黒幕の化けの皮
遅れて申し訳ありません。
旧墓地。
半ば崩れた墓石と、未だに無事な墓石が乱立する。
通路として置かれていた石板もほとんどなくなっていた。
草木が生え、荒れ果てているその場所は、旧墓地、以外の言葉で言い表すことができない。
実際、アンデッドモンスターに占拠される以前も、ここを利用しているものはほとんどいなかった。
最近まで自然迷宮だったそこは、ボスでもあったゴーレムメイカーがいなくなったこともあって、完全にモンスターの気配一つない場所と化していた。
アンデッドによって、それ以外のモンスターが駆逐されるか、逃亡するのかを選ぶことになり、アンデッドが消滅しても、戻ってはこなかったのだ。
彼らはみな例外なく武装していた。
「それで、何の用かな?カシドラル卿、私をこんなところにまで呼び出して」
「単刀直入にお伺いします」
声の主は、二人。
一人は、まだ十二、三歳程度の、しかして重厚な白銀の騎士鎧で身を包んだ少女。
彼女の名は、ユリア・ヴァン・カシドラル。
聖王都から迷宮都市アルティオスまで派遣された〈聖騎士〉であり、周囲を囲んでいる。
もう一人の声の主は、グレゴリー・ゴレイム。
ユリアと、騎士たちによって囲まれている。
「アルティオスで子供を誘拐していたのは、あなたですね?――ゴレイム団長」
「……どうして、そう思った?」
「ここまでことを大きくしておいて、未だに黒幕がわかっていない。あなたがもみ消しているから、以外に何かありますか?」
「それは決めつけが過ぎるんじゃないのかな?」
「そうですね。では、『愚者の頭骨』立ち入りの件はどうでしょうか。あそこに入れるよう手続きできるのは、冒険者と、国から許可を得ているあなただけです」
「さらに言えば、今回の実行犯は、ギリギリで実刑を免れた犯罪者もどきばかりでした。あなたがかばい、誘拐犯に仕立てたのでは?」
ビンセントと似たような境遇だった。
窃盗、詐欺、恐喝、そういうことをしてきた者たちが、彼の権限で無罪となっている。
そして、その人物全てが今回の件の実行犯だった。
「すべて、憶測だね。根拠が薄弱だ」
「じゃあ、否定してください」
彼女たち騎士にとって、言葉の価値は大きい。
たいていが、【真偽法】を習得している教会関係者なので、嘘をつけばすぐばれる。
逆に言えば、口に出せば本当のことと信じてもらえる。
だから、ユリアは否定するように促し。
ゴーレムの反応は。
「――否定しないよ、事実だからね」
彼女の疑惑を、すべて認めると断言した。
「……っ!」
「【化けの皮】解除、【装着】」
グレゴリーが行った宣言は、二つ。
一つは、今までずっと使ってきたスキルの解除。
もはや、使う意味がなくなったスキルである。
つまるとこと、使おうが、解除しようが、お互いに全く影響はない。
そして、もう一つは、彼にとって、必要なスキル。
防具を瞬時に身にまとうスキルであり、騎士系統など防具に頼る職業のものが獲得することがある。
ただ、「丸一日肌身離さず鎧を身に着けていること」が取得条件であり、持っているものは、グレゴリーを除けば騎士団の中でもそう多くはない。
「……?」
「どうだい、美しいだろう?」
ユリアが困惑して、グレゴリーが誇ったもの。
それは、いましがた彼が纏ったものだ。
それは、先ほどまで纏っていた白銀の鎧兜ではない。
彼がいつの間にか纏っていたのは、禍々しい全身鎧だった。
瘴気のような黒と、血のような赤の二色で構成された全身鎧。
背中は棘の生えた甲羅のようなもので覆われている。
そして何より、ほぼ全身くまなく人の顔のような文様がついていた。
ユリアは気づく。
外見だけではない、ゴーレムの【鑑定】結果さえもが変わっている。
グレゴリー・ゴレイム
職業:〈暗黒騎士〉
レベル:100
「〈暗黒騎士〉、それがあなたの本当のジョブですか。今までよくも周りを欺けましたね」
「ああ、それは私のギフトの効果だよ。【化けの皮】といってね」
「効果は、ステータスの偽装ですか」
「そこまで便利な代物ではないな。人の装備を借りることでその人のステータス表示を模倣できるのさ」
ステータスを偽るスキルは珍しくない。
【偽装】というジョブスキルがある。
〈盗賊〉や〈隠密〉のような斥候系のジョブ、或いは〈詐欺師〉など多くのジョブで取れるスキルだ。
それ自体は【鑑定】のレベルが高ければ暴けるし、そういった隠蔽系のスキルを無効化する【看破】というスキルもある。
しかし、彼のギフトは装備を身につけなくてはならないという大きな制限がある代わりに通常の【偽装】よりはるかに看破しづらいものとなっている。
例えば、〈聖騎士〉のようなきらびやかな鎧を身にまとっていれば、〈聖騎士〉へと擬態できるし、STRなどのステータスもそうなる。
〈呪術師〉のような怪しげなローブを纏っていれば、〈呪術師〉へと擬態できる。
また、名前や状態異常の表示なども、職業の情報に矛盾しない範囲で偽装できる。
ものを媒介しなくては発動しないという条件はある。
そうでなければ人員の多くが【鑑定】や【看破】を持つ聖職者たちを欺くことはできなかっただろう。
ピーター・ハンバートのギフト、【邪神の衣】のように、デメリットを背負ったスキルほど効果が増強されるのはよくあることだ。
「それで、どうするのかな?私が犯人だとして、それで?」
「決まってるわ。騎士として、ここであなたを裁く」
「……なるほど」
いつしか、数名の騎士全員が剣を抜いていた。
そして切っ先は、すべて彼の方を向いている。
「申し訳ないが、対等とは思わないほうがいい」
「こちらのセリフよ。【蒼天の矢】、【セイント・エッジ】」
直後、彼女のギフト――射程の大幅拡張によって近接攻撃が遠距離攻撃となり、グレゴリーに向かって放たれる。
「全員、攻撃!」
「「「「承知!」」」」
〈聖騎士〉が殺到する。
今回の事件を引き起こした黒幕を裁くために。
「―-愚かな」
悪は、ただ一言。
それだけを発して、彼らに相対した。
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