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〈神祖〉の封印

 〈猟犬の牙〉とその一行は、ハルに乗ったまま殻の傍まで接近していた。

 とはいえ、近づいたからと言って、それで良しとは言えない。 

 相手にとっても、この殻は要所であり、守るための戦力を配置しているはずである。

 それこそ、悪魔軍団を従えたラーシンが居るかもしれない。



「……殻の周囲に反応あり、数は三十」



 【生命探知】で、ミーナが周囲の生物を探知する。

 〈狩人〉系統上級職、〈魔獣狩人〉のスキルだ。

 【生命探知】は生物の生命反応を探知できる。

 人間であろうとアンデッドであろうと、生物である限りは彼女の探知から逃れられない。

 


「でも、【索敵】には引っかかっていないんだよね」

「まだこちらに気付いていないからでしょうか」

「あるいは、敵じゃない、ということは考えられないでしょうか」



 【索敵】はこちらに敵意を向けている存在を探知するスキルだ。

 相手がこちらをそもそも認識していなければ、うまく機能しない。

 敵としてみなされていないのだから当然の話ではある。




 

「少し、探ってくるっす」



 ルークが、【気配遮断】のスキルを行使する。

 〈暗殺者〉系統上級職の〈凶手〉になったことで、よりスキルの効果が強くなっている。

 スキル発動前まで彼の姿を見ていたはずのピーターでさえ、ぼやけて見えるほどだ。

しばらくするとルークが戻ってきて、問題ないことを告げたので、ピーター達も行くことにした。

 

 


「……鬼、いませんね」

「本当っすね」

「人しかいない」



 そこにいたのは、冒険者や騎士たちだ。

 どうやら、殻を壊そうと延々と攻撃を続けているらしい。

 鬼の気配はまるでない。

 ここに来るまで、何度も何度も鬼に襲われた。

 大抵は、人に毛が生えたような、もとい人に角が生えた程度のものだった。

 だがしかし、ルークたちの話によれば、雑兵とは一線を画している存在がいたらしい。

 炎を撒き散らす、赤い鬼。

 衝撃波で全てを破砕する黒い鬼。

 そして、剣一本のみを振るう人型の鬼。

 


