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恋人『役』の刺繍令嬢ですが、気づけば王子の最愛になっていました  作者: 星名柚花


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47:王子が家にやってきた

 リース男爵邸に帰ってからも、私は毎日刺繍をし続けた。

 腕が鈍らないようにするため。

 それに、今日は針を握っていないと落ち着かなかった。


「ラディアス殿下がお約束された時間まで、あと十分ね」

 応接間のソファに座ってもなお、しぶとく針を握っていた私は、ベル姉様の言葉を聞いてぴたりと止まった。


 ラディアス様は今日、リース男爵邸にやってくる。

 訪問の目的は、お母様に婚約の許しを得るためだ。


「そうですね。はあ……」

 お母様も緊張しているらしく、深いため息をついた。


「良縁を探してきなさいとは言いましたが。まさかそのお相手がラディアス殿下とは……」

 お母様は新しいドレスに身を包んでいる。

 ベル姉様や私もまた、この日のために新調したドレスに身を包んでいた。

 応接間のカーテンと絨毯は替えた。花瓶も新しいものにした。お茶の葉は王都から取り寄せた。

 ラディアス様をお迎えする準備はできている。

 ……心の準備以外は。


「ユミナお嬢様。そろそろ刺繍はお止めください」

「……そうね」

 観念して、私は刺繍道具一式を侍女に預けた。

 壁際にある柱時計を見れば、時刻は午後二時五十六分。

 ラディアス様の到着予定時刻まで、ついに残り五分を切った。


「なんだか緊張するわね。私の家に王子様が来られるなんて、嘘みたい」

 ベル姉様はソワソワしながら、胸の前で手を合わせた。


「王家と縁戚になれるなんて信じられないわ。ユミナを引き取って大正解でしたね、お母様」

「まだそうと決まったわけではありませんよ、ベロニカ。そもそも私は家のために利用するつもりで引き取ったわけでは……いえ、それはまあ、できれば格上の殿方に嫁いでくれたら嬉しいとは思っていましたが。さすがに王子は格上すぎです。ああ、一体何故こんなことに……」

 痛むのか、お母様は胃のあたりを右手で摩っている。

 

 そして、午後三時の鐘が鳴り響く頃。


「ダフネ様! 王家の馬車が見えました!」

 執事の声が聞こえて、私たちは一斉に立ち上がった。


 やがて、玄関ホールにラディアス様が現れた。

 上質な紺の上着に胴着を纏い、首にはクラヴァットを締めている。

 正装したラディアス様は、神の化身かと思えるほど美しかった。

 キラキラオーラがいつもの五割増しだ。背後に花畑の幻覚が見える。


「はじめまして、リース男爵。先日、手紙にてご挨拶させていただきました、ラディアス・ソード・ダルモニアです」

 ラディアス様は優雅に微笑んだ。


 ――おお……!?

 これは、見たことのない種類の微笑みだわ!

 まるで、セルジュ様に乗り移られているかのよう!


 私と全く同じ衝撃を受けたらしく、ベル姉様も目をぱちくりしている。

 ふと、ラディアス様は私の胸元で輝くガーネットの首飾りを見て、唇の端をさらに上げた。

 新調したドレスも首飾りに合わせて赤色にしたから、身につけていることを喜んでもらえて良かった。


「ようこそいらっしゃいました、ラディアス殿下。遠路はるばるお越しいただき、誠にありがとうございます。さあ、どうぞこちらへ」

 お母様はラディアス殿下を応接間に通した。

 同席を許されたベル姉様はお母様の隣に座り、私とラディアス様は一緒に座った。


 侍女たちが素早く動いて、テーブルにお茶を用意する。

 年若い侍女の手は震えていたけれど、目の前に王子がいるのだ。無理もない。


「率直にお尋ねします。一国の王子であらせられる殿下が、なぜ私の娘を選ばれたのですか? より良い条件の女性を選ぶこともできましたでしょうに」

 しばらく雑談した後で、お母様がとうとう切り出した。


「ユミナ以外の女性は考えられません」

 ラディアス様は話し始めた。

 自分が『魔力過多症』であること。婚約者候補筆頭だった聖女ロザリア様にイルセリ茶を飲まされて死にかけたこと。それを私の刺繍魔法によって救われたこと――私がベル姉様たちに隠していたことを、全て、包み隠さず。


「……『魔力過多症』、ですか。それに、殿下の魔力は国を滅ぼしかねないほどであると……」

 お母様とベル姉様は難しい顔で黙り込んでいる。


「はい。私は不治の病に侵されている身です。正直に言って、宮廷での立場はあまり良くはありません。それでも、ユミナは私を傍で支えると言ってくれました。ユミナの刺繍魔法があれば、私は問題なく日常生活を送れます」

「……では、殿下はユミナの刺繍魔法が目当てで求婚されたのですか?」

 ベル姉様は非難するような目でラディアス様を見た。


 政略結婚が当たり前の貴族の娘として生まれながら、ベル姉様は夢見がちなところがある。

 愛ではなく、魔法目当ての結婚など考えられないのだろう。


「いいえ。ユミナが国一番の刺繍魔法の使い手だと知る前から、私はユミナのことを愛していました。これは嘘偽りのない真実です。たとえもしユミナが刺繍魔法を使えなくなったとしても、私はユミナと添い遂げたいと思っています」

 ラディアス様は真剣な顔で、お母様とベル姉様を交互に見た。

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