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第十八話 関東選抜大会


一月下旬。

関東選抜大会(全国選抜予選)が開催されようとしていた。

試合会場は埼玉県の市立体育館。


帝陣東の出場者は、男子はライト級の主将・福山は、ライトウェルター級の二年生の森山、ミドル級に二年生の島田。 女子はピン級の一年生の横内、ライト級の小金沢美鶴という顔ぶれだ。 いつものように軽い階級から試合が行われ、ライト級の福山は判定勝ち、ライトウェルター級の森山は判定負け、ミドル級の二年生の島田は判定勝ち。

そして横内、美鶴の二人も判定勝ちで二回戦へ勝ち進んだ。


翌日の一月二十六日。

ライト級の福山とライトウェルター級の森山、ミドル級の二年生の島田は激闘の末、判定負けで涙を呑んだ。 だが女性陣の横内は判定勝ち、美鶴は3Rに猛攻をかけてRSC勝ちで、決勝進出を果たした。 更に日が明けて、迎えた二十七日。


この日の決勝戦を勝てば、晴れて全国の舞台へ進むことができる。

インターハイと国体を制した神凪拳人は、推薦選手として、三月の選抜本戦に出場することが既に決まっていた。


そしてこの日も軽い階級から試合が行われて、

フライ級の横内は健闘したが、僅差の判定負けで全国の切符を逃した。

そして小金沢美鶴が部員一同の声援を浴びながらリングインする。

美鶴の相手は千葉県の幕割総合まくわりそうごう高校の二年生・吉野。


「小金沢、頑張れ!」

「美鶴先輩、頑張ってください~!!」


観客席から千里をはじめとした部員一同の声援が届いた。

レフェリーが試合前の注意をして、両者は互いにニュートラルコーナーに戻る。

そしてゴングが鳴り、試合が開始された。


序盤から激しいジャブの応酬と打ち合いが展開されるが、お互いに決定打は許さない。

吉野はガードを高くして、基本に忠実な左ジャブをテンポ良く繰り出す。

美鶴は吉野の放つ左ジャブを懸命に躱しながら、左ジャブを打ち返す。

そこから左ボディフックで吉野の脇腹を強打。


ボディブロウが綺麗にリバーに決まり、吉野が苦悶の表情を浮かべる。

思わず仰け反る吉野。 だが吉野も足を使い距離を取る。

美鶴が追い、吉野が足を使って逃げるという展開になり、

試合はややこう着状態になり、一ラウンド終了のゴングが鳴って、

両者共に自コーナーへと戻る。


美鶴は軽くうがいしてから、柴木監督にマウスピースを口の中に入れてもらった。

そして二ラウンド開始のゴング音と共にコーナーから出る美鶴。

吉野は先ほどと同じく左ジャブを繰り出しながら、足を使いリング上を縦横無尽に駆け巡った。 美鶴はその左ジャブをパーリングで弾き、逆に左ジャブを繰り出し、幾度か吉野の顔面を捉える。 吉野はなんとかガードしているが、その表情に焦りが見えた。


美鶴はそこから左ボディブロウを放った。 吉野は咄嗟に右腕をさげてなんとかブロックするが、美鶴は手を休めない。


即座に右アッパーを繰り出し、吉野の顎の先端を強打。

綺麗に決まったアッパーに吉野は思わず、身体を九の字に曲げて、身体を振るわせた。


「美鶴先輩、チャンスです!」


観客席から仲間の声援が飛び交う。 しかし吉野も必死に足を使って逃げ回った。

だが美鶴は吉野の動きを予測しながら、冷静に間合いを詰める。

気がつけば吉野はコーナーに追い詰められていた。 

吉野が「ヤバい!」という感じに目を剥いた。


美鶴はウェイトをたっぷり乗せた右ストレートで吉野の顔面を狙い打った。

吉野は咄嗟にガードしたが、そのガードを突き破り、美鶴の右拳が吉野の顔面を捉える。

パンチの衝撃で吉野はグロッキー状態になり、身体をふらつかせた。


顎を上げマウスピースを口から覗かせて、吉野の眼が虚ろになる。

その時、レフリーが美鶴と吉野の間に割って入った。


「ストップ! 試合終了だ。タオルが投げ込まれた!」


レフリーが鋭い視線で美鶴を見る。 

気が付けば美鶴はレフリーにもたれかかり、左膝をマットについていた。

青コーナーからタオルが投げ込まれたようで、会場がにわかにどよめいた。


「良い攻めだったぞ、よくやった!!」


柴木監督が美鶴の近くに駆け寄りそう呟いた。


「どうもです!」と美鶴は微笑を浮かべながら、そう言った。


そして美鶴はレフェリーに手を上げられて、観客から歓声を浴びて勝ち名乗りを受けた。


「小金沢、かっこいいぞ!」

「美鶴先輩、おめでとう!!」


この勝利によって、美鶴は三月開催の選抜大会の出場権を手に入れた。

こうして帝陣東から拳人以外の選手が全国大会の出場権を得た事は、美鶴本人だけでなく、他の多くの部員に希望を与えた。


――おめでとう、美鶴先輩! あたしももっと頑張るッス!

と、他の部員同様に千里も美鶴の勝利に喜びを露わにしていた。



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