表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

136/164

双剣乱舞

 個人主義を貫いてきた彼に、転機が訪れる。

 ネームドモンスター、〈大罪憤怒〉にアルティオスが強襲され、彼もまた重傷を負い片腕を失った。

 義手を使えば、剣を持つことは出来るが、全盛期とは比べ物にならない。



 撃退に成功した直後、重傷を負った彼は限界を迎え、気絶した。

 目が覚めた時、彼は腕が失われたことを理解し、茫然自失した。

 腕を一本失うというのは、〈双剣王〉である彼にとって致命的だった。



「大丈夫ですか?」



 少し目の周りが赤いエルフの少女が、心配そうにこちらを見ていた。

 どこかで見たことあったな、と考えかけて。

 そういえば、一度見たことがあった気がする。

 確か、アランの娘だ。

 一度だけ、彼とその妻、娘の三人で何か話しているところを見たことがあった。

 彼や彼の妻も、〈大罪憤怒〉との戦いに加わったはずだが、一体どうなったのか。



「ああ、起きたか。すまねえな、ベッドが足りてなくて急遽冒険者ギルドを避難所代わりに使ってるんだ」



 アランも、彼より遥かに早く目覚めていたようで、ジョージの方を心配そうに見つめていた。

 アランもまた、傷だらけだった。

 回復魔法が時間切れで間に合わず、ポーションを使おうにも治癒限界に達してしまったのだろう。

 ここまでやってもなお、撃退が精いっぱいだったと知った。

 一人で何でもできると思っていた彼には、初めての挫折だった。

 そして、ここから挽回することもできない。

 『大樹装変』で失った腕を補おうにも、全盛期には程遠い。

 そもそも、高性能の義手はたいていMPを消費するため長時間の戦闘ができない。

 もうこれ以上、強くなることができない。

 己の強さだけを心のよりどころにしてきた彼にとっては、何よりその事実がつらかった。



(これからどうしよう)



 貯えは、それなりにあった。

 正直、冒険者を辞めても貯金だけで生活には困らないだろう。

 だが、それにしたってこれから何十年もどうやって生きればいいのか。

 生まれながらに天涯孤独で、すぐに冒険者になり。

 そのままただ強くなるためだけに剣を振るい続けた、戦い続けた。

 今回にしても、強さの証明と金銭のみを求めての参戦だった。

 金は得たが、彼の根本である強さの証明はできず、二度と叶うことはない。



「まだ動いたらダメでしてよ?安静になさってください」

「いやいや、もう回復してますって」

「嘘をつかないでくださいまし。【鑑定】の結果によれば、まだ状態異常もHPも回復しきっていませんわ」

「いやでも」

「いいから、早く休んでください」

「……わかりましたよ」



 まともに、会話という会話すらしたことのない彼にとって、彼女が初めての会話相手と言っても過言ではなかった。

 むしろ、今まで人と会話をまともにしてこなかったことが異常ともいえる。

 そんな彼だが、彼女に踏み込むようなことはしなかった。



「よく働きますね」

「あの子はよく頑張ってるよ。母親が死んだばっかりだってのに」

「…………」



 ジョージは、アランの言葉に言葉を失った。

 ジョージが目を覚ました時、彼女母親を失っていたのだ。

 だというのに、明るくふるまいながら

 人のために、出来る限りのことをした。

 そんな人の姿を、初めてジョージは目の当たりにしたのだ。

 


 それから、彼は思った。

 そうか、こういう強さもあるのか、と。

 人に優しく、己に厳しく。

 大切な誰かを守るために戦う。

 そんな強さがあると、初めて知った。

 


 いや、知ってはいたのだ。

 家族のためにお金を稼ごうとする男や、街の平和のために戦う戦士もいた。

 初めて、彼はそんな彼らのことをしっかりと見たというだけの話。



 それから、彼は少しだけ変わった。

 冒険者を辞めて、ホルダー邸の門番になった。

 冒険者だった時より、近所との交流を増やした。

 顔と悪名が広まってしまっていたので、ごまかすために面をつけて生活することにした。

 もう一度、同じことがあったときに人を守れるように、新たな力を求めて『愚者の頭骨』に潜り、踏破した。

 そして、彼は今戦っている。

 街を守るために。

 そして、街を守るために戦っている、彼の大切な人たちを守るために。

 

 

