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ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。  作者: 弓弦
第四章「ラリカ=ヴェニシエスは何かを見つけた」
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第四十話「――待て、ちょっと、待て」


「――そういえば、ターニャとこうして話をするのも、久しぶりね」


「――はいっ! フィディア様と久しぶりにお話し出来てぇ、嬉しいですぅ! 今もこんな身に余る光栄……」


 ターニャが、キンキンとした猫なで声を上げながらチラリと視線をラリカの方に向けた。その表情は……表情だけは(、、、)天真爛漫(てんしんらんまん)』と言った表情であるが……その本性を知っているからだろうか? 私には瞳が、まったく笑っていないように見えた。


 ――大方、ラリカという地位有る人間に近づけてしめたものとでも思っているのだろう。

 ……こういう手合いは、どこにでも居るものだ。いちいち気にしていては、社会生活など営めるはずは無い。ただ、そう理解はしていても。首元を締め上げられ、苦悶の声を上げたセトの顔が思い出され――正直、不愉快だった。


 不快感から、全身の体毛が僅かに逆立ちかける。

 ――と、ラリカが私をなだめるようにゆっくりと撫でてきた。

 驚いて見上げると、ラリカの紅い瞳が私の事をじっと見ていた。


 柔らかな指先をぴんと伸ばし、私の鼻先にちょんと軽く触れると、そっとマルスの実を私に向かって差し出してくる。


 ……『食べろ』という事だろうか?

 仕方なく、差し出された殻の剥かれたマルスの実を口に含むと、相変わらず甘い果実の様な風味が口内に広がった。その甘さに、自分が思った以上にいらだっていた事を自覚した。一度、こうして意識を逸らされた事で、落ち着きが戻るのを感じる。


 それを見たラリカは、薄く微笑むと二人の方を向き直った。


「ターニャ=ジニスは、フィディア=ヴェニシエスの元で勤められて長いのですか?」


「そうね……もう二年くらいになるかしら?」


「はい。フィディア様ぁ。……ミシェル様付きだった私を、フィディア様がぁ、拾い上げて下さってぇ」


 フィディアとターニャは、二人話を続けていたらしい。ラリカが何気ない様子で二人の関係を聞くと、二人は驚いたように会話を切り、フィディアが懐かしむように答えた。

 ターニャも、フィディアの言葉に同意を示すように満面の笑みを浮かべている。


「……ターニャは元々ミシェル=サフィシエス付きだったものね……ラリカ=ヴェニシエスも昨日ミシェル=サフィシエスとなにか話していたようだけど、彼のことはご存じなの?」


「そうなんですかぁ? ヴェニシエスが? ミシェル様とぉ?」


「……ミシェル=サフィシエスですか……ええ。少しお話ししましたから、存じ上げていますよ」


 ミシェルの名前を聞いたラリカが、酷く微妙な表情を浮かべていた。

 ――おそらく、昨日の会話の内容を思い出しているのだろう。


 内心の動揺を示すように、紅い瞳が揺れた。小さな手が拳を握るようにぎゅっと握り締められる。

 自分を落ち着かせるように軽く深呼吸をして、考え込むように手元のカップを口元に運んだ。


 一口、カップの中身に口をつけたラリカは、落ち着いた口調で口を開いた。


「……ただ、『どういう人物なのか』までは知りませんね……ミシェル=サフィシエスはどういう方なのです?」


「……ターニャ」


 質問を返すラリカを見て、フィディアが促すようにターニャの名前を呼んだ。

 呼ばれたターニャは、水を得た魚の様に生き生きとした表情を浮べた。


「ミシェル様は凄い方ですよぉ! あのお年でサフィシエスとして目されて、しかも、ユーニラミア教徒では一番の遺物研究家としても知られてるんですぅ、最近では『ゴグツの遺跡』の発見もされてぇ――」


「……そういえば、『ゴグツの遺跡』を見つけたのはミシェル=サフィシエスだったわね」


「……『ゴグツの遺跡』というと、例の『死神に魅入られた子』が神威災害を受けたという?」


 ラリカが会話に出てきた単語に興味を引かれた様子で聞いた。


 ――そういえば、確かにフィディアが初めにあったときにそんな事を言っていた。

 それまで恥じ入るように浮かない表情を浮べていたフィディアは、ラリカの事を見返すとこくりと頷いた。


「ええ。七日ほど前になるのかしら? 探索中に遭遇したそうよ。元々、ゴグツの遺跡自体は、数年前に発見されていたのだけれど……ここからではよく見えないわね……あの丘の辺りなのだけれど……」


