真なる敵は、隠れ潜み、そして遅れて現れる
結局、冒険者というのはそういう連中――リスクを度外視できる者達なのだ。
そうでなくては、死と隣り合わせの世界を渡っていけない。
ピーター達は、【索敵】などの使える二人を先頭に、来た道を戻っていた。
ピーターは考える。
まず、第一に、【索敵】が通用するかどうか。
果たしてその答えは。
「【索敵】に反応ありました」
「こちらも反応あり」
「やはりそうでしたか」
『なあ、どうして見つけれたんだよ?さっきは見つからなかったのに』
「それは違います、ずっと索敵は通じているんですよ」
「どういうことです、か?」
「やっぱり生まれたてでしたか」
索敵が通じなかった理由ではない。
一体なぜ、突然通じるようになったかが重要だ。
あのアンデッドは明らかにピーター達を害するつもりだった。
もし、【索敵】を欺く方法があったのならば、なぜあんな遠距離で解除したのか。
理由は単純。あのアンデッドにはそんな能力はないからだ。
【索敵】が効かない要因がフレッシュゴーレム自身にないから、逃げることができたのだ。
至近距離から奇襲されれば、全滅していたことだろう。
では、どうして索敵に引っかかったのか。
それは、今の今まで存在しなかったから。
そんなモンスターはいなかったのだから、感知のしようがない。
言い方を変えれば、たった今発生したモンスターだったからだ。
「魔力式のアンデッド。人工的に作られるフレッシュゴーレムや、キョンシーの類ですね」
分類としては、ゴーレムに近い。
ピーター自身、知っていたはずのことだ。
――「死体の山ってあった?」
リタは素直だ。
本に、お菓子に、自分の興味が向くものにのみ関心を示す。
だから、索敵も素直。
この場合彼女が興味があるのは、ピーターが探しているものがあるかと、ピーターを害する可能性のあるものがあるかのみ。
それ故に、死体があっても、それは生物ではないし、敵でもないから無視する。
死体の山があっても、日常風景の一つとしか見ない。
それこそ、ピーターに言われるまでまるで思い出せなかったほどに。
つまりいるのだ。
死体の山から、あのフレッシュゴーレムを作り出した何かが。
【索敵】はこちらに敵意を持った生物を見つけるスキル。
ゆえに、「こちらに敵意を向ける生物を作る」だけであれば、【索敵】の対象から外れる。
そして気配を探れば、いずれは出てくる。
「いました!あそこ!」
「見つけた、あちらの方角だ」
リタの高所からの索敵と指差しに従い、ルークとイスナが武器を構えて突撃する。
「きゅいいいいいいいい!」
危険を察して、飛び出してきたのは一体のモンスターだった。
小さなモンスターだ。
ネズミのような外見と大きさをしており、一見したところ戦闘能力があるようには見えない。
しかし、ミーナの目は欺けない。
彼女の【鑑定】で、その正体は露になっているからだ。
「ゴーレムメーカー。ダンジョンに多くいるとされるモンスター、だな」
周囲にある素材を用いて、ゴーレムを作り出し、運用するモンスターだ。
普通は土や岩石からモンスターを作るが……このように死体を素材として作ることもある。
今までフレッシュゴーレムに【索敵】が通じなかったのも当然の話。
あれは、敵意や戦意あるものを探知するスキルであって、「自分とは別のモンスターが、人間を倒してくれるのを待っているモンスター」は対象外なのだ。
だが、ゴーレムが潰され、戦う手段を失ったことで、ルークたちに敵意を向け、【索敵】の対象内となった。
初見殺しもいいところ。
自分で手を汚さず、安全圏からヒトを狩るモンスター。
だが、もうその安全圏はない。
ゴーレムメーカーはゴーレムを作れるものの、すぐさま強力なものを出せるわけではない。
そうであるなら、今頃無数のゴーレムにアルティオスは攻め込まれていたはずだ。
おそらく、強力なゴーレムを作るのには時間がかかり、コストも重い。
そもそもが人間で言えば、戦闘職ではなく生産職に近い立ち位置のモンスターだ。
だからもう、ゴーレムメーカー自身に戦うすべはなく。
「き、きいいいいいいいいい!」
ゴーレムメーカーから、逃走する以外の選択肢はなくなる。
だが、それも無意味だ。
既に詰んでいる。
最強の矛を無力化され、ねらわれないという最大の盾を失った。
ゴーレムメーカーは逃げようとするが、AGIにひいでたルークからはその遅い足では逃げられない。
そして、空を飛翔する矢からも逃げられない。
「【アシッドエッジ】!」
「【ヘビーシュレッド】」
「きゅ」
断末魔を上げる時間さえ与えられず。
即座に仕留められた。倒した。
ゴーレムを作り出した原因を、おそらくは今回アンデッド騒動の元凶を。
あまりにもあっさりと倒すことができた。
相手が弱かった、とは思わない。
一度逃げたことで体制が整っていたこと。
そもそもハルが、尋常ならざる戦闘能力を有していること。
例えば、聖職者のフレンがいることを加味しても、ハル一人でこの場の人間全員に勝ててしまう。
だが、それ以上に。
「やったっすね!ピーターさん!」
「ええ……!」
一番大きいのは、ピーター達だけではなかったこと。
リタが、死体の位置を見つけて。
ハルとフレン、ピーターが、死体から合成されたフレッシュゴーレムを足止めした。
ルークとミーナが【索敵】でゴーレムメイカーの位置を突き止めた。
そして、イスナとルークがゴーレムメーカーを討伐。
誰が欠けたとしても、おそらくは討伐ができなかっただろう。
「すげえな、あんたラ!」
「あ、ありがとうございます。でも、皆さんの協力あってのことですし」
「……いや、作戦立案と援護までしてくれた君たちの実績は大したものだ。尊敬に値する、本当にありがとう」
「ありがとう、ござい、ます。すごいです」
ピーターは、褒められることが少ない。
ハルやリタにしても、常に愛情を注いでいるものの、実はさほど褒められることはない。
加えて、ピーターはその境遇によって、自己肯定感は極端に低い。
同年代の多くの冒険者が、上級職に転職するか、引退して他の職業に就いたりしている。
中、ピーターはいまだ上級職に転職できないまま、冒険者として働き続けている。
そもそも、この国においては、ピーターはいつ殺されてもおかしくないような立ち位置である。
それで、自己肯定感が高くなるわけがない。
ピーターは、だからこそ。
認められるのが、嬉しかった。
ルークたちと、喜びの感情を共有して。
『主様……妙です!このゴーレム、止まりません!』
ハルからの念話で、ピーターの意識が一瞬で引き戻された。
「止まらない……?」
「ぴーたー!あいつふくらんでる!」
「え……?」
頭上にいるリタからの声を受けて、ピーターがアンデッドを見る。
膨らんでいる、というのがどういうことなのか。
ピーターにはすぐに分かった。
文字通り、フレッシュゴーレムが膨れ上がっていた。
先ほどまでの時点で、体長十メートル近い地竜だったハルの倍近い大きさ。
死体で作られた巨人が、更に肥大化する。風船のように膨らんでいく。
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