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学友

 ピーターが入学してから、一年がたち、学年も一つ上になっていた。

 そうなると、当然授業内容も厳しくなっていった。

 特に――フランシスコ・チャイルドプレイが行う魔術戦闘技術の授業は、なおさら苛烈になっていた。



 神秘迷宮である、『魔術師の学び舎』第十殻層。

 石柱がびっしりと生えそろった、じめじめとした空間。

 鍾乳洞のようになっているその空間には、迷宮が配置したモンスターと、教皇の配置した罠が多数仕掛けられている。

 すなわち、三種類の生物がいた。

 一つは、人間。

 または魔法使いと言われているもの。

 二つ目は、アンデッド。

 かつて生物だったものが、死後新たな命を得て蘇ったもの。

 無尽蔵の体力を持ち、聖属性などの弱点を突かれなければまず倒されることもない。

 三つめは、その二つと戦うもの。

 四本の、鋭い爪の生えた、鍾乳石をへし折りながら突き進む足。

 全身を覆う、そこらの金属製の鎧より硬い鱗は、あらゆる属性魔法への耐性を兼ね備えている。

 頭部には、破城槌を想起させるような頭蓋骨が備わっており、まともに突進を受ければ、魔法職の耐久では一瞬で破裂し、液体と化すだろう。



「ウオオオオオオオオオオオ!」



 ドラゴン。

 その中でも、今ピーターが相手をしているのは、ラムバート・ドラゴンという名の地竜で、分隊級のモンスター。

 速度と攻撃力で言えば、まず間違いなく地竜最上位。

 ハルでも正面から受ければ、まず間違いなく吹き飛ばされるだろう。

 そんな相手に、人の身では抗うことは出来ない。

 


「【クリエイト・アース・ゴーレム】!」

「【アイシング・エンチャント】!」

 



 ジーク、マルグリットのスキル宣言によって、周囲の大地が変形し、ゴーレムと化す。

 地面を変形させ、精霊の一種であるゴーレムとして仮初の命を与えて動かす。

 マルグリットの最も得意とする魔術である。

 そこに、ジークの付与魔術によって、さらに硬度が上がる。

 加えて、触れた傍から、鱗の凍結が始まる。

 強大なドラゴンすらも、わずかな間動きが止まる。



「ハル!【ネクロ・スピード】、【ネクロ・パワー】」

「承知!」



 ピーターのバフをかけられて、ハルがドラゴンの側面に回り込む。

 狙いは首。

 乾坤一擲の一撃を叩き込まんとするが。



「オオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

「ぬう!」



 が、そこはドラゴン。

 生物の長。

 黄色のオーラを放出すると同時、ゴーレムの凍結による拘束を振り払ってハルの攻撃も弾く。

 ドラゴンという種族固有のスキル、【龍覇気】だ。

 不意を突くはずの一撃は、相手側の切り札によって防がれた。

 ラムパード・ドラゴンは、そのままハルの方を向いて、最も戦力として強力なハルを倒そうとする。

 だが。



「そちらも、囮です」



 ゴーレムは自壊して、中から一人の少女が現れる。

 人ではない、アンデッドの少女。

 〈僵尸〉のミク。



「【尸廻旋】、【死後硬直】」

「【ネクロ・ディフェンス】、【ネクロ・パワー】」



 使うのは自身の肉体を浮遊させるスキルと、MPを注ぐことで、肉体を硬化させるスキル。

 【死後硬直】のデメリットとしては、硬化した箇所は関節なども含めて動かせなくなるということ。

 仮に全身を硬直させれば、微動だにしない石像のようなものができるだけである。

 だが、一部だけ、拳だけ硬化すれば、問題はない。

 そして、一点だけをMPを全て注いで硬化すれば、その硬度は、ハルすらも上回る。



「はあっ!」



 彼女の全力を込めた乾坤一擲の一撃。

 その拳は、ラムバート・ドラゴンの首をへし折った。

 それが、決着だった。



 ◇



 戦いもとい、授業が終わって、ピーター達は学外で食事をとっていた。

 


