40:首飾りを君に
レストランの予約時間までは余裕があったため、私たちはリベラ商会へ足を運んだ。
リベラ商会は大陸各地に支部を持つ大商会。自国の品はもちろん、外国からも多くの商品を仕入れており、大人気のお店だった。
「わあ。久しぶりに来たけど、ずいぶん大きくなってる。商品も前よりずっと多い……」
ラディアス様に続いて入店した私は、興奮しつつ辺りを見回した。
商品棚に所狭しと並ぶのは、王都ではあまり目にすることのない珍品ばかり。
棚の横にも商品が山のように積み上げられていて、思わず目移りしてしまう。
「久しぶり? 誰かと来たことがあるのか?」
私の独り言を聞いていたらしく、ラディアス様が怪訝そうな顔をした。
「はい。友達と来たこともありますし、一人で来たこともありますよ。お母様に引き取られるまで、私は王都の仕立て屋で働いていましたので。このお店で外国製の布や糸を仕入れたりしていたんです。友達と来たときは、雑貨を買ったりしてましたね」
「ああ、なんだ、その頃の話か。驚いた。てっきり、誰かとデートに来たのかと……」
「え? すみません、いまなんと仰いましたか?」
最後のほうは声が小さくて聞き取れなかった。
「なんでもない。ユミナは養父母に会いたいか? 会いたいなら付き合うぞ」
「……いえ。養父母に会っても、どういう顔をすれば良いのかわからないので」
お金で私を売った養父母の顔を思い浮かべて苦笑する。
「いまの私の家族はお母様とベル姉様ですから。関わらないほうがお互いのためなんですよ、きっと。あっ、ラディアス様、見てください、このお皿。色鮮やかで、とっても綺麗。ぱっと目を引く赤色ですね。ああ、やっぱり。珍しい色使いだと思ったら、外国で作られたお皿みたいです」
商品の紹介欄を眺めて納得する。
祝祭日ということもあり、リベラ商会のお店は多くの人で賑わっていた。
私はラディアス様と離れないように注意しながら、お店の通路を進んでいった。
やがて辿り着いたのは、装飾品を扱うコーナーだ。
ダイヤにルビー、エメラルド。
それぞれの装飾品に嵌め込まれた宝石たちは店内の照明を反射し、美しく煌めいている。
その輝きに魅せられて、私は装飾品の前に立った。
「……綺麗……」
でも、本物の宝石を扱っている分、なかなかに良い値段だ。
「デートだからって、あまり浮かれるなよ」と値札に言われているような気がする。
とはいえ、私だって男爵家の娘。大粒のダイヤは無理でも、小粒のダイヤくらいなら買っても許されるだろう。
――あ、この首飾り、可愛い。
私が目を留めたのは、花の形をした首飾りだ。真ん中に据えられた赤いガーネットを小さなダイヤモンドが囲んでいる。ガーネットの色の鮮やかさに目を奪われた。
――えっ、でも、高ぁっ!? そうか、ガーネットの質が良いせいでこんなに高いのね。こんなに綺麗な赤だもの、安いわけがないか……。
「いらっしゃいませ、お嬢様。こちらの首飾りがお気に召されましたか?」
私が首飾りに注目していることに気づいたらしく、リベラ商会の制服を着た男性店員が声をかけてきた。
「えっ、あの――」
大変だわ、買わなければならない空気になったら困る!
こんな値段の首飾りなんて、とても買えない!!
私は逃げるべく一歩横に引いたけれど、男性店員はニコニコしながら近づいてきた。
「いやあ、お若いのにお目が高い! 値は張りますが、大変良い品ですよ。遠く海を越え、フェルデリアから買いつけた極上のガーネットです!」
「いえ、その、ただ見ていただけ――」
無理ですって、こんな値段の首飾り!
いや、男爵家の財力があれば買えるけど、間違いなくお母様に叱られるわ!!
「ああ。彼女が気に入ったようなんだ。試着は可能だろうか?」
私の台詞を遮って、ラディアス様が言った。
――えっ、試着って!?
「もちろんですとも」
男性店員はその手に白い手袋に嵌めてから、ケースの中の首飾りを取り上げた。
「それでは失礼します。少し髪を上げていただいてもよろしいでしょうか」
「はい」
私が髪を持ち上げると、男性店員は優しい手つきで私の首に首飾りをかけ、手鏡を渡してくれた。
「どうぞご覧くださいませ」
「……綺麗ですね……」
私の胸元で光り輝く首飾りは本当に綺麗で、惚れ惚れしてしまう。
「ええ、本当に。まるでお嬢様の瞳を映して生まれた宝石のようでございます。これほど美しく調和する方は滅多におりません。まさに、お嬢様のための一品でございますね」
男性店員は微笑んでいる。
「おれもそう思う。良く似合ってる」
ラディアス様もそう言ってくれた。
「ありがとうございます。でも――」
「値段は気にしなくていい。命を救われた礼がまだだったからな。今日はなんでも買ってやる」
「なんでもって、そんな――」
「いいから、素直に言え。ほしいか、ほしくないか、どっちだ?」
ラディアス様は私の台詞を遮って、じっと私を見つめた。
「…………。…………」
本当に、素直に言っていいのかしら。
ほしいか、ほしくないかって言ったら、それはもちろん――
「……ほしい。です」
俯き加減に、小声で白状する。
私の返事を聞いたラディアス様は満足そうな顔をして、男性店員に向き直った。
「買おう。このままつけていってもいいか?」
「もちろんですとも」
男性店員は満面の笑みでそう言った。




