剣の舞
「〈聖騎士〉って結界とか使えたっけ?ああそうか、改変術式かつ、合技なのか。そこそこの出力だね」
身体を六つに分ち、なおかつそれら一つ一つを結界によって封印する技、【六星封棺】。
これは、〈聖騎士〉なその職業固有のスキルではなく、改変術式という技術体系だ。
既存のスキルから着想を得て、職業ごとに取得するスキルとは別で新たにスキルを生み出すという
因みに、マギウヌスで神聖視されている魔術という技術体系もこの一種である。
最低でも、上級職六人がかりで行使する大技だ。
首だけになったレヴィを、ユリアは見下ろす。
尋常ならざる再生能力を誇る相手だが、こうなっては何もできない。
【六星封棺】は、相手の動きとスキルを封じ込める術式。
「ふむ、これで勝ったつもりかい?私を封印しても殻は解けないけれど。そもそも私の意思で解除できるタイプのスキルじゃないしね」
【鬼血創操】は、血をコストにした錬金術のようなもの。
生産者を殺しても、それで作品が消えるわけではない。
封印したとて同じことだ。
「別に今すぐ解く必要もないわ。貴方を含めた全ての鬼を倒すか制圧した後で破壊すれば良い。時間をかけてね」
「それはどうかなあ」
「……?」
なぜ、封印されているというのにここまで余裕そうなのか。
ユリアは疑問に思った。
そして、簡単に結論が出た。
あの〈魔王〉達を追い込めるとすれば、それは。
「殻の中に、あなたの手駒がいるということですか」
「正解だね。超級職がいるよ。あと、他にも腕利きが少々ね」
「「「「「「なっ」」」」」」
へらへらと緊張感なく笑うレヴィの口から衝撃的な言葉が漏れる。
ユリアも、他の騎士たちも頬に汗が伝うのが分かった。
それでも、弱みを見せるわけにはいかないと口を開く。
「ふん、超級職が三人でしょう?数で優っている以上、時間稼ぎするのが精一杯のはず。少なくとも〈夜天騎士〉達が、王国側が負けるようなことにはならないわ」
「ふーん」
「何かしら」
「いや何。少々君は心得違いをしているようだね」
ユリアは、違和感の正体に気付いた。
そもそも、体を封じているはずなのに、どうしてペラペラと喋っているのか。
「【鬼血創操】」
「……っ!」
彼女の首、胴、四肢の断面から大量の血液が噴出し、硬化する。
硬質化した大量の血液は結界を破壊し、それだけに飽き足らずユリアたちを吹き飛ばす。
石畳の上を転がりながら、ユリアは疑問を抱いていた。
「ごほっ、なぜ、スキルを封じたはずで」
「あの程度の雑な結界で私が封じられるはずがないじゃないか。スキルの封印が甘すぎるのさ」
封印が効かなかった理由は単純だ。
そもそも封印の本質は、拘束。
ゆえに、封印する側よりも、封印される側の方が強ければスキルの封印も、肉体の拘束も極めて不完全なものとなる。
力の差がありすぎれば、関節技も無理やり振りほどかれてしまうのと同じだ。
さらに言えば、スキルの効果の範囲が広すぎたというのもある。
行動とスキル、いずれも封じるという効果だったがゆえに、格上には通用しなかったのだ。
例えばこれが、「特定の種族の、たった一つのステータスを下げる」という効果であれば、格上にも通用したことだろう。
「まあ、私を封印するなら異空間にでも投げ込むんだね。それなら十年は持つだろう」
「まだよ!もう一度封印してやるわ。皆さん!再度封印するわ!」
「「「「「承知!」」」」」
ユリアは、動揺してはいても、絶望してはいない。
そもそも、常識の埒外にいるのが超級職だ。
多少の想定外など織り込み済み。
他が片付くまで、耐え続ければいいだけのことだ。
「もう一つ、見通しが甘い点を教えてあげるよ」
「何を――」
「殻の中に、私の配下の超級職が三人いて、他にも手練れがいる。それは事実ではあるんだけど」
レヴィは顔に冷笑を浮かべて。
「殻の外に、私以外まともな戦力がいないなんて、誰が言ったのさ?」
彼女がそう発言した直後、疾風が吹いた。
風は、ユリアを含めた騎士団員たちを吹き飛ばし、ついでにレヴィも吹き飛ばした。
「もー、なにするのさ?」
「申し訳ありません。ですが、あの程度の剣圧であなたが死ぬとは思っておりませんゆえに」
いつの間にか、レヴィの隣には男がたっていた。
大道芸人のような恰好をしていて、五本の角を生やした鬼だった。
灰色の髪をして、一本の奇妙な剣を持っている男だった。
剣にはあちこちに穴が空いており、剣が振られるたびに、音が奏でられている。
さらに奇妙なのは、レヴィと会話しながらも、剣を持ったまま踊り続けていることだった。
まるで、剣舞をしているかのように。
いや、しているのだ。
この男は、今剣舞をしただけで、その衝撃波で騎士たちを吹き飛ばしてしまったのだ。
「君たち騎士の相手は、君に任せるよ、グレイ」
「ご随意に、わが主よ」
グレイと呼ばれた男は、剣舞を続けたままレヴィと会話をする。
そのまま、レヴィは、悠然と歩き去っていった。
ユリアは、その背中を追えなかったし、撃てなかった。
わずかでも隙を見せれば、グレイに殺されると直感的にわかっていたから。
彼の放つ威圧感が、彼女を動かせなかった。
「名のある御仁とお見受けする」
「アルティオス聖騎士団長、ユリア・ヴァン・カシドラル」
「これはどうもご丁寧に。わが名はグレイ・アラビアータ」
剣を振り回しながら、男は名を名乗り。
「職業は――剣士系統超級職、〈剣舞王〉」
己が超越者であると、そう宣言した。
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