 おそらくは、彼女が用意した手駒。

 その中でも虎の子といったところか。

 そしてそれ以外は雑兵、捨て駒、数合わせだろう。

 レヴィの性格は、伝聞で見抜いている。

 人を人とも思わず、命を命とみなさない外道だ。

 ここに来るまでに、悲劇を見てきた。

 誰かの返り血を浴びた鬼を見た。

 瓦礫に潰された遺体を見た。

 誰かと戦ったのか、冒険者らしき軽装な人間の装備一式が落ちていた。違う、首が取れていて、装備だけが無事だった。

 どうして、どうして、こんな悲劇を起こせるのか。



「ピーターさん?」

「おい、ピーター大丈夫カ?」

「え、ああすみません。少しぼうっとしてました」

「大丈夫、です、か?まだ戦闘後の、ダメージから回復して、いないの、では?」



 今は、そんなことを考えている余裕はないはずだ。

 そう、ピーターは考え直した。

 そして、冷静になった頭で思った。

 ここにいないのなら、ラーシンや〈神祖〉はどこにいるのだろうか、と。



 ◇



 〈神祖〉レヴィ・マリーブラッドが黒い殻を展開して王族やシルキーなどを閉じ込めた時、パレードを形作るすべてが殻に閉じ込められたわけではなかった。

 むしろ、騎士団の大半は殻の外にいた。

 王族や貴族という、守るべき存在を人質に取られてしまった形である。

 ユリア・ヴァン・カシドラルもまたその一人だった。

 不意に何の前触れもなく現れた人影ことレヴィ・マリーブラッドが、黒い殻を展開して王族たちを閉じ込め、珍妙なゲームの開催を宣言した直後のこと。

 ユリアたちは、レヴィがこのまま殻の傍に陣取るのではないかと思っていた。

 何しろ、閉じ込められた王族貴族や護衛の超級職は間違いなく、あらゆる意味で最重要人物だ。

 放置する意味がないし、してはいけない。



 だが、彼女は殻から離れて、移動を始めた。

 殻のことを、ユリアたちはその場にいた冒険者たちに託し、彼女を追うことにした。

 極論を言えば閉じ込めているだけ(・・)の殻と何をするのかわからない〈神祖〉。

 どちらがより危険なのかを計算した結果である。



 鬼、と呼ばれる種族がいる。

 オーガやゴブリンなどがその代表格である。

 特徴としては、人外の生命力を持ち、しかしながら体格は人に近いこと。

 職業ではない吸血鬼も、鬼の一種だ。

 夜行性であり、夜間はステータスが上がる代わり、昼間は弱体化するという特殊な性質を持っている。

 〈神祖〉は、〈吸血鬼〉系統超級職。

 尋常ならざる再生能力を持っており、首を切り落としてなお死ぬことはない。




「随分と舐められたものね」

「舐めているわけじゃないよ、正当な評価さ。実際、私の作った殻はまだ壊されてないだろう?」





「あれは、単純な仕掛けでね。【鬼血創操】というスキルなんだけどさ、私の流した血液(HP)をコストに高硬度の物質を生成、変形させるスキルなんだ。そして、強度は作ったものの大きさに反比例し、流した血の量(込めたHPの多寡)に比例する」

「…………?」



 ユリアは、疑問に思う。

 レヴィの発言に、嘘がない。

 つまり、手の内を自ら晒している。



「込めたといっても、何、大した量じゃないよ。時間がない急ごしらえのものでね。ーーほんの一千万(・・・)程度さ」

「は?」



 一瞬、冗談かと思った。

 だが、一瞬遅れて【真偽法】が発動しないのを確かめて、その言葉が冗談でないと理解した。

 耐久型の上級職でもそのHPは10000に達しない。

 そのはずなのに、その千倍以上込めたというのか。



「そう驚くことないだろう?私のHPは100万超えてるし、後は再生能力を活かしただけさ」

「…………」



 規格外、その一言が当てはまる。

 何人も、規格外と言える存在は見てきた。



「さて、そろそろ心が折れたかな?」

「まさか」



 この程度で折れていては、ユリアの目標(・・)には到達できない。

 だから、絶望的な数値の差と不死性を見せられてもなお、止まらない。

 それに悪いことばかりでもない。



「ただ、耐久力が高いだけの殻なら、殴り続ければいずれ壊せるということでしょう?簡単なことじゃない」

「へえ……」



 実際、「相手の攻撃をすべて無効化する」などというものならどうしようもなかったが、ただ丈夫なだけの物質ならばどうとでもなる。

 現在進行形で、冒険者や騎士たちが破壊に尽力しているはずだからだ。



「遅いねえ」

「どっちが?」



 彼女のギフトの効果、【蒼天の矢】は、スキルの射程を伸ばせる。

 剣撃の射程を伸ばせば、意識外からの攻撃ができる。

 その斬撃は、首を落とした。

 そして、他の騎士によって、手足を切り落とし、だるま状態になった。



「ユリア様、HPは高いのですが、他はそうでもないようです」

「みたいね。多分、バランス型の上級職くらいかしら」



 VITは〈聖騎士〉である彼女等よりも低く、AGIは彼らの駆る騎獣よりも遅い。

 ステータスはHPに特化していて、スキルも再生能力、血液操作、眷属生成のみ。

 つまるところ、個人戦闘に秀でた職業ではない。

 むしろ、〈魔王〉などと同じ配下の存在を前提とした指揮官よりの職業であると推測できる。

 さらに、数でも圧倒的に騎士団側が優位。

 全員が、一年以上共にアルティオスで過ごしてきた、ユリアの信頼できる部下だ。

 ゴレイムの一件でも、彼等はユリアについてきてくれた。

 それは元々、あくまでカシドラル家への崇拝でしかなかったが、構わない。

 この一年で、様々なことを共になしてきた、仲間なのだから。



「あれを使うわ」

「「「「「承知!」」」」」



 ユリアが、自身の持つ十字剣を、レヴィの頭部に突き刺す。

 同時に、五人の部下が剣で彼女の四肢と胴体を刺した。

 直後、六本の十字剣が光を放ち始める。



「これは……」

「私たちは、聖騎士団。国を襲う悪しき者達から、この国を守らんとするもの。その中には、あなたたちのような怪物もいる」



 一人では、決して倒すことは出来ない。

 だが、街を守るという同じ志を持った者達が集えば、邪悪を阻める。



「だから、私達は日々強くなり続ける。改変術式(アレンジ)、【六星封棺】」



 スキルが発動して、結界が展開される。

 レヴィの頭部、胴体、左腕、右腕、左足、左腕をそれぞれ銀白色の結界が覆い、スキルを縛る。

 騎士団が開発した、対不死生物用の封印結界である。

 再生力に特化しすぎている彼女に、これを防ぐ手立ては存在しない。



「殺せないなら、封印してしまえばいい、か」

「「「「「「――制圧完了」」」」」」



 それは、間違いなくユリアの、ユリアたちの一年間の成長の結果だった。

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