迅雷
〈剣舞王〉グレイと、”双樹”ジョージ・アンダーウッド。
共に超級職。
人類の限界に至ったもの。
速度は音より速く、攻撃は岩山を砕くほどに強い。
そんな、二人の斬り合いはほとんど互角だった。
「ふっ」
グレイが剣を振るって衝撃波を繰り出す。
普通に考えればただのそよ風でしかないその剣圧で、石畳が、建物が、街灯が、大地が、裂けて砕けて崩れていく。
音速の斬撃が、【闘乱剣舞】により引き上げられた攻撃力が、一種の災害を引き起こしている。
一太刀一太刀が致命の一撃だというのに、ジョージはいまだに生き残っていた。
「いよー」
「ちいっ!」
斬撃と、そこから生じる衝撃波を躱す。
躱しきれないものは、手に握る剣を当てて、受け流す。
「ひょー、怖い怖い」
「随分と余裕そうだな」
「いやいやそんなことはないですよ。がくがくぶるぶるですって」
「そうか、では震えて眠るといいだろう。永遠にな」
そういった直後、グレイがさらに攻勢を強めた。
剣舞を維持するために、意図的に速度を緩めてはなっていた斬撃を、最速全力のものに変える。
手数が倍以上に増えて、さばききれなくなり。
「『大樹装変』ーー【増殖】」
彼のスキル宣言と同時、『大樹装変』が変化する。
木面から、右手に持った木剣から、まるで木のように枝が生える。
枝は分岐して、面から生えた枝が肌色の義手に、木剣から生えた枝は、二本目の剣に変容する。
二本の腕で、剣で、全ての斬撃を躱して、捌く。
さらに、左腕の義手が蛇のごとく伸びる。
伸びた義手が、剣を持ったまま、グレイに襲い掛かる。
「はあっ!」
だが、それはグレイの剣の一振りによって粉々砕かれる。
しかし、再び残った剣と面から枝が生え、剣と義手を構成する。
そして、再び互角の攻防が始まる。
グレイも、この一連の攻防で、ジョージの手札を見抜いていた。
「なるほど」
「うん?」
「その剣の特性は、変形というわけだ。大方、エルフの森の木々が素材であろう」
「正解ですねえ。後、増殖も特性だよ」
『大樹装変』は、変形する装備だ。
彼の意志に応じて、消費される枠に対応して、その在り様を変える。
武器枠を消費することで、強度と攻撃力を両立した『幹剣』が。
手甲、足甲枠を消費することで、射程を伸ばせる『枝具』が。
頭装備枠を使って、ステータス隠蔽の効果を持つ『葉面』が現れる。
そして、『大樹装変』の強力なところはそれらを、装備枠を割くことによって両立できることだ。
普段は『葉面』のみだが、両手に持っている『幹剣』も、付けている『葉面』も、左腕代わりとなっている『枝具』も、同時に顕現している。
彼が認める限り、コストを捧げ続ける限り、装備枠を侵食して増え続ける。
無論、ノーリスクではない。
装備が増殖すればするほど彼の魔力とスタミナを削っていく。
ゆえに、ジョージが不利である。
「君の剣も面白いですねえ。何て名前なんです?」
「『疾風迅雷』」
「かっこいいですねえ。全然当たらないけど」
「黙れ!」
さらに、攻撃が苛烈になる。
だが、それは届かない。
(衝撃を受け流されている……)
攻撃を幾度となく繰り返している。
そのすべてが、一撃で上級職をバラバラにしてしまえるほどのもの。
だが、その斬撃を躱し、受け流すことで最低限のダメージに抑えている。
無論、圧倒的な力を受け流すことなど普通はできない。
だが、長さを自在に伸ばせる『枝具』が厄介だった。
彼の攻撃力は上がっていたが、それはあくまで県による横劇力の発揮値のみ。
腕に義手を当てて、勢いを殺せば、グレイの攻撃は制限されてしまう。
だというのに、依然として戦況はジョージが不利だ。
それは、今この瞬間ではなく、これから先も計算した時の話。
『大樹装変』によるMPの消費が激しく、もうあと十分も持たない。
加えて、受け流すとはいえ、流しきれておらず、ダメージが蓄積している。
聖水をあらかじめ摂取してはいるが、その継続回復効果が追いついていない。
回復しきるために、追加で聖水を用いる余裕もない。
そんなことをすれば、一太刀で斬り捨てられる。
そもそも、相手側は何時間にもわたる【闘乱剣舞】による蓄積がある。
守勢に回っているだけ、善戦しているのともいえる。
これほどまでに劣勢で、それでもなおジョージは勝ち筋を探っていた。
(やっぱり、制御しきれてない)
ジョージは、察していた。
圧倒的な、同格でもある彼さえ受けるのが精いっぱい。
数値に換算すれば、その攻撃力は十万を超えているはずだ。
ジョージのSTRがわずか1000程度であることを考えれば、むしろ受け流せていることが不思議ではある。
それは、まだその力にグレイが慣れていないからだ。
そもそも、長時間の剣舞など、普段はやっていない。
ゆえに、どこまで攻撃力が上がるのかも未知数だったし、どこかで上限に達するだろうと思っていた。
だがしかし、その限界にはいまだ達してない。
なお、今この瞬間も攻撃力は上がり続けている。
このまま戦いを続けていれば、いずれグレイが勝つだろうが。
(彼自身はともかく、援護の可能性も捨てきれない)
もとより、ドラゴンを狩る少女とともに現れたのが目の前の男だ。
あの少女が戻ってきてもおかしくないし、それ以外に戦力を連れてこないとも限らない。
今の彼の前に上級職などちり芥でしかないが、それは上級職だけであればの話。
ジョージと有象無象、両方をまとめて相手していては、勝てるかどうかわからない。
ゆえに。
お互いが、早期決着を望んでいた。
ジョージは、MPを注ぎ込み、右腕にも『枝具』を纏わせる。
義手代わりに使っている『枝具』だが、本来はこうして防具として使うためのものである。
消耗は早くなるが、その分手数が増える。
枝のように伸びた二本の手甲と、それが握る双剣。
それによって、グレイを追い込み始めた。
彼の体に傷がつき、HPがじわじわと減っていく。
このまま斬り続ければ、いずれ体勢を崩して剣舞が維持できなくなるかもしれない。
あるいは、HPが削れることでスタミナの回復も間に合わなくなり、【闘乱剣舞】が途切れてしまう可能性もあった。
それゆえに、必死に攻める。
このままいけば、押し勝てる。
そう、ジョージが考えた時。
「ーー?」
妙な違和感があった。
彼の第六感が、何かがおかしいと告げていた。
何かが来る、と。
そして、彼と相対するグレイは。
「【迅雷】――発動」
そう一言、宣言して。
直後、グレイの持つ剣によるものーーではない衝撃が。
ジョージ・アンダーウッドの肉体を貫いた。
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