 何かを探すように身を伸び上げさせたフィディアが、建物の向こうを指し示す。示された方向に視線を向ければ、確かに建物に隠れて見えにくいが丘のような形状が見て取れた。


「ええ。見えますね。……ああ、あそこでしたら私達が滞在している部屋からなら、ちょうどよく見えるかもしれませんね」


「――あら、そうなの。なら良かったわ。……その時、遺跡を発見したのがミシェル=サフィシエスが結成した探索隊だったの。……ターニャは発見の時に立ち会ったのだったかしら?」


「……え、あ、はい……」


「そうなのですかっ!?」


 フィディアの言葉に、研究魂に火がついたかのように瞳を輝かせたラリカが食いつくが、先ほどまでの猫を被りきって胡散臭い様子だったターニャが、妙に歯切れの悪い返事を返した。


「……そうですね。それで(、、、)私はフィディア様付きになりましたから」


 ――なにか、あったのだろうか?


 明らかに精彩(せいさい)を欠いた様子で、ターニャが答える。


 その姿に察するものがあったのだろう。気を遣ったのか、ラリカもそれ以上なにか聞き出せないでいるようだ。ただ、好奇心が抑えきれないのだろう。なにやらそわそわとした様子でターニャに向かって身体を傾けている。


「……タ、ターニャ……ゴグツの遺跡はどんな場所だったの? そもそも、サフィシエスはどうしてあそこに遺跡があると予測していたのだったかしら?」


 急に沈み込んでしまった場の雰囲気にオロオロと慌てた様子でターニャとラリカを見比べていたフィディアだったが、なにか思いついたように明るい声をターニャに掛けた。


 声を掛けられて、周りに人が居ることを思い出したように、ターニャがはっとした表情を浮かべる。

 慌てたようにまた猫を被った表情が顔に貼り付いた。


「もうぉ、フィディア様ぁ……前に言った通りミシェル様は、ずっと遺物研究をしている中で、過去の文献からユーニラミアがあの場所を拠点にしていた時期があると突き止めたんですぅっ!」


 わざとらしく頬を膨らませたターニャが、フィディアに向かって苦言を呈するかのように不満げな様子でいうと、どこかほっとした表情でフィディアが息を吐いた。


「それでそれで、ミシェル様が言うとおりの場所に調査隊――私とミシェル様が行ったら、そこに遺跡があって、中には――」


 そこまで言いかけたところで、何かに気がついたようにターニャが口を噤んだ。


「……中には?」


 ラリカが、怪訝そうな表情で突然口を噤んだターニャに続きを促す。ターニャは視線を泳がせると、誤魔化すようにひどく曖昧な笑みを浮かべた。


「……明らかに、神代(かみよ)の物と思われる遺物が数点手つかずであって……ただ、私達では手出し出来ないものが多かったので……その後は先技研に」


「……そ、それで、確かミシェル=サフィシエスは現在の地位になったのよね? ほんと大した物よ……」


 悔しそうにするターニャをフォローするようにフィディアが言うと、まるで自分が褒められたかのように、ターニャはどこか満足げな表情を見せる。その表情に、フィディアがどこか呆れた様子で笑いを返した。


「……まったく、この子ったら……! ……それに、『大した物』と言えば……貴女もよ? ターニャ。いつの間にか交流していたのか……気がついたら、ユーニラミアの出世頭に、ユルキファナミアのリオンでしかなかった貴女が、『是非に』と付き人として呼ばれているのだもの。あの時は、私もお師匠様も随分驚いたものよ……」


「……そ、それは、フィディア様が、色々教えてくださっていたから……ミシェル様のお話が理解出来たから……」


 フィディアに笑われたのが恥ずかしかったのか、ターニャはごにょごにょと声を小さくしながら、バツの悪そうな様子で歪む口元を隠しながら呟いた。戸惑っているのか、先ほどまでの媚びを含んだ甘えた声ではなく、幾分か彼女の素を思わせる声音だ。


