【邪神の衣】
少しだけ視点変わります。
ピーターが、ラーシンと再会する少し前。
ピーターと、リタたちがその場を立ち去った後のことである。
「すみません、もう落ち着きました」
ピーターの兄を名乗る男が、ラーファとジョージの前で休憩室の前に座り込んでいる。
彼等に引き留められ、気分を落ち着けていたところだった。
「何やってんだ、マルコ」
「あ、ブルーノ兄さん、エンリコ兄さん、父さん。ちょっとこの人と話してて」
「申し訳ない、うちの息子が何やらご迷惑をおかけした様で」
「いえいえ、私達は大丈夫ですから」
近寄ってきたのは、二人の若い男性と一人の壮年。
ラーファは、三人の顔を見て、彼等がなんであるかを見抜いていた。
なにせ、彼らは全員ピーターに良く似た顔のつくりをしていたから。
マルコと呼ばれた青年は、彼の兄に呼び掛けられると、父親らしき壮年の方を向いた。
「父さん、さっきピーターにあったんだよ、だから」
「ピーターだと?」
その言葉を聞いた瞬間、壮年の様子が変わる。
冷静な顔つきが一変、家族の仇の名でも聞いたかのように、叫びだした。
「あいつの話をするな!あんな生きている価値がない奴の話なんて!」
「だ、だけど父さんあの子がまだ生きていて……それで」
「知ったことか!」
ピーターの父親らしき男は、公衆の面前であることを忘れたように喚く。
鬼気迫るような顔つきは、三人の息子をたじろがせる気迫があった。
だが。
「今、なんとおっしゃいました?」
「え?」
ラーファが、彼等を睨んでいた。
温厚な彼女だが、怒らない時がないではない。
例えば、大事な友人が罵倒された時などだ。
「ピーターは、私の大切な友人ですわ。侮辱するのは、看過できません」
「うっ」
ラーファは、冒険者ギルドの受付嬢であり、それはすなわち戦闘に特化した荒くれ物を捌いてきた。
冒険者の中には、それこそ一騎当千の強者や、犯罪者一歩手前の悪人もいる。
それに臆することなく、対話や宣告をするのが彼女の仕事だ。
たかが一村人の怒気など、彼女には通用しない。
「まあまあ、お嬢もおちつきましょうよ。もちろん、旦那さんもね」
「そうですね、すみません」
「…………」
ジョージが、白熱しすぎていると判断して、仲裁にはいった。
ラーファは、冷静さを幾分かは取り戻したものの、未だ彼を睨んでいた。
「何があったのか話していただけませんか?」
「……俺は、悪くない」
壮年の男は、座り込んで、語り始めた。
◇
とある村に、一人の男がいた。
男には、妻と三人の息子がいた。
そして、四人目の子を妻が身ごもった。
その時も、特に変わりはなかった。
今まで三人産んできたように、産もうとして。
結果として、妻は死んだ。
そんな普通の日々が終わったのは、四人目の息子の出産日。
――妻が、子供を産むと同時に死んだ。
末っ子を――結果として末っ子になってしまったーーを産んだ直後、血が止まらずそのまま死んでしまった。
ポーションは、妊婦に対しては使えない。
治癒力を削るものなので、元々生命力が削れている妊婦にはとどめになりかねない。
だが、彼には切り札があった。
教会から買った聖水である。聖水とは、回復魔法のこもった水であり、少量しか生産されておらず非常に高価なアイテムだ。
一部の回復魔法を極めた聖職者が作るか、『教皇の神殿』や『女教皇の祭壇』の宝箱に入っていることが稀にあるくらいだ。
そのレアアイテムを使えば、即時的なけがはすべて治せるはずだ。
だが、全く効果はなかった。
ポーションと違って効果はあるはずなのに、聖水はかけてもかけても微塵も効かなかった。
偽物を掴まされたのか、あるいは管理方法に問題があったのか。
いずれにせよ、妻は死んだ。
助けられなかった。
最愛の妻を亡くし、彼は悲嘆にくれた。
だが、いつまでも悲しんでもいられない。
三人の息子が、村があるのだから。
加えて、妻の忘れ形見もいた。
四番目の息子となる存在が。
悲しみはあった。嘆きもした。
しかし、それで彼は折れなかったし、壊れなかった。
妻がいなくても、子供を全力で育てようと心に決めた。
そして、彼なりの全力で子供たちを育てた。
結果として、子供は一人もかけることなく順調に育った。
そして、ピーターが生まれてから十年ほどたった。
