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エピローグ1 本物の家族

 ピーターが目覚めると、教会のベッドの上だった。

 加えて、全身包帯でぐるぐる巻きにされていた。

 シルキーとレヴィの戦闘が終わった後、シルキーによって教会に運ばれた。

 そのまま、治癒限界が空けたのち、凍結を解除。

 そしてそのままポーションなどを使って回復をはじめた。

 小康状態に達したことを確認し、ミクや教会のものに引き継いだ。

 そしてそれからさらに数時間後、ピーターは目覚めた。

 シルキーが、レヴィを封印してから丸二日後の話である。

 


 目覚めてすぐ、そんなはなしを、ピーターはミクから聞いていた。

 


「そっか……じゃあ、師匠は丸一日、僕の近くにいてくれたんだね……」

「ええ、とても心配そうにしていらっしゃいましたよ」

『……ルーク殿たちも先程まで見舞いに来ておりました』

「そうか……彼らにも迷惑と心配をかけてしまったね。彼らは、怪我はなかったのかな?」

「特になさそうでした、あったとしても、ポーションや回復魔法でどうとでもなる程度だったのかと思われます」

「それなら一応安心、かな?」



 全くの無傷なわけがないので、手放しに喜べないが死んでいないのであればひとまず良しとすべきだろうか。

 何しろあれだけのことがあったのだから。

 ピーターが確認しているだけでも、何十人と死んでいる。

 その十倍はいると考えるべきだ。



「メーアさんと、ヴァッサーさんは、どうなったかな?」

『先程メーアさんがいらっしゃいましたよ。ヴァッサーさんはケガを負っているようですが、命に別状はないとのことです』

「そうか……動けるようになったらお見舞いに行かないとね」



 ピーターとしては、彼らに責任を感じていた。

 直接的に巻き込んでしまった〈猟犬の牙〉はもちろんのこと、ヴァッサーとメーアにもだ。

 あの時、避難所への襲撃に気づけずにヴァッサーとメーアを守り切れなかった。

 それについて、思うところがあったのだ。

 為すべきを為しただけ、全力を出し切ったという気持ちはもちろんある。

 だがそれは、ピーターにとって最善ではあっても最高の結果ではなかった。

 そしてそれは……ピーター以外にとってもそうなのだろう。



「あと、ユリアさんやラーファさん、アランさんもいらっしゃっていましたよ」

「ミク、いったん【霊安室】に戻ってくれないかな?出来れば眠っていて欲しい」

「お兄様?」

「ハルも、できれば眠っていて欲しい」

『承知しました』

「わかりました……何かあれば、すぐに出ますので」



 ハルは、全てを理解して黙り込んだ。

 ミクも、理解はできないが、周囲に脅威がなさそうなのを確認してから【霊安室】に戻った。

 そして、個室にはピーターだけが残された。

 だが、すぐに【霊安室】から一体のゴーストが飛び出してくる。

 黒いおかっぱの髪、白い少しだけ透けた肌、白いフリル付きのワンピース。

 リタである。彼の最愛の人である。



「ごめんね。怒っているかい?」

「…………」

 


 返事は、無い。

 彼女は、浮いたままピーターの方を向いていない。

 臀部がピーターの方を向いているが、さすがの彼も今は発情している余裕はなかった。

 ピーターは、【降霊憑依】をレヴィの前で解除してからの記憶がほとんどない。

 伝聞で、ミクから聞いた話を鵜吞みにしただけだ。

 けれど、覚えていることもある。

 誰よりも大事な人が、ボロボロの彼を思って泣いている声を聞いた。

 ピーターは、自分の命に価値を見出していない。

 彼自身は、いつ死んでも構わないと思っているし、思ってしまう。

 だが、その一方でピーターは自分以外の誰かが自分の命を大切に思っていることを知っている。

 それは、友人であり、仲間であり、恩人であり、師匠であり……家族である。

 つまり、ピーターが傷つくことは彼女にとって相当な精神の負荷である。

 今回は特に、リタから再三反対されたうえでの戦闘への参加。そのうえで、またも意識不明になっている。ましてシルキーが一瞬でも遅れればピーターは〈神祖〉に殺されていたはずだ。

 彼女が、ピーターを思えばこそ、今回の一件で怒っても無理から泣ぬ話だと思った。



「ぴーたー」

「何かな?」

「おこってない?」

「……なんで?」

「わたしの、せいだから」



 ピーターは、なぜにと考えて思い当たることがあった。

 彼女との融合の反動が、ピーターを瀕死にまで追い込んだことだ。

 【降霊憑依】の反動は、アンデッドの魂が穢れていることに由来するのである意味では彼女のせいと言えるかもしれない。

 過去にも一度だけあったが、あれはあの場で使わなければ死んでいた。

 今回は、極端な話、使う必要がないのに使った形だというのもあるのかもしれない。

 あるいは、二度見たことで、一度目の記憶がフラッシュバックしたのかもしれない。



「わ、わたしのせいでぴーたーが、いなくなっちゃったらどうしようって、おとうさんとおかあさんみたいに!」

「リタ」



 無理やり、体を起こす。

 少しだけピーターより高い位置にある彼女の背中にそっと手を置く。

 触れることは出来ないが、リタの方はピーターの感触と体温を感じているはずだ。

 


