氷結と嵐の女王
すみません。今回短めです。
「随分、無茶したみたいね」
シルキーは、ぼろぼろのピーターを見てため息を吐く。
幾度もの戦闘で、体はボロボロだ。
既に治癒限界が近く、ポーションももはや意味をなしていない。
MPも枯渇しかけており、疲れて息も絶え絶えである。
ただ、それでも彼の眼だけは目的を果たした達成感と、彼女を見たことの喜びにあふれている。
そんな彼を見ていて。
「舐めるな!」
いつの間にか、〈神界師〉が無数の攻性結界を展開。
射出する。
一発一発は軽微であるものの、いくつも飛来すればそれは脅威となりえる。
MPに余裕がなかったが、もうそんなことは言っていられない。
「【蒼星障壁】」
邪属性結界を、魔法障壁で受けとめる。
ピーターに飛来したものも、シルキーを攻撃したものも、あっさりとすべて粉砕し、防ぎきる。
「さてーー」
シルキーは、周りを見渡していた。
彼女とピーター達、そして〈神界師〉以外が動いていないことを確認した。
結界の効果で彼らが停止していることを、認識した。
「それは……」
いつのまにやら、シルキーが手に鍵を持っていた。
漆黒、闇で作られたような禍々しい鍵。
否、それはただの鍵ではない。
「ピーター、アンタにはまだ見せてなかったわね」
シルキーの手の内は、概ねピーターは把握している。
使役化にある四体の精霊の能力や、【戴冠式】などの彼女が編み出した魔術、〈精霊姫〉という職業のスキル。
多くの、打ち明けるべきなのか疑わしいほどの情報を、彼女はピーターに開示している。
それは、彼女の信頼でもあり、同時に信頼を置いたものには甘くなりすぎるという欠点でもあった。
だが、彼女が打ち明けていない切り札が二つある。
一つは、半ば自爆技に近いもの。
コストとリスクが大きすぎるゆえに、まず実践で使うことがないため、ピーターにも言わなかった。
そして、もう一つは、実戦で使いうる切り札だから。
十賢など、身内にも伏せている札であるがゆえに、教えることができなかった。
それが、この鍵。
否、鍵などではなく。
「私の武器。ーー魔杖・ロードウェル」
杖。
それは、あらゆる魔法職の武器であり、盾であり、切り札。
「ーー【解錠】」
彼女が手首を九十度ひねると、がちゃりと音がして。
【無刻結界】が砕け散った。
ついでに、黒い殻も砕けている。
何十人もの腕利きの騎士や冒険者が壊そうとして、あまりの強度に崩せなかった壁。
それを、たったの一撃で、ほんの片手間に壊してしまった。
「ーーな!」
「ありえない!空間そのものに干渉する魔道具など」
「ありえるわよ、私を誰だと思っているの?」
魔杖ロードウェルの特性は、空間の支配。
結界をねじ切り、破壊することができる。
ピーターは気づいた。
壊れているのが、殻と【無刻結界】だけではないということを。
頭上の、ハイエンドを覆う結界の上部にも、大穴が空いていた。
「こんなことが、あるはずが」
「結界であろうと何であろうと、私は”女王”よ?私に支配できないものがあるわけないじゃない」
「貴様!」
シルキーは、〈神界師〉を放置して、一人の男の方を向く。
「ここと、あの老害吸血鬼は任せたわ。私は、あのボケを始末する」
「心得た、こっちは任せろ」
アランと、シルキーが何やらやり取りをしている。
その内容は、単純なもの。
このテロをーーどうやって終わらせるかという会話である。
「おやおや、私とやり合う気ですか?」
「そうね、勝てないでしょうね。アンタの領域では」
シルキーは、いつの間にか隣にいた、ペリドットに触れながら宣言する。
彼女の、切り札の一つを発動するために。
「【戴冠式】」
直後、彼女の体が変質する。
深緑をベースとしたそれは、彼女がペリドットと融合した姿。
深緑の、それでいてカラスの羽を連想させるようなつやのあるドレス。
鳥を連想させるような、緑色の仮面。
手に持っている扇もまた、鳥の羽でできている。
見た目だけで言えば、仮面舞踏会に出ようとしていると言われても違和感はない。
だが、彼女が纏う冷気と発する怒気を感じれば、そのような感想は出てこないだろう。
「【ダイヤ・バースト・ストーム】」
彼女の宣言と同時に、〈神界師〉を中心に、竜巻が吹き荒れる。
吹きすさぶ竜巻は、〈神界師〉を吹き飛ばし、天井の結界の大穴から外へとはじき出していく。
「ぬう……」
〈神界師〉が顔をゆがめている。
結界で防御したものの、まさか自分の領域の外に出されるとは想定外だったのだ。
彼の領域、都市を覆う結界内部であれば、全てが彼の支配下であり制圧するのもたやすかった。
だが、それはこのようにして
「ふう。確かにその圧倒的なパワー、素晴らしいですね」
【戴冠式】は、適性を一極集中させながら、精霊と融合するスキル。
それゆえに、出力は超級職の比ではない。
だが。
「それ、いつまで持つのですかな?せいぜい十五分といったところでしょうか」
「…………」
図星であった。
そもそも、融合合体スキルは消費が激しい。
加えて、出力を上げるためにさらに消費が上がっている。
彼女の膨大なMPであっても、そこまで長時間は維持できないのだ。
「ならば、それまで凌ぎ切ってしまえばいいわけだ。言っておきますが、私は固いですよ?」
「そう?まあ五分もあれば終わるわよ」
護岸不遜に言い切る二人の超級職が、互いの全力をぶつけ合う。
〈神界師〉が、無数の結界を展開し、彼の体を覆う。
〈精霊姫〉は、無数の氷の槍と、風の刃を作り出す。
空の上で、超越者同士の戦いが始まった。
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