「今回ターニャを預かるときも、サフィシエスからとても大事な従者だと散々言い聞かされたわ……まったく、リオンだった頃は、ここまで優秀な子だとは思わなかったわね」


「そ、そんな……『大事な従者』だなんてぇ……」


 フィディアの言葉を聞いた瞬間。ターニャは今度は耳元まで一気に顔を赤らめた。その姿はとても演技のようには見えない。どうやら、今回は……意外にも本心から照れているらしい。


「……でも、教会史で教えた『彼の法』を再現するために何度も読み上げて覚えてきたり……とても真面目な子だとは思っていたのよ?」


 ぽつりと。懐かしむようにフィディアが呟いた言葉は、恥ずかしそうにもじもじと手を膝の辺りに置いてすりあわせるターニャの耳には届いていないようだった。


 それを見たフィディアが、そっとラリカに身体を近づける。


「……ターニャは、ミシェル=サフィシエスに……その……『ホの字』なの……」


「――ほう? ……なるほど。そういうことでしたか」


 ……直接、『好き』という言葉を使うのが照れくさかったらしいフィディアが、持って回った言い回しでターニャの心うちを伝えると、ラリカも目を丸くしながらにんまりと笑った。


「……良いことではありませんか?」


「……私も早くこの子はミシェル=サフィシエス付きに戻してあげたいの。――だから、今は一旦セトにつけて、実務からは離れて貰っているのよ」


「……なるほど。そういうことでしたか……実は、なぜ、ご友人に自分の従者を?と思っていたのです」


 ――なるほど。ラリカもそう思っていたか。

 実は、私も『なぜフィディアの従者がセトに?』と疑問だった。もしや『公私混同か?』などと勝手な事を思っていたが、どうやらフィディアは彼女なりの気遣いからターニャの身の振りを考えていたらしい。


 ――ただ、ここでもフィディアの不器用さは遺憾(いかん)なく発揮されているらしい点が気がかりだ。


 ……これは、あくまで私の想像に過ぎないのだが、フィディアの気遣いがまったくもってターニャに伝わっていないのではないかと思われた。その結果が、先日のセトへの態度なのだろう。ターニャからすれば、突然実務から離され、主人の友人につけられ。『左遷(させん)された』と不満を抱いても不思議は無い。


「……それに、セトとは昔から良く遊んだのだけれど、今はそういう訳にもいかなくなってしまったから……あの子にも、私以外の友人も作って欲しかったから……」


 バツが悪そうにラリカから視線を逸らし、セトの方を見つめながらフィディアがそうこぼした。ラリカは、はっとしたようにフィディアの事を見ると、どこかうらやましそうに微笑む。


「……本当に二人は、仲が良かったのですね」


「……昔は、毎年ミアヴェルデも一緒に回っていたの。――今は、そんな事も出来なくなってしまったけれど……目の見えないこの子に祭りを楽しませてあげることも、出来ないなんて……」


 それぞれに多少の差はあれど、背負うものがある二人はそろってどこか寂しそうな表情を浮べたまま、照れたターニャが正気に戻るまで、少し離れた場所で横になるセトを見ながら、冷めてしまっているティジュを口に運ぶのだった。



***



「く~ろ~みゃ~あ~っ! ――説明して貰いますよっ! お前だけでユーニラミア教会に行っていたとはどういう事ですかっ!」


「――まてっ、ラリカッ、毛並みをっ、毛並みを逆なでするなっ! 毛繕いがっ! 毛繕いがぁっ!」



 ――夜、私はラリカに尋問を受けていた。


 夕食を食べ終わり、ふうと一息ついていたときだ。お昼に私をよんだときを再現するようにちょいちょいと手招きするラリカに、完全に油断して近づいていった瞬間――捕まった。


 ラリカの、企みごとをしているような表情に、はっとしたのも束の間。両手でがっしりと捕まえられ、全身の毛並みを逆撫でされたのだった――っ!


