家族との再会
「ところで、おじさんもくるの?」
リタの言葉に、びしりと空気が凍る。
リタとしては、用があるのはラーファだけであり、彼女にとってはジョージについてはどうでもいいと考えていた。
ある種子供らしい残酷さも持ち合わせているのがリタの特徴である。
そんな彼女の言動に、ピーターとミクは固まり。
「勘弁してくださいよお」
ジョージは面をつけたままへらへら笑い。
「リタちゃん、ちょっとこちらにいらっしゃいな」
こめかみに青筋を立てているラーファが動いた。
「え?」
「リタ、それは君が悪いかな……。僕も一緒に怒られるよ。うちのリタが申し訳ありません」
「いえいえ、気にしないでください。お嬢もそう怒らずに」
「わかりました、おじ様。リタちゃん、ごめんあそばせ?」
「ううん、いいよ、りたもごめんね?」
「はい、では仲直りということで。行きましょうか、皆さん」
ジョージがとりなしたことで、凍り付いた場は収まったのであった。
◇
ハイエンドの双塔城は、小高い丘の上にある。
遠方から見ても、双塔城が見えるようになっているのだ。
その丘から降りると、街がある。
「うわあ」
「すごーい!」
『これは、なんとまた』
「とんでもないですね」
ピーターは、前夜祭にも参加していたが、それでも圧倒されていた。
街並みが前日とは比べ物にならない。
見渡しても人、人、人。
前夜祭の時点でこれだけの人がいたはずなのだ。
だというのに、まるで気づいていなかった。
この人達は、前日までどこにいたのか。
「前夜祭は、王族貴族が参加していない、言ってしまえば民営のものだから規模はそれほどでもありませんの。多分ですけれど、そもそも参加していない商会の方もいらっしゃるのではないかしら?」
前夜祭はあくまで民営の、それもごく一部の団体が行っていることだということらしい。
そして、本祭は国も民間も全てが参加する。
すなわち、この町にいる百万人のすべてが、一つになってこの祭りを盛り上げるのだ。
噴水広場もすさまじかった。
「多くない?」
「先日よりの倍近いですね」
前夜祭からいた剣舞士は隅っこの方に追いやられており、何故か木箱の上で剣舞をしている。
火を噴く男性や歌い手も同様である。
他にも多くの大道芸人がいた。
ただ、本祭での中心は彼等ではない。
教会に所属する聖歌隊が、歌を歌っていた。
聖歌隊とは、葬儀や結婚といった特別な時に祝いであったり、弔いなどの意味合いを込めて歌うものたちである。
基本的に聖職者で構成されていることが多い。
まあ、それ以外も混じっていたりはするが、大抵は
「国がかかわっているとなると、こうなるわけですか」
ちらりと、先日からいる歌い手を見て気の毒になった。
一人では、合唱に勝てない。
声は響かず、聞こえない。
そも、聖歌隊の質が良すぎる。
どちらも〈音楽家〉などの職業についているわけではないのだろうが、技量に差がありすぎる。
聖歌隊の歌は、まるで妖精が歌うようだった。
無理もない。
おそらく国でもトップクラスの歌唱力を持った者を集めているのだろうから。
「いい声ですね」
「そうですねえ」
「染み渡るようですわ、癒されますわ!」
聖歌と言うのは、この国においては神をたたえる歌ではない。
この国を救った騎士と教会、そして頂点に立つ王をたたえる歌である。
神という存在はいるという伝承や信仰こそあれ、それが確認されたことはまずない。
ピーター個人は、伝承の神とやらは力を持った超級職かネームドモンスターの類だと思っているし、実際この国では〈天騎士〉などの一部の人間が神聖視されている。
歌が終わると、万雷の拍手が彼等を包んだ。
「そういえば、ピーターさん」
歌が終わって、一息ついたところで、ラーファが話しかけてきた。
「伯母さまと昨日はじめてお話しできましたの!」
「そうでしたか!」
その声には二つの意味合いが含まれていた。
一つは、「まったくかかわりがなかった」ということへの驚き。
もう一つは、それでもなお踏み出した師匠への賞賛である。
「どんなことを話されたんですか?」
「最近の魔術のお話をしてくださいましたの、興味深いことがたくさん聞けましたわ!」
