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鍵を閉じて、幕は下りる

「【鬼血創操】!」



 シルキーと、レヴィの戦い。

 最初に仕掛けたのは、レヴィの方だった。

 流した血を糧に、無数の長槍を錬成。

 それが、すべてシルキーへと飛来するが。



「【海星障壁】」



 彼女の眼前に出現した、無数の盾によって阻まれる。

 青く、星空のような障壁の盾を出したのは、ラピスラズリ。

 完全に相手の槍を防ぐと同時、細かい粒子のようにまき散らされた血液も防いでいる。



「【ライトニング・ジャベリン】ーー十四連」

「【ダイヤモンド・ストーム】」



 そして、シルキーは、攻めに転じる。

 ダイヤモンドダストを含んだ竜巻で、相手の動きを封じながら削るペリドットのスキルと、相手を串刺しにしつつ感電させるシルキーの技。

 相手が再生力の高い化け物であっても、動きを止めるための手法。

 普通なら回避できない攻撃は、本来見事であるというほかないが。



「ふんっ!」




 彼女は、自分の体をバラバラに飛散させて、拘束から逃れる。

 そして、少し離れた地点からまた修復が始まる。

 それが、彼女の切り札の一つ。

 すでに、この街で彼女が幾度となく使っている技であり、”邪神戦争”でもこの手と、最後の切り札(・・・・・・)を用いることによって幾度となく封印を免れている。

 彼女の強さは、そこにある。

 


「【鬼血創操】!」



 彼女は、再び槍を展開する。

 それは、再びラピスラズリの張った障壁に激突して。

 障壁に、()が入った。



「ーー」



 微かに、シルキーの表情が変わる。

 見れば、少しだけ槍の形状が変わっている。

 より鋭く、よりねじくれた、貫通力に秀でた形状である。

 さらに、彼女は次々と槍を放つ。

 百、千、あるいは万の槍を打ちはなつ。

 物量戦、それこそが、彼女の戦術。



「死ねば、それで終わり。死ななければ私は終わらない」



 死ななければ、いつか勝てる、倒せるという戦術。

 刃海戦術というべきか、血でできた刃が彼女に殺到する。

 障壁に罅は入り、砕けていく。

 ラピスラズリが再度障壁を展開していくが、それも追いついていない。

 槍が、彼女に殺到し、その中の何本かは回避できずに彼女の肌に傷を作る。

 槍に塗られた液状の血液が、毒として彼女の体を侵食し始める。

 回復をする暇も与えず、彼女はさらなる攻撃を受け続ける。

 凍らせ、障壁を張り、雷を放つ。

 しかし、それを超える血と海の武器が殺到する。



「参考までに訊いておくけど、君のレベルは確か200くらいだったよね?すごいすごい、強い強いね」

 


 にやにや笑って、彼女はシルキーに向かって言葉を投げかける。

 そこには、賞賛の意はまるでない。



「ああ、ちなみにだけど私のレベルは500くらいだよ」

「…………」



 その言葉に、シルキーはわずかに顔をゆがめる。

 これほどまでにレベル差があるのは、純粋に年月の差だ。

 シルキーも、長寿種族でありかなり長く生きているが、〈神祖〉は恐らくはそれ以上。

 不死不滅の超級職であるがゆえに、寿命を気にする必要がなかったということだろう。

 また、市のリスクを一切考慮する必要がないためレベル上げに対して無茶もできてしまう。

 これが、彼女の強み。

 絶対に死なないし、絶対に尽きない。

 そういう戦い方、シンプルゆえに隙がない。

 攻撃の出力からしてシルキーと互角かそれ以上。

 守りを精霊に一任して攻め続けてもなお、それ。



「馬鹿だよねえ、人間って。弱いよねえ、人間って本当にみじめだ」



 へらへら笑って、彼女は言葉をつづけた。



「師弟揃ってさあ、そんなこともわからないなんて」

「……は?」



 シルキーの口から、初めて言葉が漏れた。

 同時に、こめかみに青筋が浮かぶ。

 それに気づいているのか、あるいはいないのか。

 レヴィは、飄々としたまま話し続けている。

 勝ちを確信したからかもしれない。



「何しろさあ、アンデッドを、人の死骸を家族とか言っちゃう痴呆だよ?師匠のレベルが知れるね。人は死んだらそれで終わりだし、だからこそゲームは楽しいんじゃないか」



 彼女の哲学。

 人は死ねば終わりであり、たやすく死ぬからこそゲームとして成立する。

 超級職は、何かに到達したもののみが至れる境地。

 ある意味、彼女も頂点へと至ったものではある。

 外道の頂点ではあったが。



「ここまで、ね」

「そうだね、まあそこそこ頑張ったんじゃないかな?それなりに楽しめたよ、ありがとうね」



 後は、もはや【神千霧】を使うだけ。

 余裕だ。



「三分」

「うん?」



 シルキーが、一言をつぶやいた。

 レヴィは、その言葉の意味を理解できなかった。

 



