その皮を、剝いだ下には
「【ハルバード・スマッシュ】!」
先に仕掛けたのは、ピーターの方だった。
ピーターが、地面に槍をたたきつける。
衝撃とともに、土煙が上がり、ピーターの周囲を覆い隠す。
ラーシンの視界から、ピーターの姿が消えた。
これでもう、ラーシンはピーターの姿を捕らえれらない。
(と、見せかけて本命の仕掛けはあのオッドアイの少女の方だね)
ラーシンは、ピーターの戦闘スタイルをおおむね把握しつつあった。
今まで一度もピーターが戦っている様子をまともに見たことがなかったが、今日の様子で理解した。
(オッドアイの少女と、リタの幻惑で隙を作り、ピーター君が一撃を叩き込む。そういう手しか使わない、使えない)
ピーターは、搦手と奇襲しか使えない。
基本的に、格上と戦ってきた経験が多い。
そもそも格下であればハルが一体で片付けてきたため、格上以外と戦う必要がなかったピーターにとって、そういうやり方しか頭にないのは無理もないことであった。
だが、奇襲は使われると見破られれば、その方法を見抜かれれば意味を失う。
すでに、彼の手の内は一度目の交戦ですべてを見切っていた。
ハルの純粋な白兵戦。
リタの幻惑と、屋内限定で作用するスキル。
オッドアイの少女の、浮遊と硬化のスキル。
ある意味同類のラーシンは、ピーターという男の在り方を見切っていた。
彼の本質が、強者打破であること。
ハルやミクが倒すか、あるいは逃げるかできる程度の敵とは戦わない。
必要な時しか、逃げられない強敵としか戦わない。
初見殺しで格上の力を出させず潰すしかないからだ。
「【インフェルノ・フラワー】」
ラーシンは、デーモン・アーティラリーと融合したことによって獲得した腹部の口から、十の炎弾を放った。
炎弾はひとつを除いて、彼の周りを漂っている。
そして、一つはふわふわと漂ったままとある家屋に突っ込み、爆裂。
家屋を、二つ吹き飛ばし、粉々に砕いた。
(浅いね……)
ラーシンのつけているモノクルは、【鑑定】のスキルがついており、竜骨の人型が、リタが擬態したそれであることを見切っていた。
あれは囮。
本人は、どこかにいるはず。
ミクの念動力を使い、別角度から奇襲するはずだ。
そして、ラーシンには、その位置もわかっている。
炎弾を展開させつつ、一か所だけ不自然にならない程度に隙を作った。
ちょうど、ラーシンの真後ろ。
そこに、ピーター本人が来るはず。
隙をついて、攻撃を行おうとするはず。
先ほどの戦闘であの形態の強度は見切った。
後は、ギリギリ死なない程度の火力でカウンターを見舞うだけ。
それで、終わりだ。
(ここだ!)
ラーシンは、百八十度後ろを振り返り。
「【ラスト・キャノン!】」
発射口から吐き出すのは、チャージを必要とする最大火力の一撃。
少しだけ、攻撃範囲を広げるように、ピーターを殺しきらないように調整していた。
これで、決まった。
そう考えて。
「隙だらけだ」
ラーシンは、背後から斬りつけられた。
「が、あああああああああ!」
そのまま、吹き飛んで地面に転がり落ちる。
背中が切り裂かれ、火球に突っ込んで爆発する。
「く、お」
「いっ、ぎ」
ピーターも無事ではない。
擬態を解除しているリタの隣に、ピーターはいた。
ただし、外骨格がはがれて、血を全身から流した状態で。
「馬鹿な……」
ラーシンは、ピーターが何をしたのか理解した。
理解したうえで、理解できなかった。
ピーターは、竜骨体そっくりに擬態したリタの中に入ることで、その中に紛れていたのだ。
しかし、全く同じサイズでは、少しのずれでもラーシンに気付かれる。
であれば、方法は二つに一つ。
一つは、リタ側のサイズを大きくすること。
しかしそれもまた、見抜かれてしまうリスクをはらんでいる。
であれば、もう一つの方法を使うしかない。
すなわち、ピーターが、小さくなればいい。
(馬鹿な馬鹿な馬鹿な、自分で自分の外骨格を剥いだのか?奇襲するために?煙幕を張ったのは、それを見られないようにするため?)
降霊憑依によって作られた肉体には痛覚がある。
皮膚と外骨格を失い、痛覚は全身から危険信号を発している。
それでも、彼は止まらない。
痛みも、出血も、格上との勝負も彼を止める理由にはなり得ない。
ラーシンは、ピーターのことをほとんど理解しきっていた。
だが、一つ計算違いを起こしていた。
それは、覚悟の度合い。
家族とともに生きる、その願いを実現したいと平穏を願う、平和主義者でありながら。
自分の身を切る、否、裂く覚悟があまりにも極まりすぎていた。
◇
ピーター・ハンバートについて。
ピーターへの評価は、人によって異なる。
悪い物から、良いものまでさまざまだ。
悪いものはともかく、良いものについては多種多様だ。
ユリア・ヴァン・カシドラルは、優しいが、優しすぎるという評価を下した。
ルークという冒険者は、穏やかであるがどこか危なっかしい人だと思った。
ラーファは、変人だが、家族や友人などのつながりを大切にする人物と評した。
アランは、トラブルに巻き込まれやすく、怪我をしやすい子供だと思っていた。
シルキーは、格上を前にしても折れない心を評価した。
ミクは、弱者に寄り添う、聖人だと思っていた。
ハルは、約束を守る律儀な人だと思っていた。
リタは、家族を愛してくれているを嬉しく思う一方、ピーター自身の悩みなどを共有してくれないことを不満に思っていた。
自分なんて、どうなっても構わない。
それが、ピーターの本質だ。
家族に捨てられ、リタを自分の存在意義であるとした彼は、自分の傷に鈍感だ。
家族の分体が破壊されても動揺するのに、回復できない自分の体の傷には無頓着だ。
痛みを感じていないわけではない。
痛みを感じてそのうえで、それがどうしたと思っている。
大切な人が、あるいは無辜の弱者が、つまりは他人とは思えない人たちが傷つくくらいであれば。
それで、ピーターの心が傷つくくらいであれば。
体が傷ついても、構わないと本気で考えている。
彼自身の安全を、尊厳を、命を、軽く考えている。
だから、あっさりと
つまるところ、ピーター・ハンバートの本質を多くの人は誤解していた。
彼は、自分の願いを「家族とともに生きること」と言っていた。
それは間違いでもないが、完全な正解でもない。
彼の心からの願いは。
「どうして、そこまでする?」
ラーシンは、血を吐きながら、痛みに顔をしかめながら問いかける。
「この国にいる連中なんて、大抵は君を差別してきたクズ共だ。どうして、君が守ろうとする?」
ラーシンには理解できない。
いや、彼の在り方はほぼすべての人間には理解できない。
人は己の命を、尊厳を、理想を、人格を価値観の上位に置いている。
その一般的に、最上位に置かれるべきものを最下位に置いているのが彼である。
「……ない」
「え?」
ぼろぼろで、もはや彼には余力がない。
本来、もう戦えるような状態ではない。
だから、初めて本音が出た。
ピーター・ハンバートの行動原理が。
「一人で、死にたくない」
それが、彼がここで戦う理由だった。
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