騎士と魔王とアンデッドと隻腕
近況を教え合う会話の流れは継続中であり、次はピーターの番だった。
「……という事情があって、ミクと僕は契約することになったんですよ」
「そうでしたね、今となっては懐かしい思い出です」
「ミクがそう思ってくれているならよかったよ」
穏やかな表情を浮かべたミクを見て、ピーターは安堵した。
ほとんど感情を見せない少女だったが、最近は麻雀とマーボードーフ以外のことでも表情を歓びに変えることが多くなった。
因みに、ピーターのもとに来た直後であっても、麻雀で役満を上がったときだけは満面の笑みを浮かべていたりもする。
「なんで三枚切れの字牌が当たるのよお!」というマルグリットの叫び声が印象的だった。
「いや、なんでそんな普通の顔ができるのよ?」
ユリアは、本気で引いていた。
「どうかされたのですか?ユリアさん」
ミクが、何か変な印象を与えたのではないかと危惧した。
「……ユリアでいいわよ。それより、今まで言われた流れを確認してもいいかしら?」
「ええ、どうぞ」
「まず、ミクを実験台にしようとしていた〈神霊道士〉という超級職がピーターのこともじっけんに使おうとしたことで、交戦状態に入ったのよね?」
「そうですね」
「その後、〈精霊姫〉の介入もあって、かろうじて〈神霊道士〉を撃破。しかし、〈神霊道士〉のアンデッドが暴走状態に入ってネームドモンスター化。それゆえに、〈精霊姫〉、〈教皇〉と協力してネームドモンスターを撃破。そして、怪我で一か月間意識不明だったってことであってる?」
「はい、それであってますよ」
「いや、何でそんな平然と語れるのよ。ネームドモンスターよ、ネームドモンスター!」
ユリアは興奮して声を荒らげた。
なるほど、彼女の言はもっともである。
ネームドモンスターは、生ける災害だ。
彼の言ったことは、例えるなら「津波に飛び込んだけどなぜか無事だった」というようなもの。
しかもそれを、「今日はいい天気だね」というくらいのテンションで話すのだから、ユリアがドン引きするのも無理はない。
「まあ、超級職が二人いましたからね。僕はほとんど何もしていませんよ。ミクにも助けられましたけど」
「いえ、お兄様が助けてくださったからですよ」
「いや、先にミクの方だよ」
「えへへ……」
ピーターに真っすぐな言葉と家族愛を向けられて、ミクは照れた。
ピーターは、基本的に嘘をつかない。
「りたもたすけたよ!」
「うんそうだね、ほら、リタにはクッキー」
「ありがとー!」
アイテムボックスから取り出したクッキーを、リタに味わわせると、リタは満足そうだった。
「それにしても意外だったわ、貴方と過激派筆頭の〈教皇〉が共闘したなんて」
「あはは、まあ師匠が説得してくれましたから」
ピーターは、概ね事実を語ったが、唯一隠していることがある。
それは、〈教皇〉がピーターを殺そうとしたということ。
ユリアが以前にしたことを思い出して、彼女の罪悪感を煽ることになるかもしれないし、あるいは彼女にこの国最高権力者に対する不信感を植え付けたくはなかった。
教会においては、未だにアンデッドや悪魔などという邪気に関するモンスターと、それに関与する職業は差別されても仕方がないという考えが主流なのだから。
ピーターは知らなかったが、特に〈教皇〉は過激派の中心人物である。
シルキーがいなければ、ピーターは百回は殺されていただろう。
「ネームドモンスターに超級職。そんな奴らと戦ってもなお変わらないのね……あなたは」
「まあ、結局やることは変わらないですから。いつだって、どんな状況だって、家族とともにあるために頑張るだけです」
「そうよね……」
とはいえ、ユリアもある程度はわかっていたことではあった。
この友人の精神はあまりにも強靭すぎる。
なにしろ、自分を殺しかけた人間をあっさり許し、こうして今もお茶を飲み、食事をしながら談笑しているのだから。
「まあ、超級職には慣れっこですからね。マギウヌスでは修行というか、死にかけるまでしごかれましたから」
「ああ、そうなの……」
シルキーにも修行ということで幾度となく挑み、そのたびに彼はあっさりと負けた。
雷撃で焼かれ、冷気で凍結し、障壁で吹き飛ばされた。
ほとんど虐待に近かったが、修行の果てに、十戦に一回は攻撃を当てられるようになっていた。
「超級職というのは、規格外の存在だからね、昨日来た超級職も規格外だったし」
「規格外?」
「道中で狩りまくった分隊級や師団級のモンスターの素材を大量に持ち込んだのよ。おかげで、市場が値崩れしちゃってるわ」
「うわあ」
薬品等の強力な素材でもあったから、必要なのは間違いないのだけれど、とユリアは補足した。
無理もないだろうとピーターは思った。
基本的に、国家間や都市間での移動の際、モンスターへの対処法は「逃げる」と「逃げさせる」である。
「というかそれって……」
「お兄様?」
「ぴーたー?」
この場に移動してきた超級職で。
圧倒的な戦闘力があり。
そのうえで、市場に配慮できない、よく言えばおおらかで豪胆な、悪く言えば大雑把な性格。
『主様』
「どうしたの、ハル」
『……近いです』
ハルの声色は、緊張している。
ただしそれは、敵を発見したからではない。
むしろ逆、もっとも彼女が会いたかったものを見つけたからだ。
ピーターも、それに勘づいた。
後ろにいる気配に。
「お久しぶりです、みなさん」
「ピーターさん、お久しぶりですわね」
「よう、ピーター、久しぶりだなあ」
「どうも、こんにちは」
ピーター達の背後にいたのは、三人の人物だった。
一人は、緑色の髪とひとみをしたエルフの少女。
〈竜師〉ラーファ・ホルダー。
一人は、筋骨隆々の男性。
〈魔王〉アラン・ホルダー。
ピーターの友人と、恩人である。
「ひっさしぶりだなあ」
「お久しぶりですね。というか、後ろから驚かそうとしてませんでしたか?」
「がはは、すまんすまん」
「らーふぁ、ひさしぶり!」
「ええ、リタちゃんお久しぶりですわ。あと、ピーターさんとハルさんも。そちらの方ははじめまして」
「ええ、お久しぶりです」
「初めまして、ミクと言います。お兄様と契約した〈僵尸〉です」
もう一人は、名前をピーターは知らなかった。
木製のお面をつけた、隻腕の男。
こちらも、引き締まったたくましい肉体を持っている。
加えて面でわかりづらいが、スキンヘッドだった。
ホルダー邸の門番であるということは知っていたが、まさかここに来るとは。
「ああ、名前を言うのは初めてでしたね。私は、ジョージ・アンダーウッド。ホルダー邸での門番をしております」
ジョージは、片方だけある右腕を差し出し、ピーターはその手を取った。
「こちらこそ、ピーター・ハンバートです。改めてよろしくお願いします」
「初めまして、〈聖騎士〉ユリア・ヴァン・カシドラルと申します。よろしくお願いします」
「ああ、わざわざご丁寧にどうも」
ユリアも、騎士の礼をしながら名乗った。
ユリアは、騎士団の代表としてアランやラーファと対面する機会があったがかくして
「ジョージは、俺の元仲間でな、昔のパーティメンバーだったんだ。色々あって、今はうちの門番とラーファのおもりを任せてる」
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