意外な家族関係
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ありがとうございます。
「というのが、今日あったことですね」
「ふーん」
王城の一室、シルキーの部屋。
ピーターの部屋はシルキーの部屋の隣ではあるが、シルキーに呼ばれ彼女の部屋に来ていた。
食事も、三人分彼女の部屋に運ばれており、そこでとっている。
ピーターとミクが隣り合って座り、ピーターとシルキーが向かい合っている。
因みに、リタはピーターとミクの間に座り、ピーターのパイに顔を突っ込んでいた。
「そういえば師匠は、ギルドマスターたちにはお会いになったんですか?」
「アランとは、警護の打ち合わせの時に会ったわ。他とは会ってない」
「なるほど」
シルキーの言葉には、嘘はないだろう。
もとよりラーファとジョージは護衛ではなく付き添いだ。
だから、彼女はあっさりと語った。
「そういえば、アンタにも渡すものがあったのよ」
「おっ、と?」
シルキーが、書類の束をアイテムボックスから取り出して投げてよこした。
「これは?」
「それは要注意人物のリストね。国内と、国外かつハイエストの周辺で目撃情報があった指名手配犯をまとめたものよ。一応アンタに渡しとく」
「師匠はいらないんですか?」
「私はもう全部覚えたもの」
「そうですか……」
分厚い紙の束を見ながら、ピーターは答えた。
一枚一枚に顔と名前が書かれており、一日で覚えきるのは難しい。
ましてどう見ても、百を超えているのだから。
とはいえ、彼女の頭脳なら可能だろう。
かなりの枚数があるらしく、これは食事を終えたらすぐにでも読み込まないとな、とピーターは心に決めた。
「まあ、別に覚えなくてもいいけどね。どうせ、大抵のやつらは【変装】や【隠蔽】とかのスキルでごまかすだろうし」
「ですよね……」
見た目を変える【変装】やステータスをごまかす【隠蔽】は、犯罪者なら職業のスキルかあるいは装備品のスキルか、いずれにせよ何かしらの対策をしているものだ。
少なくとも、【鑑定】などを使えないピーターがどうこうできる類のものではないだろう。
もし、何かがあればピーターとて動くかもしれないが、自分から見つけるのは難しいだろう。
「ま、護衛なんてことはこの私に任せてアンタは楽しんできなさい、明日は前夜祭だからね」
「師匠……」
「シルキー様……」
マギウヌス最強と呼ばれる魔術師は、堂々と胸を張った。
その姿は、たけだけしくも、どこか可愛らしかった。
その時、リタがふと顔をあげて、シルキーに訊いた。
「じゃあ、らーふぁとはあってないってこと?」
「え、ええそうよ」
リタの問いになぜか、シルキーが口ごもった。
ピーターは、察した。
シルキーとラーファと何かがあるのだ。
そもそも、シルキーとアラン、ふたりの間には手紙のやり取りがあるのだから、それに気付くべきだった。
「師匠、ラーファとはどんな関係なのか、差し支えなければ教えていただけませんか?」
「……そうね。まあ隠してもいずれ分かることだから、教えてあげるわ」
シルキーはひとつため息を吐くと、紅茶を一口飲んでから離した。
「簡単に言えば、私の妹があの子の母親なのよ。もう亡くなっているけどね」
つまり、シルキーはラーファの伯母で、アランの義姉ということだ。
確かに、ラーファもシルキーもエルフであり、納得はできる。
異種族、例えば人間とエルフが子をなした場合、母親の種族が優先される。
アランは人間だが、ラーファの母親がエルフだったので、ふたりの間に生まれたラーファもエルフになってしまったということだろう。
「それで、どうしてあの子を避けているんですか?」
「随分踏み込んでくるのね?」
シルキーが軽くにらむ。
なるほど、確かに失礼と言えば失礼だ。
家族の問題に割って入っているのだから。
「すみません、でも、彼女は友人ですから」
「……なるほどね」
普段は温和だが、重要だと感じたところでは引き下がらない。