「なるほど」
「私からも、私の配下のドラゴンの話をしましたの。血筋ね、と笑っておりましたわ」
「そうですか……」
〈精霊術師〉もまたモンスターを扱う職業の一端である。
それゆえに、適性が遺伝したのだろうと彼女は思った、ということか。
なんにせよ、会話が弾んだのは良いことだと思った。
シルキーは、作り笑いなんて絶対にしないし、できない人だから。
とはいえ、アランも〈従魔師〉系統を極めたものであるゆえに、どちらとも取れる。
シルキーは両者の血を引くという意味で言ったのかもしれない。
改めて思う。
修復できるなら、家族はそうすべきなのだろうと。
ふと、思いついてピーターはジョージの方を向いた。
「そういえば、ジョージさんはどういう経緯でギルドマスターに雇われているんですか?」
彼が門番として雇うくらいだ。
腕を片方失うまでは、さぞ腕利きの冒険者だったのだろう。
「私はもともと、アランさんの仲間だったのです。一緒にパーティを組んでいた時期もありました」
「そうだったんですか」
「ネームドモンスターが襲撃した時に、腕を吹っ飛ばされちゃいましてね。それで冒険者は引退して、こうして門番兼ボディーガードを務めているんですよ」
「おじ様は、とても強いのですわ。なにせ、お父様と一、二を争っていたと聞き及びますもの」
「その理論だと、私はずっと二番目ですよ、お嬢」
「……それはすごいですね」
あの〈魔王〉が比較対象に上がるとなると最低でもレベル百。
あるいは、その上かもしれない。
「夜には、パレードもありますからね」
「ぱれーど?」
「王族がハイエンド内を護衛付きでぐるっと回るんだよ。山車とか行列がとにかく豪華らしいよ」
金銀宝石でこれでもかと豪華絢爛な装飾が施されているらしい。
加えて、魔術なども使用されてきらびやかな演出をこれでもかと詰め込むのだとか。
そこまで行くと悪趣味では、とピーターは思わないでもなかったが、空気を読んで言わなかった。
◇
「おいしいねえ!」
「確かに、おいしいです」
「屋台というから味には期待していなかったのですが、確かにこれはおいしいですわね」
昼になり、ピーター達は、昼食をとっていた。
ギルドマスターの娘であり、良いものを食べなれているラーファもご満悦。
無理もない。
ピーターは先日ごく一部しか味わえなかったが、この場所にはハイエストのありとあらゆる名店が屋台を構えている。
「結構渋滞してますね」
ピーター達は「休憩所」と言われる建物の中に避難していた。
人でごった返しているので、どうして落ち着く場所が必要であると考えた王国側が建物をいくつも借り受けて休憩所を設置した。
結果として、ピーター達は助かっていた。
「ちょっとゴミ箱に串と紙皿捨ててきますね。あ、ミクさん、ラーファさん、そちらもください」
自分の分を食べ終わったピーターは、とりあえずあるごみを端のゴミ箱に捨てようとして。
「おっと」
「あ、すみません」
注意散漫だったのか、背中が人にぶつかってしまった。
顔を見る前に、ピーターは咄嗟に謝って。
「ピーター?」
相手の発する言葉に、固まった。
その人物に、ピーターは見覚えがなかった。
深緑の髪、茶色の瞳の青年。
服装は茶色いコートを着た地味な恰好である。
だというのに、どこかで見たような気がする、と矛盾した感覚を覚えていた。
「ねえ、ぴーたー」
お腹に隠れていたリタが、指摘する。
「このひと、ぴーたーにちょっとにてない?」
「……え?」
その言葉に、ピーターは血の気が引くのが分かった。
確かに、顔立ちはピーターに良く似ている。
彼に対して、既視感を覚えた理由はわかった。
目の色を変えて少しだけ若くすれば、毎日顔を鏡で見ているピーターの顔になるはずだ。
「ピーター、もう覚えていないかな、お前の兄だよ。その、久しぶり、だな」
かつてピーターを追放した、家族だったものがそこにいた。
余談。
この作品のテーマの一つは、「家族」です。
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