも不用心と思ったが、しかし今は好都合だ。

 俺は多少の罪悪感を抱きつつもゆっくり、ご主人様の部屋へ足を踏み入れ――。



「……………………」



 ――絶句した。

 なんだろう、この装飾は。

 壁という壁に髑髏の面が貼られており、使途不明な棒切れや布が散乱している。やけに大きな壺が部屋の片隅に置かれており、中を覗こうと思ったが勇気は出なかった。

 全体的に黒――というよりも、暗という印象の一室。

 その中央にあるベッドで、アリスはすやすやと寝息をたてていた。



「これは、どうするか……いや、とりあえず起こすか」



 俺は思わず本来の目的を見失いつつも、彼女を起こすことにする。

 細い肩に手を置いて、優しく揺すってみた。



「アリスさん、えっと……起きてくださーい……?」

「ふにゅ……うぅ……」

「あ、包まった」



 しかし、毛布の中に包まってしまう。

 こうなっては少し難しい。だったら多少、手荒だが仕方ない。



「起きてください、アリスさん!!」

「ぴぇ……!?」



 俺は思い切り、彼女が抱えている毛布を引っぺがした。

 するとさすがのアリスも、微かに意識を覚醒させたらしい。半目の状態ではあるが、こちらを見て頭を微かに揺らしている。目を擦っているから、起きてはいるはずだ。



「おはようございます、アリスさん」

「……あうぅ」



 だけども、まだ人語は解せないらしい。

 さすがにこれ以上、着替えなどは自分で何とかしてほしいが――。



「自分で着替えられますか?」

「………………」



 一か八か訊ねるが、ふわふわとした表情で無言を貫くアリス。

 これは駄目か。そう思った時だった。




「…………ん」

「へ……?」




 彼女がおもむろに、バンザイしたのは。




「どうしたの、それ……?」




 俺は思考停止して、思わず敬語を忘れて訊ねた。

 すると、アリスはひとこと。




「ぬがして」




 甘えるような口調で、そんなことを言った。




「…………ぶふっ!?」




 俺は盛大に吹き出し卒倒しかける。

 その気はなくとも、さすがに同い年の女の子を脱がせるなんてできない。というか、この状況下に置かれていること自体が恥ずかしく感じてしまえた。

 そのため、こちらは何も言えず口ごもってしまう。



「……ん?」



 すると、そんな俺の様子に違和感を覚えたらしい。

 アリスは小首を傾げて、改めて目を擦った。

 そして――。



「ひゃああああああああああああああああああああああああ!?」




 状況を把握したのか、そんな悲鳴を上げる。

 俺とアリスの主従関係はこうやって始まったのだった……。



 


次回更新、たぶん20時くらい。




面白かった

続きが気になる

更新がんばれ!




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