それが、ピーター・ハンバートの性格で人格であると、この一年の付き合いで彼女は学んでいた。
「あの子に非があるわけではないわ、ただ単純に妹と喧嘩別れしたから、気まずいのよ」
「そうだったんですか……」
「シルキー様、あの一つよろしいでしょうか」
「何かしら?」
「あの、妹さんのお墓にはいきましたか?」
「行ってないわ……いけるはずないもの」
ピーターは、アランの口から彼の妻――すなわちシルキーの妹の死にざまを聞いている。
ネームドモンスターからアルティオスを防衛する戦いにおいて、骨も残らず爆殺されたらしい。
遺体は残らず、霊魂が残ってアンデッドになることすらなく、墓石だけが作られて葬儀が行われたのだとか。
墓石自体はアルティオスにあり、シルキーが行くのはそもそもハードルが高いはずだ。
まして、彼女の心も思えば、行かなかったのも無理がない。
ただ、ミクにしてみればそれは納得いかないのだろう。
「私は、父を殺しました。私なりに決着をつけられたと思っています」
「知っているわ」
シルキーは、まっすぐにミクを見据える。
ミクもまた、シルキーをまっすぐに見る。
「生前がどうであったとしても、家族と決着をつけるべきなんです」
「…………」
シルキーは、何かを考えるような顔で押し黙ってしまった。
「ねえねえ、このぱいおいしいよ!ぴーたーたちもたべよ?」
「うんそうだね、師匠、食べましょうか。」
「ええ、そうね」
ピーターは、結果的に空気を入れ替えてくれたリタに感謝しつつ、食事を再開しようとして。
シルキーが、咳払いをして。
「ミク、ピーター、ありがとう。あとで少しアランとも話し合ってみるわ」
「は、はい!」
「それはいいですね」
「ま、まあいつまでも引きずるのも私らしくないものね。そろそろ向き合うべきだとは思っていたのよ」
「…………」
ピーターは彼女を見ながら、思ったことがあった。
彼もまた、家族との決着をつけるべきなのだろうか。
しかし彼にとって、家族との決着とは何だろうか。
そもそも、生きているかどうかさえもわからない。
生きていたって、どうにもならないだろうが。
◇
また、夢を見ていた。
なぜだろうか、先日と言い、昔の夢ばかり見る。
昔の夢だと自覚できるのは、彼自身の体が今よりずっと幼いからだ。
背は低く、手足は細く、重量は軽く、筋肉はほとんどない。
五歳か六歳か。あるいはもう少し下だろうか。
家族に追い出されるより、何年か前の話だ。
「これは何?お父さん」
「ああ、お前は見るのが初めてだったな。それは写真というんだ。過去の景色を映して、保存しておくことができる」
つまり、これは過去の――この時点よりもさらに過去のものらしいと彼は推測する。
写真は、この家の中を映したものの様だった。
中央には彼の父と、兄達と、もう一人見覚えのない女性が映っている。
その女性の顔は、少しだけピーターに似ていた。
父と、彼女の顔を混ぜ合わせて、小さくすればピーターの顔になるかもしれない。
「この女の人は誰?」
彼は、今よりずっと高い声で言葉を紡ぐ。
声変りをしていないから。
なにより、絶望を経験していないから。
「この人はね、お前のお母さんだよ」
「お母さん?」
そういえば、彼の周りの家には、男性の親と女性の親が一人ずついる家庭がほとんどだった。
なるほど、彼女が自分のもう一人の親であるらしかった。
「お母さんは、どこにいるの?」
彼がそう訊くと、父親の顔はこわばった。
その時の彼には、どうして彼がそんな顔をするのか理解できなかった。
だが、こわばったのも一瞬。
彼は、少し寂しそうな笑みを浮かべて。
「さあ、どうしてだろうな」
と言っただけだった。
彼には、父親の言葉の意味が分からなかった。
どこ、という質問に対してどうして、などと言われてしまったのかも。
そして父親が寂しそうな顔をしている理由も。
彼が、死という概念を知るのは、もう少しだけ後の話である。
◇
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