燃え盛る城の前で
(そろそろかなあ)
敵の攻撃をさばきながら、〈神祖〉レヴィ・マリーブラッドはそう考えていた。
味方である眷属たちはほぼ全滅した。
吸血鬼の長こと〈神祖〉である彼女の本質は支配。
ゆえに、彼等の生死を把握することなど造作もない。
生きているものも何人かいるが、戦える状態ではない。
そして、彼女が彼等を助けることもできはしない。
彼女に出来ることがあるとすれば、血の流れを暴走させて彼等を破裂させることくらいだ。
それゆえに、眷属たちは彼女に逆らうことは出来ない。
ラーシンなども、彼女に表向き賛同しているようで、内心は彼女の理想にまで賛成しているわけではなかった。
というより、彼には彼なりの別の理想があったというべきか。
(さっさと王城へ向かうとしよう。もう、あそこを守るものはいないはずだし)
ラーシンが万の悪魔を投入したことで、王城は既に壊滅状態。
彼女としても、ダニエルとアンバーを振り切るのは難しいかなと思っていたが、すでに連携が崩壊しかかっている今ならば可能だ。
【神千霧】の発動には、一定時間集中する必要があり、そのためには誰もいない場所に逃げる必要があった。
加えて、高台に作られていた城は、これから殲滅する人々を見下ろせる場所でもある。
「【鬼血創操】」
彼女は、両手の出血から、長大な棒を錬成して彼女自身を吹き飛ばす。
さらに、ここでは終わらない。
「【鬼血創操】」
棒を体に食い込ませて出血させ、回転する風車型の刃を錬成してまたしても切り刻む。
その二段構えによって、肉片は遠くまで飛散し、彼等を完全に振り切った。
ーーはずだった。
「見つけたぞ!〈神祖〉オ!」
「あれえ?」
だから、ピーターに王城で追いつかれた時は、困惑した。
◇
「それで、どうして俺達は王城へ向かっているんですか?」
ルークがピーターに訊いてきた。
それは、ラーシンを倒して、標的である〈神祖〉を見つけた時のこと。
彼等を視認していたピーターは、しかしてそこに加わることを選択しなかった。
むしろ、彼等とは少し離れた場所、王城を目指して移動を開始した。
「理由は二つあります。一つは、騎士団側との連携が不安なことです」
「……そうなのか?」
「そうです」
服装が目立つので、遠目に見てもわかる。
今は騎士団と聖職者たちが連携して〈神祖〉と戦っている状況だ。
そこに、アンデッドを連れたピーターが突入すれば、連携が乱れるのは避けられない。
最悪、彼らがアンデッドを使うピーター達を敵だと思い込んで襲ってくることだ。
少なくとも、彼等と協力して事に当たるのは難しい。
それは、アンバーも同じだ。
精霊の思考回路を読むのは難しい。
またアンバーが、こちらを攻撃してこないという保証は、どこにも存在しない。
「なので、僕たちは騎士団たちを振り切ろうとする〈神祖〉の動きの先を読んで、先回りして仕掛ける以外に選択肢はありません」
「……あそこには、ユリアもいるが、それでも連携はできないのか?」
〈狩人〉のミーナは、【望遠】のスキルで、より遠くをよりはっきりと見通せる。
それゆえの助言だったが。
「それでも、確証が持てません。やはり、ここは僕たちは僕たちで動くべきだと考えます」
「わかったっす。俺達も腹をくくるっすよ」
ピーターが、どういう扱いを今まで聖職者たちから受けてきたかは、彼等も知らない。
聖職者たちが、ピーターにどのようなことをするかは予測できない。
だから、ピーターを信じた。
「あ、あの、二つ目、は?」
「二つ目は、場所がなぜ王城なのかという説明になります。これについては、推測を多分に含みます」
「ここまで、彼女はかなり血を流していました。すでに、霧を使うには十分であるはず。それにもかかわらず、まだ使っていないのは恐らくためが必要なスキルなのでしょう。ならば、引き離してどこか人のいない場所でスキルを使おうとするはず」
今この瞬間も燃えている王城も、その候補の一つ。
加えて、広域の物体を操るならば、街の中心部にあたる王城でスキルを使う方が効率もいいはずだ。
さらに言えば、彼女の性格から言って、高いところから虐殺の光景を見下ろしたいとも思うはずだ。
なので、おそらくは王城だろうというのが彼の推測だった。
反論は、無かった。
彼らは、恩人であり友人であり、最大の功労者であるピーターを助けると決めていたから。
結果的には、彼は〈神祖〉の思惑を看破していた。
そして、見事に彼女と相まみえることに成功した。
「おやあ、新たなお客さんかなあ?」
(ただの血気盛んな冒険者かな?それなら全然いいんだけど)
レヴィは【鑑定】を使えない。
〈吸血鬼〉系統は様々な固有のスキルを保有しているが、【鑑定】や【目利き】のような汎用性のあるスキルは使えない。
独自性の強い職業には、よくあることだ。
なので彼女には、彼等のレベルやステータス、職業を判別することは出来ない。
せいぜいで、あたりをつけるのがせいぜいだ。
(年齢からして多分下級職、〈暗殺者〉、〈司祭〉、〈剣士〉か〈戦士〉、〈狩人〉か〈弓手〉、そしてアンデッドを連れているから〈降霊術師〉かな?)
実際には、全員上級職だが、問題ない。
彼女にとっては誤差の範疇だ。
彼女は、おそらく足止め目的の編成であると考える。
アンデッドのドラゴンスケルトンがタンクであり、〈暗殺者〉や〈狩人〉の状態異常スキル、〈剣士〉に抱えられた〈司祭〉が周りをサポートするといったところか。
彼女を足止めし、拘束するのが狙い。
時間を稼ぎ続ければ、ネームドモンスターの対処へと向かった〈天騎士〉も戻ってくるかもしれない。
そもそも、あまりレヴィ側に時間が残されていない。
もう十分に血はまき散らした。
あとは、【鬼血創操】ーー【神千霧】による毒霧散布を行うだけだ。
ゆえに、彼女は狙いを悟られぬよう不規則に飛び回りながら、じわじわと円形の都市の中心部に向かっていた。
バレるなど、考えもしなかったが、実際にはバレている。
とはいえ、彼女は冷静だった。
「まあ、とりあえず行っといで」
「「「「「「うおおおおおおおおおおお!」」」」」」
彼女の意志に呼応し、たまたまそばにいた、強化された眷属が殺到する。
「ハル!ミク!」
『『承知!』』
【霊安室】からミクとハルが飛び出して眷属たちに応戦する。
そこに、〈猟犬の牙〉も加わる。
「リタ!」
「オッケ―」
「「【降霊憑依】!」」
「ははあ!私の相手は君かなあ!楽しませてくれよ?」
「安心しろ、その笑顔は歪めて砕いて吹き飛ばす!」
ピーターとリタが、融合する。
相対するは、このテロの元凶であり、災厄にも等しい災害、〈神祖〉。
今日この日、ハイエンド内部における、最後の戦いが始まった。
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