「いやー、何とかなりましたね」

「そうだね。正直、五殻層を突破できるなんて夢みたいだよ。ピーター、ミク、ありがとう」

「いえいえ、ジークさんの功績も大きいですよ」

「そうですね、お兄様の合図に合わせて解凍できるのはさすがです」

「あはは、そういう制御ができないと、仲間と戦うことは出来ないからね。特に僕みたいな攻撃力のある魔法を使う人たちは」



 あのゴーレムは、土のゴーレムを凍結させることで強化したものだ。

 それを瞬時にジークの魔術で解凍することによって、中に入っていたミクが動けるようになり、隙をついて攻撃を当てて勝利。

 策が見事にはまった形である。

 あれで仕留められなくても、ハルがまだ控えていたが、ミクがあっさり勝負を決められたのならそれに越したことはない。



「私も、友人として鼻が高いわ!」

「あ、ありがとう」



 ジークは顔を真っ赤にして照れている。

 ジークは、あまり自己評価が高くない。

 それがどういう理由なのかは、ピーターにはわからないが、とにかくことあるごとに自身を卑下してしまう癖がある。

 理由は知らないし、おそらく今後もピーターは知ることはないだろう。

 そこまで踏み込むべきではないだろうと思っているから。

 ただ、一つだけピーターにもわかることがある。



「好きな異性に褒められるのは、嬉しいですよね」

「ちょ、ちょっとピーター!」

「?」



 ピーターの発言に対して慌ててジークが待ったをかける。

 幸い、マルグリットには聞こえなかったようで、何のことかわからないという顔をしていた。

 


「ぴーたーもすごかったね!がんばった!」

「ありがとう、リタ、愛してるよ」



 自分に向けられた発言だとかわいい勘違いをしたリタに、ほおを緩めてピーターは返す。

 なお、彼女が勘違いしたのは、リタが空気を読めないというわけではなく、いつもピーターがそんな風に愛を告げているからである。



「「「……うわあ」」」

「あの、どうして皆さん同じ顔と声をしているんですか?」

『同じ事を考え、感じたからではないですか?主様』



 余談だが、マギウヌスでは恋愛や結婚は子孫を残すためという考え方が強い。

 そのためーー従魔や子供との恋愛は、道徳的に一切認められていないという現実があり、長くピーターと接しているマルグリットやジーク、そしてミクも、そこの部分は変わらない。

 残念でもなく当然の話だが。



 話は、ピーターの今後の予定の話に映っていた。



「つまるところ、祖国に帰るってこと?」

「まあそういうことになりますね」

「大変だねえ」



〈冥導師〉ピーター・ハンバート。

 ゴーストハウスのリタ。

〈僵尸〉のミク。

 ハルバード・ドラゴンスケルトンのハル。

 上級職である〈黄土法師〉に転職したマルグリット・ランドウォーカー。

 同じく転職を果たした、〈無氷法師〉ジーク・パルマフロスト。



 そこで、三人はいつも通り食事をとっていた。

 ピーターは、パンとベーコンエッグを食べながら、横目にイチゴタルトを味わうリタを眺めている。

 後で、リタの味わうイチゴタルトはピーターが処理することになる。

 そのことを想像するだけで、彼の口元は緩む。

 マルグリットとジークは、そんな彼に呆れつつも、とりとめのない話をする。

 いつも通りの光景だった。



「そうすると、休学することになるんだよね?」

「そうですね」

「それでいいの?」



 マルグリットは心配するようにピーターを見てくるが。



「元々、この国には修行のために来ていますからね。卒業が目標ではないんですよ」



 アンダーカレッジを卒業すれば、この国において様々な便宜が図られる。

 各研究室などにおける研究への紹介状にもなる。

 また、就職するにしてもまず落ちることはない。

 だが、ピーターに関しては当てはまらない。

 彼は就職する必要はないし、研究もできない。

 彼がかかわりたいと思える唯一の研究所は、一年ほど前にとある事情によって滅び去ってしまっている。

 それについてのデーターは、ある程度公開されたものの、大半は秘匿されてしまっている。

 シルキーでさえも、閲覧することはできないらしい。

 中には、あの巨大アンデッドを作り出す術式もあると考えれば無理もない話ではない。



「とはいえ、いずれ戻るつもりですけどね」

「そう、まあ気を付けなさいよね。あぶなかっしいもの」

「それはそうだね、無茶しすぎないように」

「すみません、心配おかけして……」



 一年ほど前、意識不明になっていたピーターは、反論できなかった。

 

 

「あ、それロンです」

「え、ちょっとお!何よその待ちはあ!」

「お、落ち着いてよマリー」

「うわ字牌待ちで、倍満かあ、すごいねミク」

「ありがとうございます、お兄様」

「みくすごい!かっこいい!」

「とんじゃったんだけど……。もおーっ!」



 雀荘(・・)で食事をしながら会話をしているピーター達の声が閑散とした響き渡るのであった。



なんで麻雀を異世界ファンタジーで私は出してるんでしょう……。


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余談。

・【龍覇気】

オーラを出す。ハンター〇ンターの「練」みたいなイメージ。

ドラゴンならみんな使えるスキル。

MPを消費して自身の攻撃力、防御力を引き上げる。

ただし、循環器系でオーラを生成しているので、ハルのようにドラゴンからアンデッドになってしまうと使えなくなる。

ちなみに、MPを消費して魔法攻撃を放つブレスは消化器系で作られる。

……尻からブレスを放つドラゴンもいるらしい。

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