ピーターに対しても彼は、なるべく公平に接してきたつもりだし、父親らしくしてきたつもりだった。
だが、彼の心には常に複雑な感情があった。
なにしろ、そこにいるのは息子でありながら、彼の妻が死んだ原因でもある。
無論、ピーターに罪があるわけでもない。
だが、誰よりなにより妻を愛してきた彼には、どうしてもピーターを愛することができなかった。
ただ、使命感と義務感でピーターと向き合ってきた。
ある日、取引先の商人が、たまたま息子を【鑑定】しようかと言い出した。
サービスの一環のつもりだったらしい。
普通ならば、わざわざ借りを作るような提案などごめんだ。
だが、ピーターについては少々事情が異なった。
彼がどんな職業についているのかわからなかったのだ。
スキルを使っていないことから〈農家〉ではないことは察していた。
本人はうまく隠しているつもりかもしれないが、そんなものでは親の目はごまかせない。
何か特殊な職業であれば、息子の健やかな成長のため、把握する必要があると思っていた。
かのマギウヌスの〈提供者〉のような重大な欠点を抱えた職業かもしれないから。
どうせタダだからと〈商人〉に頭を下げて息子の【鑑定】をお願いした。
〈商人〉は見た瞬間、顔を青褪めさせてしまった。
【鑑定】の結果をメモすると、そのまま足早に立ち去ってしまった。
末っ子であるピーターは、〈降霊術師〉であると知ったときには驚いた。
だが、何も思わなかった。
はっきり言って、少し特殊な職業くらいであるとしか思っていなかった。
過去の悪人と同じ職業だからそれがどうしたというのか。
懸念点があるとすれば、まるで農作業の戦力にならない職業であることだったが、まああまり気にしても仕方がないと判断した。
妻が死んだ一因である彼への複雑な感情を押し殺して、ピーターを息子として育ててきた男である。
職業差別という感情的判断をあれはとらなかったし、取ることは出来なかった。
とはいえ、彼がそう思っても、村人はそう思わないかもしれない。
排斥されるかもしれない。
あるいは、隣のハンバート村に婿に出す可能性もあったが、そこでも差別される可能性もあるだろう。
冒険者ギルドにピーターを託すという案もあった。
改めてメモを見て、一つの項目に目が行った。
それを見た時、驚愕した。
【邪神の衣】というギフトを持っていた。
メモは、その効果の詳細も教えてくれた。
「回復魔法などの影響を無効化する」という効果を。
パーティーメンバーまでも、その効果圏に入っている。
そして、出産した親子には、母体と子供でパーティを組んでいるのは珍しくない事象である。
だから、彼は知ったのだ。
知ってしまったのだ。
どうして、聖水が妻に効かなかったのか。
どうして、妻が死んでしまったのか。
それは、理解できたとき、彼は壊れた。
指名も、決意も忘れた。
気が付くと、彼は息子を追い出していた。
レベルも低い子供を家の外に、一人で追い出す。
殺したも、当然だった。
子供を守らなくてはならないという、自身の誓いを破ってしまっていた。
だけれども、それでも、彼は止まれなかった。
どうしても許せなかった。
あれから、もう何年もたっている。
それでも、彼は、あの時の行いを悔やめない。
◇
「つまり、あなたは一人の死の責任をピーターさんに押し付けた、という解釈でよろしくて?」
真相を知っても、ラーファの態度は変わらない。
むしろ、より強固になった。
「……あんたに、俺の何がわかる」
「さあ?知りたくありませんですわ」
ラーファは、ピーターに似た顔の男を、軽蔑の視線で見下した。
「大事なことは、ピーターさんに非がないこと、そしてあなたたちとピーターさんは会いたくないと思っていることですわ」
「……そいつは、お互い様だよ」
「……父さん」
それが事実。
ゆえに、弾劾も和解も受け入れられないとラーファが語る。
「ま、そういうわけでもう帰りなさいな。四人とも」
ジョージにそう言われて、もはや言い返す気力もないのか、四人は帰っていった。
「そろそろ、パレードが始まる頃ですわね」
ラーファが、外を見た。
薄暗くなった空と、街の明かりが見えて。
少しずつ近づいてくる、王族たちを乗せたパレードの音が聞こえた。
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