幕間「神様は打ちひしがれ、手抜きを決めた」
「む……ん……んー?」
純白の世界の中、銀の髪と金色の瞳を持った少女が土塊と向かい合っていた。
肌理の細かな土を積み上げて作られた土塊は、朧気ながら人の形を形成している。
非現実的な世界の中、積み上げられた土塊だけが確かな存在感を放っていた。
恐らく造形に使うのだろう細長い棒切れを握りしめ、土塊を見つめる少女の視線は、あたかも歴史的な芸術家のようだった。
自らの人生、生涯のすべてを燃やして一つの作品を作る。
そんな熱量を感じさせる瞳だった。
「……ん~、ん~」
だが、まるで己の才能の限界に悩むかのように、少女は苦悶の声を漏らしている。
一体、何を苦悩しているのか?
先ほどから迷うように嫋やかな指先を棒切れに添え、トントンとリズムをとるように動かしている。
少女が、行き詰った思考をリセットしようとするように、その絹のように繊細な髪をかき上げ、左手を土塊に沿え直した時だった。
はっとしたように表情の薄い瞳をかすかに見開くと、右手を瞬間的に自分の後方に向かって振り抜いた。
――スパァアン
純白の空間に軽快な炸裂音が響き渡った。
よく見れば先ほどまで棒切れが握られていた少女の右手には、黒光りする銃把が握られている。
振袖のように、長くとられた布地が、遅ればせながら重力を思い出したかのようにはためいた。
どうやら、少女が瞬時に銃を取り出し、発砲したらしい。
――何に向かって発砲したのか。
少女が発砲した先の空間が、じわりと影を滲ませ始めた。
そして、滲みだした影は、どろりとした巨木のような触手を形作ると、ぼたりと力を失ったように落ちた。
ビクリッと一度大きくはねた触手は、それっきり動かなくなった。
ぽとぽとと氷が滴を零すかのように、闇色をした水滴を落としながら、じわじわとその体積を小さくしていく。
「あっ……」
少女は、自らが背後で成した結果は振り返ることもなく、手元で起こしてしまった結果を見つめ慄いた。
「やらかした……」
そこには、頭に当たる部分をごっそりと削り取られた土塊があった。
先ほどまでは、朧気ながらも人の形をしていたが、今では見る影もない。
「今回は……会心の出来……だった……はず」
どうやら、咄嗟の瞬間、なにがしかの能力で土を削り取ってしまったらしい。
少女は、自らの短慮を嘆くように、絶望に満ちた怨嗟の声を上げた。
――しばし、両膝をついて打ちひしがれていた少女は、やがて気を持ち直したように正面を向くと、虚空に再び右手を一閃させる。
すると、その右手には、今度は瀟洒な杖が握りしめられていた。
杖には金地の派手な装飾が施され、一端には花の蕾を象った台座に巨大な赤い宝石が埋め込まれている。
「えいっ」
少女が、可愛らしい掛け声と共に指先で軽く宝石に触れると、あたかも蕾が花開くように台座の花弁が開き、宝石がころりと少女の手元に転がり落ちた。
少女は整った顔をどこか残念そうにゆがめ、握りしめた赤い宝石を、大きくえぐれてしまった土塊へと押し込んだ。
無理やり異物を押し込まれた土塊は、耐えきれないようにぱらぱらとその形を崩していく。
「はぁ……」
少女は淡く嘆息すると、右手に持った石を失った高価そうな杖を、ぽいっとそのあたりに放り出した。
「ほっ……」
気の抜ける掛け声を少女が出すと、土塊が金色の光に包まれ出した。
するとどうしたことか、見る見るうちに土塊は量を変え、形を変えだしたではないか。
軟体生物のように、ぐにぐにと不穏に形を変える土塊は、やがて人の姿へと変貌していく。
金色の光が徐々に収まっていくと、そこにあったのは幼さを感じる全裸の少女の姿だった。
それは、決して人工物などではなかった。
――生み出された少女の姿が特段に美しいわけではない。
――茶けた土からは、どうあっても生み出せない透き通った肌の色。
――確かに血が通っているように見える血色。
――澄んだ光を放つエメラルドグリーンの瞳
そのどれもが確かに生命を感じさせる。
そう、それは人の身である限り届くことのできない、まさしく神の生み出した造形であった――ッ!
「服……忘れてた」
出来上がった作品を見て、少女はただ悲し気につぶやいた。







