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ある日の夜の悪夢


「そういえば、ピーター。例のあれはどうなったかしら?」


 食後。

 さらに片付けが終わった後に、シルキーはピーターに尋ねた。

 因みに、野営の準備は完了している。

 モンスター除けの認識阻害の結界が展開されている。

 加えて、ラピスラズリによって障壁が展開されている。

 たいていのモンスターであればまずシルキーならば、負けることはないが、戦闘は極力避けるのがベストだ。

 そもそも、彼女が全力で戦闘をすれば生態系が壊滅し、どのような悪影響がもたらされるかわかったものではない。

 ゆえに、超級職は神秘迷宮のようないくら戦闘をしても問題がない場所で経験値を得るか、環境への影響を度外視した行動をとるかの二択になってくる。

 因みに、後者はおおむね指名手配犯になる。

 災害のようなものなので、是非もない。



「ああ、これですよね?」



 シルキーに指摘されて、ピーターは彼女から渡された二つのアイテムボックスを手にした。

 それを、そのままシルキーに渡す。

 そのアイテムボックスには、【自動収納】というスキルがついていた。

 


「ふんふん、なるほどね」



 シルキーは、そのアイテムボックスの中身を全て放り出した。

 クレイジー・エイプの脳、ドラゴンの鱗と心臓、ウルフ種の牙、怪鳥の嘴などなど。

 シルキーが倒したモンスターの一部(・・)が、入っている。

 【自動収納】というスキルは、所有者、この場合はシルキーの所有物を自動的に回収して収納するというスキルである。

 そして、モンスターを討伐した場合、その死体も所有物としてカウントする。

 シルキーが、収納した直後、道中に彼女が別のマジックアイテムを用いて解体した。

 そして、部位ごとにピーターが選別したのである。



「うん、一割きっかりちゃんと選別は出来てるわね」



 シルキーから出た課題として、「重量換算で上位一割の価値にあるアイテムだけを選ぶ」というものだった。

いかにマギウヌスから離れたとはいえ、勉強から離れたわけでは決してない。

 つまりそういうことである。

 マジックアイテムは、モンスターの部位を素材として作ることも珍しくはないので、より貴重な部位を選別できるかどうかは、ある種魔術師として必須の勉強だった。

 どうやら及第点らしいと、ピーターは安堵する。


「ただ、少しミスがあるわね。種族間の値段の差を勘定に入れてない。ドラゴンは丸ごと残して、ウルフとか魔獣系と、あと鬼系はおおむね省いたほうがいいわ」

「あー」



 確かに、ピーターのだとあくまで貴重な部位をまとめただけだ。

 種族によって値段の差があるのは当たり前だから、そこを考慮するべきだった。



「鬼系とかは基本安いのよ、まあ例外もあるにはあるけどね」

「そうなんですか?」

「まあ、色々ね。今日はここまで。そろそろ就寝にしましょう」



 シルキーにそう言われて、ピーター達は就寝することにした。

 いつの間にか、高く昇っていた月が、彼等を照らしていた。



 ◇



 夢を見る感覚は、人によって違う。

 夢は心の本質とも言われており、

 彼の特徴を挙げるのならば、夢を見た記憶が起床後も残っていることは珍しくないということ。

 そして、基本的に夢が夢であると自覚しながら見ていることだ。

 それは、彼の普段の在り方に現れている。



 彼自身も自覚していないが、彼の人格は二分されている。

 度し難い外道と対面した時など、特にそうだ。

 激怒し、軽蔑し、苦しめられるものには共感と同情をまき散らす。

 彼の心は、繊細で感情に振り回される。

 だというのに、戦闘に関しては徹底して冷静で、隙がない。

 死の恐怖で身がすくむことも、激情に駆られて冷静さを失うこともない。

 自分の命すらコストにして、勝利のために冷酷な立ち回りをする強い意思が彼にはある。

 それはシルキーに弟子として認められた理由であり、自棄の傾向がある、と心配される理由でもある。



 閑話休題。

 とにかく、彼は基本的に見た夢を、少なくともその日の朝の間は記憶している。

 例えば、愛する者とのいかがわしい夢であったり、以前の戦いの記憶であったり、あるいはわけがわからなない夢であったりとさまざまであったが、彼の意識はそれが夢であると知っている。



「ふざけるな」



 声がした。



「なぜ、お前のようなものが生きている。お前のようなものがなぜ死んでいない。何の権利があって、お前のようなクズが生きている」



 声の主は、彼を踏みつけた。

 蹴とばした、殴り飛ばした。

 唾を吐いた。

 何より、ごみを見るような、処理しなければならない汚物を見たような視線を向けた。

 そんな視線も、そんな声色も、そんな行動も今まで一度も取ったことなどなかったはずなのに。



「もういい、お前を息子とは思わん」



 そういって、彼をドアの外に、村の外に放り出した。

 そこで、目が覚めた。

 


 ◇



 悪夢を見た後の寝覚めほど、悪いものはない。

 次点で寒い朝だ。



「何で、今更あんな夢……」

「ぴーたー、おはよう?」

「おはよう……」



 目が覚めると、ひどく寝汗をかいていることが分かった。

 寝袋からはい出し、ピーターはあたりを見渡す。

 すぐ隣にはリタがふよふよと浮いていた。

 彼女は、眠ることはない。

 肉体が疲労とは無縁であるということもあり、睡眠は不要である。

 とはいえ、生前の慣習に引っ張られて気まぐれに眠ることはあるが。



「ぴーたー、どうしたの?」



 余程元気のないように見えたのか、リタが心配そうな顔でピーターを見てくる。



「いや、大したことじゃないよ」

「ほんとう?あせびっしょりだよ?」



 シルキーにも以前指摘されたことがあったが、ピーターは少々わかりやすい。

 今この瞬間など、ひどい寝汗をかいてしまっており、よほどひどい悪夢を見たことがわかる。

 ピーターは、起きあがってゆっくりとあたりを見渡す。

 ここは、リタの本体の中であり、そこにはハルとミクもいる。

 リタの本体は、ハンバート邸だった邸宅である。

 一つの村の中では最も大きな住宅であり、それなりに大きい。

 大体、シルキー邸の部屋の中にギリギリ納まるくらいだ。



「主様、よほどうなされたようですな」

「そうだね……」

「寝言をおっしゃっておりましたな。何を言っていたのかはよく聞こえませんでしたが」

「聞こえなくていいよそんなもの……」



 もう、古の記憶だ。

 わざわざ他者と共有するつもりもなかった。



「ふあああ、お兄様、リタちゃん、おはようございます」



 ナイトキャップをつけてパジャマを着たミクが、寝袋から出て挨拶をしてきた。

 アンデッドである彼女だが、リタやハルと違って、比較的肉体が残っているがゆえに睡眠をとったり食事をとったりする。

 消化器官が機能していないはずの彼女が、食事をした後どうなるのかピーターは内心では気になっているが、さすがにそれは失礼すぎると思って訊いていない。

 彼女の場合訊けば教えてくれる可能性もあったが、だからこそ、訊いてはいけないと思っている。

 ともあれ、アンデッドであってもミクの場合は眠ることもあるし、寝起きは頭がぼんやりとしていたりもする。

 一口にアンデッドと言っても、そこは個人差があったりする。

 リタは、時々睡眠をとることがあるが、ハルはピーターの知る限りでは一度も寝ていない。



「おはよう、ピーター、どうしたの?」

「ちょっと変な夢を見ていまして……」



 しばらくたって、リタの外で寝ていたシルキーが、扉を開けて入ってきた。

 その時には、ピーターはもう夢の内容を半ば忘れていた。

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