「ありがとう」

「え?」

「一緒にいてくれて、ありがとう。一人にしないでくれて、ありがとう。隣で戦ってくれてありがとう、それと泣かせてしまってごめん」

「な、なんでぴーたーがあやまるの?」 

「リタ、今回僕がボロボロになっているのは、僕だけのせいじゃないし、君のせいでもない。テロを仕掛けた〈神祖〉の責任だよ」

「そう……?」

「そうだとも、だからかわいい顔を見せてくれないかな?そうしてくれたらすぐに回復できる気がするんだ」

「もう、ぴーたー」



 目を泣きはらして、紅くなった顔を向けてきた。

 本当に、回復したような気になった。

 まだ引っかかっていることはあったけど。



「ぴーたー、どうかしたの?」



 一瞬ごまかそうかどうか迷ったが、隠し事をすべきではないと思った。



「……いや、本当の家族、偽物の家族と言われたのが引っ掛かっていてね」



ラーシンは、言った。そんなものにすがっている自分に、何も意見されたくはないと。

 〈神祖〉もそんなことを言っていた。

 ピーターにとっては、本当の家族のつもりだった。

 けれども、気づいてしまったのだ。

 今日、彼等を助けようとして、化け物と呼ばれて傷ついて。

 彼らを、父や兄を家族だと思っている自分に気付いてしまった。

 家族に捨てられ、孤独をさまよう青年。

 家族を守るために肉体を捨て、家族と離れた一頭の竜。

 家族と決別し、新たに寄る辺を見つけた一人の少女。

 そしてーー何より、家族を探すためという理由で青年に半ば騙されたように連れ出された少女。

 偽物と言われても、仕方がないのかもしれなかった。

 父たちの代用品としてリタたちを無意識に利用しているのではないかという恐れがあった。

 あるいは、今回無茶をしたのはそれから目を逸らすためか。



「ぴーたー」

「……?」



 ピーターは、ふと顔を上げる。

 眼前ではふよふよとリタが浮いている。

 彼女の表情は、困惑や怒りではなく、疑問。



「ぴーたーは、りたのことすき?」

「愛してるよ!」



 間髪入れずに言った。

 そこは当たり前だ、当然だ。

 ピーター・ハンバートにとってそれは考えるよりも前に口と心が叫ぶことだ。



「じゃあ、はるとみくは?」

「好きだよ」



 家族だ。ともに時間を過ごし、様々なことを語り、何でもない日常を過ごし、時に窮地で背中を任せた。

 大切な存在だ。疑う余地はない。



「りたはね、おとうさんとおかあさんがすき」

「……リタ」



 リタの両親は行方不明だ。

 ピーターは内心では、リタの両親は死亡しているのではないかと考えている。

 水のように蒸発してしまっている。

 そういうケースは客観的に考えれば死んでいるか……死ぬよりつらい目にあっているか、だ。

 何かしらの痕跡すら出てこない。

 アルティオスで調べても、国外で資料を見てもなおまるで分らなかった。

 何かしらの特殊能力を持ったネームドモンスターか、あるいはそれに類する何かが原因であると思われた。



「りたはおとうさんとおかあさんがだいすき、ずっとだいすき」

「……うん」

「でもね、ぴーたーのこともすきだよ?だってかぞくだもん」

「あ」

「おとうさんも、おかあさんも、はるも、みくも、ぴーたーも」

「りたにとっては、みんなかぞくだよ」

「あ……」



 単純な話だ。

 どちらかではない。

 どちらも本当の家族のはずだ。

 当たり前の、話だった。



「だから、ぴーたーも、おなじだよ」

「でも、あいつらは僕のことなんて」

「おにいさんは、ぴーたーとはなしたがってたよ?」

「…………」



 そうだった。

 ピーターの兄は確かに、あの時ピーターを呼び止めた。

 「化け物」ではなく、他人でもない。

 家族として、呼び止めた。

 父にしても、そうだ。

 ラーシンと戦う時、確かに助けたのはあの父だった。



「あのね、ぴーたー。りたはちかおうとおもいます」

「?」

「ぴーたーが、このさきどんなつらいことがあっても。あたらしくかぞくがふえていっぱいしあわせになっても」



 気配を感じて、顔を上げる。

 気配の正体は、リタの右腕。

 彼女の右手が、ピーターの頭の上に置かれている。

 触れているわけではない。

 彼の頭の上で、なでるように手を動かしているだけ。

 体温は伝わらない。

 触覚も、何も感じない。

 けれど、確かに熱はあるのだ。

 ピーターの心臓が、眼頭が、心が、熱を帯びている。



「りたが、ずっととなりにいてあげるから」



 目の前には、穏やかなリタの顔があった。

 普段の無邪気な顔とは違う。

 本心から、ピーターを大事にして、慈しむ視線だった。

 涙が、あふれて止まらない。

 顔が熱くて、愛おしくて恥ずかしくて、リタの顔をまともに見られない。

 リタにこんな顔を見せたくない。



「リタ、リタ!」

「だいじょうぶだからねー」



 そのまま、うずくまったまま涙を流した。

 そのままずっと、リタになだめられたまま泣き続けた。

 傷が完全に治ったら、兄に会いに行こうと、思いながら。

三章本編は完結です。

が、あと二話だけ余談が続きます。

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