「アンタが、攻撃を始めてからそれだけ立ったわ」

「そうなんだ、結構短かったね」



 レヴィは気づく。

 いつの間にか、近くにいたはずのピーターがとリタがいなくなっている。

 戦いの最中、風の魔術で逃がしたのだ。

 レヴィは悟る。彼女は、本気ではなかったことを。

 そして、もう本気で戦う準備ができたことを。



この子(・・・)は、ちょっと手加減が苦手だからね。ピーターはもちろん、私達まで焼きかねない」



 いつの間にか、彼女とラピスラズリ、そしてペリドットの体を雪の結晶のような模様をした障壁が覆っていた。

 氷魔法と障壁魔法の複合であり、これから行う余波に耐えるためだ。

 



「守るだけじゃ――」



 勝てないよ。

 そう言おうとして、言えなかった。

 口が、消えたから。

 いや、違う。

 口を、目を、耳を、鼻を。

 肉を、骨を、皮を。

 すべてを失っていた、いや違う、失われていた。



 いつの間にか、彼女がいた場所には、一つの()ができていた。

 赤と緑で構成された、四枚の何かによってできた一つの球体だった。



「よく頑張ったわ、ガーネット」

「よかた」



 シルキーは、傍らにいる一体の精霊に声をかけた。

 ガーネット。

 蛾のような姿をした精霊であり、火山灰をつかさどる。

 その羽は、毒の灰と、実体のない熱量で構成されている。

 その四枚の羽を用いて、熱と毒の灼熱地獄を作り出す【死産の繭(アンチ・バース)】。

 余波だけで、すでに街を覆う結界は壊れている。

 普段、ガーネットを使わないのはその尋常ならざる火力と、火力の調節ができないことにある。

 ピーターを逃がしてよかったと、シルキーは心底安堵した。



「さて、さっさと消さないと、余波で町が滅びかねないわね」

「ーー」



 再生力を火力が上回っているため、今はレヴィは動けない。

 血肉をまき散らそうにも作った傍から焼き消えるのではどうしようもない。



「ひとつだけ、言っとく」

「ーー?」

「こそこそ隠れて、安全地帯から人の屍を踏みつけて嗤う」



 紫色の瞳が、まっすぐに繭を、その中にいるレヴィの魂を捕らえる。



「そんなクズが、私達(・・)を語ってんじゃないわよ!」

「ーー」



 シルキーは、鍵を向けてそう吐き捨てた。

 不死身の体に頼り切り技も碌に磨かず、何の罪もない人を傷つけることしかできない者が。

 自分達に、精霊に、そして弟子に敵うはずがないだろうと断言したのだ。

 つまり、単純な話だった。

 一対一では、レヴィが格上。

 だが前提としてこれは、多対一なのだから、そんなことに意味はないのだ。

 それこそが、女王の戦い方なのだから。 

 シルキー・ロードウェルの王道なのだから。



 熱と毒で、レヴィの肉体は消滅している。

 それでも意識だけの状態で、彼女はまずい、と悟っていた。



「その灼熱地獄で、無限に滅び続けなさいーー【国外追放】」



 彼女の言葉と同時、鍵をひねる。

 繭がぐにゃりと、捩れ始める。

 それは、魔杖ロードウェルのスキルの一つ。

 彼女から一定の範囲内の、一定の大きさの空間を、丸ごと作り出した異空間に追放するスキル。

 女王の支配する国から、追放するがごとく。

 決まってしまえば、自力での脱出は不可能。



「二度と出てるな、外道」



 捩れは、ほんの一瞬。

 繭は、がちゃりという音を立ててどこかに消えた。

 それが、決着だった。

 



 『百万滅尽』計画、未遂。

 死者、四百八十五名。

 負傷者、多数。

 〈神界師〉、戦闘不能。

 〈剣舞王〉、戦闘不能。

 〈高位拝魔師〉、行方不明。

 〈白波法師〉、死亡。

 〈大火消〉、死亡。

 


 そして、首謀者である〈神祖〉レヴィ・マリーブラッド封印。

 これが、このテロの結末であった。

 

これにて、決着です。

次回よりエピローグに入ります。


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[一言] さす師匠 壊れも壊れですね
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