 そして、夜にこっそりと抜け出してフィディアのいる所に行っていた事を聞き出されているわけである。


 ――というか……


「――ラリカッ! 君は、さっきから絶対に楽しんでいるだろうっ!」


「何を、言っているのですっ! お前が早く白状しないのが悪いのですよっ!」


「――ならばっ、その笑いを、止めてっ、手を、止めたら、どうだっ!」


「……」



「――っ、君は、白状させる気が無いなっ!?」



 ……途中からもはや初めの目的を忘れ。

 ただ私をこねくり回すことに没頭しているらしきラリカに、取りあえず不満を叫びながら、しばらく成されるがままになったのだった。



***



「……それで、なぜ、私がユーニラミア教会に行っていたのか……説明すれば良いのかね?」


 散々いじくり倒され、ボサボサになってしまった毛並みを、ラリカの使っているベッドの上に座りこみ、悲しい気分で毛繕いしながら低い声を出した。


 ……この惨状を作りだした犯人は、(いささ)かやり過ぎたことは自覚しているのか、若干申し訳なさそうに。しかし、随分となにやら満たされた満足げな表情を浮かべてらっしゃる。


「ええ。……本当に、どうしてそんな事をしたのです? ――ああ、逃げなくても、もういじり回しはしませんよ」


 真面目な顔に戻ったラリカが、ベッドの上に並ぶように私の隣に座り直して聞いてきた。


 ――近づくラリカの姿に、先ほどの狼藉(ろうぜき)が脳裏をちらつき、ついつい毛を膨らませながら警戒する。


 そんな私の姿を見たラリカは、軽く吹き出すように苦笑を浮かべた。

 ……どうやら、今度は本当になにもするつもりは無いらしい。

 

 私は、ほぅとため息をついて、隣に座ったラリカを見上げた。


「……なに、本当に大した理由では無いのだ。ただ、『他のミルマル』というのを見てみたくてな」


 ――色々と考えたが、結局の所、この説明がわかりやすいだろう。

 フィディアの様子を見ようとしたと言えば、『なぜフィディアがあそこにいると分かったのか』という話になるだろうし、そうするとセトの説明など色々と厄介な事が出てきてしまう。


 ミルマルが、『他のミルマル』を見に行くというのはそれほどおかしい状況では無いだろう。


「――っ、」


 だが、しかし、気楽なつもりで放った言葉に、ラリカかから返ってきたのは、予想に反して息を飲むような声だった。

 見上げてみれば、はっとしたように目を見開いてこちらを見つめているラリカと目が合った。


「ああ……そういえば、お前はミルマルでしたね……」


 そう言って、ラリカは私の事を膝の上に乗せた。ラリカの膝の上にちょこんと乗せられ、正面からじっと見つめられる。


 ――なぜだろうか? 赤いラリカの瞳が、泣き出しそうに揺らいで見えた。


「――ですが、そうですね……お前も寂しかったでしょう……? すみません。そこは、もっと早く私が連れて行ってあげればよかったですね」


 どうやら、この少女は私が寂しさから、他の『仲間』といえるであろう、同じミルマルの姿を求めて彷徨(さまよ)っていたと思ったらしい。その上で、ミルマルの私を仲間達に引き合わせてやることを失念していた事を悔いているようだ。


 ……考えてみれば、親元を一人離れ。……友人を失い。この少女は誰かが寂しいと思っている事には敏感なはずだ。私の事に気がつかなかったと悔いても不思議は無いのかも知れない。


「いや……そんなことはない。……本当に、単なる好奇心からだ」


 ――だから、中途半端な誤魔化しを行っている立場として。せめてそこだけは否定しなくてはいけなかった。


「――本当ですか?」


「ああ」


 試すように、潤んだ瞳で私の事を見つめるラリカに即答する。その上で、もう一度……今度は、自分でも分かる照れ隠しを含めて口を開いた。


「……第一。……君が、居るだろう」


「……? ――っ」


 一瞬、ラリカは意外な言葉を掛けられたかのように呆けたような顔をした。


 ――しかし、すぐにラリカの瞳に、理解の色が広がっていく。

 ……次の瞬間、ラリカが大きく手を広げてこっちに向かって飛び込んで――っ


「――っ、待て、離っ!」


 ぼふんと衝撃を受け止めるベッドの上で、ラリカが私を抱え込んだままごろごろと転がっている。……相変わらず、感情が高ぶると、人……というか、ミルマルの私を思いっきり抱きしめるのは止めて欲しい。ただ……締め上げられ、ぼうっとする頭の中では、『自業自得』という言葉が浮かんでいた。


「――っと、すみません……」


 数分ほど、抱きしめられていただろうか。ようやく我に返ったラリカが私の事を手放した。

 ……せっかく、さっきまで整え直していた毛並みが、再びボサボサになってしまっている。


「……ひとつ、言っておくがな……」


 ――ラリカから距離を取りながら、思わず自分の身体を見回し……これは、憎まれ口のひとつくらいは叩かせてもらおうと、ラリカに釘を刺すことにした。

 真剣な声をだした私に、ラリカが神妙な顔をして私の方を向き直ってくる。


「……『今の』は、君がなにかというと心配を掛けさせてくるのでな。それどころではないという意味だぞ?」


 ――そう。決して――『ラリカが居るから寂しくない』という意味では無いのだからなっ!