 ◇



「守りたいから、戦います。戦って、勝つんです」



 剣を握って、相手を見据えて彼は言葉を発する。



「負けられない。ここで終わることなど、許容できない」



 グレイもまた、剣を握りしめる。

 足は回復しておらず、今にもちぎれそうだ。

 彼は、剣を構える。

 どれほど殺しても、外道に落ちても、叶えたい夢があるのだと。



「この先へ、もっと先へ至るために。誰より強くなるために!」



 グレイは、叫ぶ。

 それが彼の望みだから。



「ああ、そうか」



 ジョージは、気づいた。



「貴方は、昔の俺に似た人なんですね」

「……そうかもな」



 剣と、その強さだけがすべてで。

 それ以外の意味なんて考えもしない。

 自分以外のことなんて考えもしない。

 だから、このような虐殺ができるのだろう。

 ジョージも、腕を失う前であれば加担していたかもしれない。

 虐殺は、倫理的にはともかく経験値は膨大なはずだから。

 けれど、彼はもう失ったから。

 そして、失ってはいけないものが、彼にはあるから。

 譲れない、負けられない。



 互いに、リソースを費やしもはや余力はない。

 この一合で、すべてが終わる。



「ふっ」



 グレイは、華麗なステップを踏みこむ。 

 ゆるりとした、蝶のような動きではない。

 ただこの一合で決める、そのための、必殺の一撃を突きこむための一撃。

 すべてを捨てきって、『迅雷』を突き出す。



「おお!」



 ジョージもまた、踏み込む。

 既に左腕の義手も、『葉面』も維持できなくなって。

 けれど、右腕に持ったたった一本の剣を握りしめる。

 守るべきものを、守るために、彼は敵手を迎え撃つ。



 ジョージとグレイ、ふたりの剣が交差して。

 互いの乾坤一擲の剣圧で突風が吹き、窓が割れる。

 踏み込みで、大地は揺れ、石畳が割れる。

 それで、ふたりの戦いは決着した。



 ◇



 土煙が晴れると、そこには二人の男がいた。

 一人は、グレイ。

 満身創痍だが、まだ立っている。

 もう一人は、ジョージ。

 押し負けて、壁にたたきつけられている。

 もう一歩も動けない。

 それどころか、あと十分ほどで何もしなければ死ぬだろう。



「威力の差で、押し負けたな」

「違う、お前もわかっているはずだ。貴様は俺よりレベルが低かったのだろう?」

「…………」



 それは事実。

 彼は、〈双剣王〉を捨てて〈愚者〉になった。

 その際、〈双剣王〉としてのレベル、ステータス、そしてスキルは失われた。

 集団での強さを求めた結果、単体では遥かに弱くなった。

 グレイは、彼を見下していた。

 彼にとって、同類でありながら、妥協した愚物。

 


「確かに、俺は弱くなったかもしれないなあ。実際レベルが低すぎて、最終奥義は使えなかったし」



 あるいは、レベルが同じであれば、負けていたのはグレイの方だったかもしれない。

 グレイもそう感じる程度には、彼は追い詰められていた。

 だが、止まるわけにはいかない。

 【闘乱剣舞】による蓄積はもうないが、剣の舞はいまだ止めていない。

 じわじわと攻撃力を増していく。

 このまま、この街にいる百万の命を切り捨て、レベルを上げ続け、さらなる強さを得る。

 それだけが、グレイの目的だから。



「まあ、実際、俺はお前に負けた。それはぐうの音も出ない事実だな」

「ふう、恥じることはない。貴様はよく戦った。最後に何か言い残すことがあるならば、聞いてやろう。せめてもの情けだ」

「そうかい、じゃあ聞いてくれよ」

「ああ、話し終われば、すぐに首を落とそう。苦しむ間もなくな」

「そもそもの話なんだがなあ」



 木面が外れて、ジョージの顔が露になる。

 軽薄そうな面構えと、意志の強い瞳がそこにはあって。



「今回の勝負、別に俺対お前の勝負じゃねえよなあ」

「っ!」



 ジョージの言葉に、何かに気付いたような

 ジョージの最後の力を振り絞って、『葉面』を『枝具』に変形させた。

 たった一秒、いやそれより短い時間。

 目の前の男を逃がさないために。

 だから、グレイは躱せない。

 猪突猛進で迫ってくる、背中に板の生えた地竜を躱せない。



「ぐえっ」



 あまりにあっさりと、彼が吹き飛ばされる。

 もとより耐久力はさほどない。

 家屋にぶつかり、めり込んだまま動かなくなった。

 死んではいないようだが、もはやなにもできない。



「お前は、勝手に一対一の勝負だと思い込んで横やりを考慮に入れなかった。それがお前の敗因だな」



 ぶつかったのは、ラーファの所有する四体のドラゴンのうち一体である。

 仲間の存在を前提としていたジョージ達と、各個に分かれて連携を度外視していたグレイたち。

 勝敗は明確だった。



「おじ様!」

「あ、お嬢。ご無事で何よりです」

「こんな、大怪我して、やっぱり私が」

「大丈夫ですよこんなのかすり傷ですから」

「どこがですの!腕がないではありませんか!」



 ぷりぷりとした様子で、彼女はポーションを取り出す。



「本当に、心配させないでくださいまし。初めて会った時から本当にもう……変わらないんですから」



 少女の目には、呆れと困惑と心配と……愛おしさが含まれていた。



「いやいや、そんなことはないでしょう。結構雰囲気とか昔と変わってません?」

「満身創痍なのだから、もうしゃべらないように。よろしくって?」

「…………はい」



 不承不承といった顔つきで、彼はうなずいた。

 回復魔法はもはや意味がないと、ラーファは落とされた腕を拾って、ポーションをかけながらくっつける。

感想、評価☆☆☆☆☆、ブックマーク、いいね、お気に入りユーザー登録、レビューなどよろしくお願いします。


感想は「うぽつ」などお気軽にどうぞ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うぽつです
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