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避難所にて

 ここは任せた、とアランに言われた以上、冒険者たちはもう何もするつもりがない。

 王族たちを保護して、避難所である聖堂に逃げ込むことになった。

 そこでは、〈大司教〉が治療を行っていた。

 


「猊下、ご無事で何よりでございます!」

「うんうん、ありがとうね」


 

 気やすく、気楽に、あっさりと彼の魔術で重傷者をいやしていく。

 回復魔法は、時間経過によって大きく効果が減衰する。

 ゆえに、傷を負った状態で避難所に運ばれてきた患者には、もはやすでに回復魔法の効き目は薄い。

 だが〈大司教〉は、例外である。

 〈大司教〉は回復魔法に秀でた〈司祭〉系統の超級職である。

 彼の使う超級の回復魔法は、〈司教〉や〈司祭〉のそれとはわけが違う。

 ゆえに、ある程度時間がたっても彼ならば治すことができる。

 今、彼はあちこちの避難所を移動しながら、怪我人に回復魔法を施している。

 重症や致命傷を、軽症クラスまで下げることができている。

 


「ひとまず、何とかなったみたいっすね」

「そう、だね」



 ピーター達も、避難所の一角で座り込んで休んでいた。

 何しろ、全員満身創痍である。

 マルクスと戦ったピーターとリタは言うまでもないが、それ以外も決して無事ではない。

 ハルとミクは、〈大火消〉レイドの余熱から〈猟犬の牙〉をかばい、全身が焼けただれている。

 ハルもミクも、半ば炭化している。

 【降霊憑依】すれば戦えるだろうが、そうでなければ本来の力の半分も発揮できないだろう。

 ミクに至っては、もう杖による障壁とはるためにMPさえも枯渇しており、本当に戦えるような状態ではない。

 後ろにいた〈猟犬の牙〉も、回復魔法やポーションで回復してはいたものの、軽症ではありえない。



「死ぬかと思ったよ」

「ほんとーにそう!」

「同じくっすよ。生きてることが信じられないっす」

「ピーターさん、が、助けてくれたん、ですね。ありがとうございます」

「い、いえ。僕ではなく、皆さんを助けてくれたのは師匠ですよ」



 少なくとも、ピーターの主観ではそうだった。

 彼は、何もできていない。

 彼等を助けたのは、あくまでシルキー・ロードウェルの力だった。

 炎鬼を倒したのは、あくまでアラン・ホルダーだった。

 それが誰が何と言おうと揺るがない彼の価値観であった。



「……それは、違う。ピーターじゃなければ、〈神界師〉の結界は攻略できなかった」

「そうだナやっぱり、お前のギフト強すぎんだロ」



「お兄様、すみません。杖を壊してしまいました」

「ああ、そうなんだ。あとで、師匠に謝らないとね」



 【蒼天の杖】は、シルキーが作ったものだ。

 愛着はあったが、ピーターにしてみれば、あくまでもの。

 ゆえに、あっけらかんとしていた。



「おいおい、結構高いものだったんじゃないのカ」

「否定はしませんけど、貴方たちに死なれるよりはよほどマシですからね」

「…………」



 あっさりしすぎていて、ルークたちは押し黙ってしまう。



「お疲れさまですわ、皆さん」



 いつの間にか、彼等に近寄っている人影がいた。

 緑色の髪と、瞳、エルフであることを示す尖った耳。

 腰から、モンスターケージを下げている。

 〈竜師〉ラーファ・ホルダーであった。

 少し服や髪が汚れているが、特に怪我をしている様子はない。



「ラーファさん、ご無事だったんですね。……他の方は?」

「大丈夫でしてよ、ドラゴンは無事です。ただ、おじ様が傷だらけですわ」

「ジョージさんが?」



 ピーターは、激しく動揺した。

 顔すら知らない相手ではあるが、一応は知り合いではある。

 ゆえに、傷ついているというのは見過ごせなかった。



「ああ、大丈夫ですよ。〈大司教〉の回復が間に合ったので、今はゆっくり休んでいます」

「それは良かった」

「よかったねー」



 ピーターは、追加情報に安堵した。

 彼の回復魔法ならば、ピーター以外はたやすく治せる。

 逆に言えば、この場において彼が一番重傷だった。

 それを確認すると、ピーターは出口の方へ(・・・・・)歩き始めた。

 


「おい、ちょっと待って」

「どこいくの?」



 彼らの呼びかけに、ピーターは回答する。



「外に行きますよ、まだやるべきことが残っているので」

「ちょ、ちょっと待ってくださいお兄様!」

「?」



 ミクに呼び止められて、ピーターは振り向く。



「今のお兄様の現状を把握されていますか?もうとっくに治癒限界が近いんです!少しの傷でも重症に発展する恐れがあります!」

「そうだね」

「死ぬかもしれないんですよ。あとはもう、シルキー様にお任せしたほうがいいのでは」

「それはできない」



 ピーターは力強く、断言する。

 まだ終わるわけにはいかないと。 



「僕は、まだやれる。やらないといけない」

「まだ一つだけ、やるべきことがやりたいことが残っている」

「ラーシンさんと会う」

「……何のためですか?主様」

「ご忠告申し上げますが、あの方は言葉では止まりません。そういうものの目です」

「わかってる。それでも、行くよ」

「どうして?」



 リタが尋ねた。

 リタは、普段何も考えていない子供のように見られることが多い。

 けれども違う。

 彼女は考えていないわけではない。

 失敗すれば反省し、ピーターを含め大切な人に何かあれば心配し、ピーターが無茶をすれば叱ることもある。

 今、彼女が何を思っているのかはピーターにもわからない。

 読み取れない、穏やかな表情でリタはピーターを見つめていた。

 それはあどけない顔でありながら、同時にピーターには聖母を連想させた。



「どうしても、理解したいことがあるから」

「……りかいしたいこと?」

「話し合うとか、説得するとか、それができないのはもうわかっている。そんな話し合いでどうにかなる相手じゃない。それは、わかり切っている」



 もう、店長と店員という関係性ではいられない。

 街を守る冒険者と、街を壊す虐殺への加担者である。

 ゆえに、出会えばもう潰しあいしかない。

 改心も、和解も期待はできない。



「今まで知らなかったんだ。あの人のことを、全然わかってなかった。わかっているつもりだったのに、同類だと思っていたのに」



 ただそれでも、彼を理解したい。理解していなかったから。



「だから、なんであの人があんなことをしたのか理解したいんだ。リスクは多いし、リターンもないかもしれないけど」 

「わかった。じゃあ、いこう」

「奥様、それはあまりにも……」



 ハルも反対している。

 ピーターのダメージが深刻だからだ。

 そしてさらに言えば、ラーシン以外と衝突することも恐れている。

 それこそ、〈神祖〉と戦うことになるかもしれない。

 


「ぴーたーは、みくやはるがしんぱいしてることもわかってて、それでもいきたいんだよ。だったら、わたしはてつだうよ」

「……わかりました。我々も、お供します」

「同じく」

「ちょっと待った」



 そんな声が、ふとピーターの耳に入った。

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― 新着の感想 ―
[一言] うぽつです 後書き誤字ってますよ
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