 ……そんな(たわむ)れを、わざと冗談だと分かるように、皮肉めかしてラリカに言う。


 何を言われるのかと(かしこ)まっていたラリカの顔が――じわじわと笑顔に変わっていった。


「……ふふっ……飼われているミルマルごときが飼い主様に向かって生意気ですね! ……ですが、心配しているのはお互い様ですよ!」


「ほう?」


 ……いかにも、演技染みたラリカの言いざまに、私は笑いそうになるのを堪えて先を促した。

 すると、ラリカは『仕方がないなぁ』という風に肩をすくめてみせる。


「――ですが、まあ、仕方が無いでしょう。これでも私はお前の『飼い主』ですからね!ペットと『お互い様』という訳には行かないという訳ですねっ! ……お前に、心配を掛けないように頑張りますよ」


 前半は、明らかな冗談。……だが、微笑みながら告げられた後半は、あくまで冗談めかしてはいるが――ラリカの本心なのだろう。


 ――まったく……そういう所が心配の元だと言うのに……

 また、いらない気負いを背負い込んで、頑張りすぎそうなラリカに頭の痛い思いをしながら、私は口元が緩むのを感じた。


「……『無謀な挑戦』は、あまり、勧められんな……」


「――それは一体っ、どういう意味ですかっ!」


 ――ため息を尽きながら、嫌みがましく言ってみると、ようやくラリカに無邪気な笑みが戻った。その反応を見て、ようやく、今度こそほっと肩から力を抜くことが出来たのだった。


「……まったく、この子は……ほら、くろみゃーこっち、おいで」


 ――ひとしきり、お互いに軽口をたたき終えると、ラリカが私を呼んだ。ピクッと耳を動かして、ラリカの方に注意を向ける。


「……また、なにかするつもりではないだろうな?」


「……もう! 違いますよ。ほら、良いから早くこっちに来なさい」


 警戒して聞くと、心外そうにラリカがむくれた。そのまま、しびれを切らしたようにラリカは身を乗り出すと、がっしりと私の事を掴み上げ、再び自分の膝の上に私の事を乗せる。


 私を片手で掴んだまま、ごそごそと右手を動かしているかと思うと、どこからかブラシを一本取り出した。


「――ほら、毛繕いしてやりますから、力を抜くのです」


「あ、ああ……」


 ――どうやら、先ほどから悲しそうに何度も毛繕いしている私を見て、少々申し訳なく思ったようだ。

 ブラッシングをしてくれるらしい。正直、二度も全身の毛繕いは面倒だと思っていた所ではあったので、助かると言えば助かる申し出だ。


 大人しく、ラリカの膝の上に伏せるように全身から力を抜いて寝そべった。


「――ふふ、良い子ですね」


 微かに、笑う気配がすると、楽しげな鼻歌が聞こえだした。どうやらラリカが歌っているらしい。鈴が転がるような、美しい声音に思わず聞き惚れながら、身体の表面を撫でていく感覚に身を委ね――っ、


「……いや、待て。ラリカ。やはり良い。毛繕いくらい自分でしよう」


 ――正直、今はミルマルとなっているとはいえ、これでも一応は元々成人の人間だった訳である。

 ……なんとなく。ここで流石に毛繕いをされながらニャンニャンゴロゴロと過ごすのは、いささか問題があるだろう。


 人からブラッシングされることに若干の抵抗を覚えた私が遠慮すると、ラリカに再度がっしりと掴まれた。そのまま、ベッドの上にむぎゅっと強く押しつけられる。


「もう、せっかく毛繕いをしてやると言っているのです。大人しくしていなさい」 



 ……抵抗虚しく強引に毛繕いされながら。

 ――静かに、ラリカに新たな友人が出来た夜は、更けていった。



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◆◇◆ ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。 ◆◇◆

「ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。」
◆◇◆                   ◆◇◆

いつも応援・ご評価ありがとうございます。
これからも、お付き合い頂ければ幸いです。

*******↓ 『もうひとつ』の物語 ↓******

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