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金欠と再会

「気持ち悪い……」 


 

 起きた瞬間ピーターが感じたのは猛烈な不快感だった。

 汗で寝巻が濡れてしまっている。

 ピーターは、枕元を見ると昨日シルキーからもらったリストがあった。

 どうやら、そのリストを呼んでいる途中に寝落ちしてしまっていたらしい。

 リストの中身には彼らの罪状なども含まれておりそういった内容(・・)が、あんまりにもあんまりだったので、ああいった悪夢を見てしまった可能性はある。

 加えて、汗の原因となった悪夢も、それを覚えていることも、彼を不快にさせた。

 家族に捨てられて、家族を見限ったのがピーター・ハンバートという人間だ。

 ゆえに、家族だったものたちのことが夢に出てきた時点でそれは悪夢なのだ。

 今になって、どうしてこんな夢ばかり見るのだろうか。

 何かの凶兆という奴だろうか。



「ぴーたー、かおいろわるいよ?」

「ありがとう、リタ。でも、買わないといけないものがあるから」

「買わないといけないものって何ですか?お兄様」

「食料だよ」

「食料ですか?それならアイテムボックス内部に保存食があると思いますが……」



 アイテムボックスには、保存機能があるものも多いが、それも万能とは言い切れない。

 腐敗を遅らせるだけでいずれは腐るし、そもそも入れられる量に限りがある。

 ゆえに、かさばらず日持ちのする保存食を入れるのが、最善手である。

 それを知っていたミクは、それでいいのではないかと思った。

 さらに言えば、王城から食事が支給されているのだから、それでいいはずだ。



「それはダメなんだ。できれば、新鮮であればあるほどいい」

「……と言いますと?」



 ピーターは、朝起きた時、枕元にあった手紙をミクに見せる。

 そこには、『夕方まで戻らない。夜には戻るから、最高の手料理を用意して待っていなさい』とシルキーの字で書かれていた。

 シルキーが、いつの間にかピーターの部屋に侵入して、残していった置手紙である。

 



 因みにシルキーの筆跡は達筆である。

 最初は独特ゆえに読むのに苦労したものだった。

 今ではもう慣れたものである。



「これが、どうかしたのですか?」

「師匠は、最高の手料理を振舞えとおっしゃっている。多分、ここ最近の手料理を気に入ってくれたんだろうと思う」

「そうだね!ぴーたーのりょうりはおいしかった!」

「それはそうです」



 彼女らの言葉に、ピーターはうなずくと、手紙を握りしめ、拳を掲げた。



「そのうえで、師匠は最高の手料理をとおっしゃっておられる。つまり食材から徹底した料理を作れと言っているんだと思う。だから作るんだ、師匠にとっての最高の手料理を!」

「えいえい、おー!」

「お、おー?」



 掲げたピーターの拳に合わせて、リタとミクも、拳を掲げる。

 内心でミクは、「シルキーさんが、そんな要求をするだろうか?」と思ったが、何も言わずに置いた。

 ……余談だが、シルキーの言う「最高」とは、最高の手料理という意味ではなく、彼の手料理が最高という意味なのだが、ピーターはそれには気づいていなかった。

 何はともあれ、ピーターたちは食品を買うために市場に行くことになったのであった。



「まずいね」

「そうですね……」



 食料購入にあたって、根本的な問題があった。

 金がない。

 まず、貨幣制度が国によって違う。

 ハイエストの使う硬貨と、東方帝国で使われる硬貨は違う。

 さらに、玉ノ国では物々交換が主流と聞く。

 そして、ピーター達のいたマギウヌスでは、形ある貨幣は存在しない。

 マギウヌスでは魔力が金であり、それは他国では使えない。

 つまり、ピーター達は今、ハイエストで使える金銭を一切所持していない。

 もともと持っていたのだが、マギウヌスでの生活をするにあたり、魔力に両替してしまったのだ。



「ミク、お金ある?」

「すみません、東方帝国での通貨ならあるんですけど」



 ミクがいたチャンシー家はもとより帝国の家系であり、帝国の通貨もわずかながら所持していた。

 だが、ハイエストの通貨はない。

 つまり、彼等は一文無しである。

 シルキーも、そのことは知らなかったのだろう。

 まさか、ハイエスト出身の彼が金銭を所持していないとは思ってもいなかったのだろう。

 ピーターも今の今まで忘れていた。

 シルキーにも頼れない。

 彼には、シルキーを呼ぶ手段は緊急の信号弾しかない。

 まさか、金がないという理由で現在王城で護衛中の彼女を呼びつけるわけにもいかない。



「お金を稼ぐ方法でも考えましょうか?お兄様」

「そうだねえ」



 屋台が無数に立ち並ぶ。

 串焼き、りんご飴、麺類、射的などと言った様々な種類がある。

 だが、例外なくすべては楽しそうだ。

 


「金さえあれば、だけどね」

「本当に、そうですね」

『え―!あれたべたらだめなの?』



 【霊安室】から念話でピーターにリタが不平を言ってくる。

 彼女は、甘いものを見ると、喜び勇んで騒ぐし味わえなければ不平不満を持つ。



「何か、稼ぐ手段はないのかな?」

「どこかに雇っていただくしかないのでは?それこそン冒険者ギルドでクエストを受けるとか……」

「見周りのクエストは全部締め切られているだろうし、そもそも祭りが終わってから依頼料が支払われるはずだからお祭りには間に合わないんだよね」



 広場に行くと、そこには白い大理石でできた噴水があった。

 そしてその広場の傍では、大道芸人が芸を披露していた。

 剣舞を披露する男や、楽器を演奏する男、火を噴く少女など様々である。

 特に、剣舞は見事だ。

 剣をもって振り回すなど、本来はご法度のはずなのに、

 見れば刃を落としており、危険がないようにしているらしい。

 加えて、剣に穴が空いており、それを通して音が鳴っており、まるで独自の音楽の様である。

 人々は、それぞれ大道芸人たちが足元に置いた箱や帽子の上におひねりを投げ入れている。



「あんな風に、何か芸を披露するというのはどうでしょうか?」



 ミクが提案する。

 確かにピーターも仮にも武芸の心得がある。

 踊りくらいはできるかもしれない。

 また、それを抜きにしても浮遊効果のあるミクの【尸廻旋】を使えば、十分耳目を引くことは出来るだろう。



「うーん、それもいいけど、あれたぶん許可を取らないとできないんじゃないかな、ちょっと騎士さんに訊いてみようか」



 ピーターが、たまたま見回っていた騎士に声をかけ、戻ってくる。

 ×を両手で作った状態で。

 どうやら、許可なくというのは無理らしいとミクは悟った。




「本当にどうしよう……」



 「最高の手料理を希望している」シルキーと、加えて屋台を楽しみたいリタ。

 二人を喜ばせたいし、悲しませたくない。

 ゆえに、どうしようかなと必死で頭をひねり。



「ピーターさんっすか?」

「あ、ルークさん。お久しぶりです」



 金髪で整った顔立ちをした、腰から双剣を下げた少年。

 肩から弓を下げて、短剣を腰につけて、眼鏡をかけた理知的な少女。

 肩から大剣を背負った活発そうな雰囲気をした少女。

 メイスを持った、おとなしくて気弱そうな聖職者然とした少女。

 冒険者パーティである、〈猟犬の牙〉のメンバーだった。

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