刻々と迫る
ピーター達が、ラーシンとの戦闘を終えていたちょうどそのころ。
ユリア・ヴァン・カシドラルは〈神祖〉と相対していた。
手足を切り落とされたユリアだったが、彼女は、彼女たちは避難所で〈大司教〉や手の空いていた王族たちによって治療され、傷を治していた。
そして、回復したものの中で、まだ心が折れていないものは戦線に復帰することになった。
ユリアは、正直心が俺かけていた。
封印しようとして、それがあっさり破られたからだ。
何より、閉じ込められていた王族貴族が救出され、超級職が動き出した。
もはや、彼女の出る幕はないのでは、という思いがあった。
超級職の異常性は、そして何より圧倒的な力は、物心ついた時からよく知っている。
それこそ、山を砕き、川を干上がらせることすらたやすい生ける災害。
巨大怪獣決戦の場に、自分が加わっても無駄ではないのか。
敗北が、彼女の足を縛っていた。
〈大司教〉が、愚痴をこぼしていたのだ。
愚痴をこぼすこと自体は、別に気にしない。
王都でこのような犠牲者を多数出すテロが起きたのだ、誰でも弱音の一つくらい吐きたくなるというものだろう。
だが、不満を彼が抱いた対象が問題だった。
彼は、こういったのだ。
ーーアンデッド使い風情が、生意気な。
それを聞いて、ユリアは思わず〈大司教〉の胸ぐらをつかんでいた。
直後、彼女は彼を投げ捨てて避難所を部下とともに出た。
間違いなく、ピーターだ。
【邪神の衣】のことは、彼自身から聞いて知っている。
ありとあらゆる聖属性魔法を完全に無効化する効果であり、つまりは結界を無効化できる。
〈神界師〉が、王族たちを閉じ込めていたという話も聞いている。
彼なら、結界に閉じ込められていた人たちを救えたはずだ。
いや、救ったのだ。
だから、〈大司教〉の言葉を聞いた時、彼女の感情は喜びと怒りが混在していた。
ピーターが、友人が英雄的な活躍をした誇らしさと、まず間違いなく生きていることに対しての安堵。
そして、そんな友人を目の前で侮辱されたことへの怒りと、より強い怒りの八つ当たり。
(ピーターが、これだけ頑張っているのに、私は何をやっているの)
国を守るため、死力を尽くしてきたつもりだった。
だが、敵は圧倒的で、自分達は弱かった。
けれど、彼はいる。
戦って、人を助けた。
もしかしたら、まだ戦っているのかもしれない。
もしもそうであるなら、立ち止まったりはできない。
ここで立ち止まっては、あの日の誓いが無意味になるから。
ピーターに、ゴレイムの件で助けられた。
あれは本来、自分達で片付けるべきことだったはずなのに。
また、優しい彼に重りを背負わすというのか。
それを、許容などできない。
だから、彼女は、立ち向かう覚悟を再び決めた。
守るべき人を守ることが、騎士の務めだから。
◇
「【蒼天の矢】、【セイクリッド・エッジ】!」
「んー、んっんっんっ【鬼血創操】」
彼女にとっては、最高の一撃。
魔力を練り、タイミングを計り、ためを作ったこれ以上ない程の攻撃。
殺せずとも、隙は作れると思っていた。
だがその一方で、〈神祖〉はにこにことしたまま、余裕。
両掌を爪で切り、流した血で刃を複数錬成。
その刃が、全て彼女自身を切り刻み、斬り飛ばす。
さらに、まき散らされた血で戦槌を錬成し、バラバラになった体をさらに粉砕。
「くっ」
「怯むな、包囲を」
騎士たちが包囲しようとするが、肉片や血飛沫を全て防げるわけがない。
ごく小さな、それこそ指で摘まめるような極小の肉片。
それが急速に膨張し、骨が、皮が、臓器が、肉が、髪が構成されていく。
さらに、服も再構成した。
三秒とかからずに、肉片からレヴィが復元される。
「おやおや、本当に他愛ないねえ」
「くそっ!」
「――下がれ」
声がした。
その声と同時、剣が、手甲が、兜が、馬車が、あらゆる呪具が殺到する。
「甘いねえ」
へらへらと笑って、彼女は手から出した血で棒を作り出し、彼女自身を背後へと飛ばす。
それを予測して、その背後に術者が呪具を配置しており、禍々しい形をした紫色の短剣が彼女に突き刺さる。
「ふう、ん」
呪具の効果によって、彼女の動きが鈍る。
騎士たちも、その隙に周囲を結界で取り囲む。
だが。
「温いねえ」
彼女の体からあふれた血が、人の背丈ほどもある巨大な風車を作り、回転。
そのまま、彼女を両断した。
直後、呪具が刺さったままの方は放置され、刺さっていない方が再構成される。
「弱い弱い、そんなものでうひいっ!」
「黙れ愚物が」
「あらよっと」
彼女が、両手で大剣を錬成。
一本ずつ持った大剣を、無造作に振り回した。
ただし、彼女自身にではなく、騎士たちに。
「ぐぼあっ!」
「ああああああああ!足があああ!」
「くそっ!いったん退け!」
足を斬られたもの、首を斬られてこと切れたもの、家屋という足場を崩されて落下したものなど様々だ。
ダニエルが、呪具を飛ばして牽制したことで、総崩れにはならなかったが、それでも半分が戦闘不能になった。
「まずいな」
〈夜天騎士〉ダニエル・ブラックハイドは彼女を見ながらつぶやいた。
超級職である自分や、腕利きの者達が寄ってたかってなお、彼女を仕留めるには至っていない。
〈精霊姫〉は、いまだ結界の外であり、〈魔王〉とも合流できていない。
(このままだと、【神千霧】を防げない。使われる前に、奴を止めなきゃならねえのに)
実のところ、彼等とてある程度彼女の狙いは読めていた。
なぜならば、王国もレヴィと戦った記録を残しており、手の内もある程度われていたからである。
血液を霧状に変質させ、散布して世界を猛毒地獄に変える彼女の広域殲滅用の切り札、【神千霧】。
【鬼血創操】を、彼女が発展させたものであり、”邪神戦争”で、数多の兵士や戦士を骸に変えた最悪の術。
彼女の血液は猛毒であり、実際、血液を直接浴びたものは次々と倒れ、〈司教〉らの回復魔法でまた戦線に復帰するということを繰り返している。
彼女には遠く及ばないが、不死性という意味では騎士団も相当だ。
魔力が尽きない限り、彼等の命が尽きることはまずありえない。
攻撃力の低いレヴィ相手ではなおさらだ。
だが、負けていないかったとしても勝っていなければ同じこと。
いずれ、膠着状態が破られれば、彼女は毒霧を散布する。
そうなれば、必死で治療に当たっているものも、治療を受けているものも、そうでないものも全て死ぬ。
回復魔法も、聖水も追いつかない。
そもそも、どちらも枯渇寸前なのだから。
だから、彼は焦っていた。
彼等は焦っていた。
「あはは、あはははははは!楽しいねえ!もうすぐだあ!」
そして、彼女は笑っていた。
◇
「あそこですね」
そんな彼らを、視界に認めた一行があった。
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