7話 こんな世界、いらない。
7話 こんな世界、いらない。
酒神終理は、今、全力で悪者を演じている。
この女が、こんな人間じゃないことを、彼女達は知っている。
なんせ、酒神終理は、幼児のころから、ずっと、
世界のために、必死に戦ってきたスーパーヒーロー。
この世の誰よりも純粋で美しい正義の味方。
ゆえに理解する。
酒神終理が、『覚悟』を決めたという事を!
この女は――このヒーローは、
本気で、自分たちを殺そうとしている!
「聖堂たん。あんたには一言だけ、どうしても言いたい事があるんでちゅけど、言っていいでちゅか?」
「なんだ?」
「男の趣味悪すぎっ! ワロタ!」
爆笑している終理。
その笑い声を無表情で聞いている聖堂。
そして、その他の、立ち尽くしているバカ女共。
そんな彼女たちに、
才藤は、
「おしゃべりしている場合か、アホどもぉおお! 逃げろぉお!」
喉をからして、
「勝てないっつってんだろうがぁ! わかってねぇなら、教えてやる! あいつは酒神終理! てめぇら全員を足して10を掛けても届かない、超人の中の超人だ! 敵になった時点でアウトの最悪! その最悪が、今、お前らを殺そうと、『ラスボスに剣翼を組み込んだ最強兵器』に乗って銃を構えている! お前らは! 無様に! 逃げるしかないんだよ!!」
「レイたん。残念でちゅけど、アホに何言ったって無駄なんでちゅよ。人は人の話を聞かない。それが……それだけが、この世界の『真理』。というわけで、はい、ドーン」
終理はそう言うと、
ついに引き金を引いた。
「くっ! くそったれぇええ! ――白く輝く剣。絶望を切り裂く刃。さあ、詠おう。詠おうじゃないか」
詠唱中に発動する『空間乖離フィールド』により、
終理の射撃は無効化される。
「まばゆい星が流れゆく。貫くような銀河を見上げ、煌めく明日を奪い取る。たゆたう銀河を模した杯を献じながら。――俺は、才藤零児。白銀に輝く剣を背負い舞う流星!」
詠唱終了直後、
才藤の背中に顕現する、
後光のような六本の剣。
「Zフィールド、展開! 最大出力!!」
「乖離バリアならともかく、白銀の防御フィールドなんて、この子の前では紙でちゅよ」
ニィっと笑って、再度、引き金を引いた。
発射される凶悪なビーム攻撃。
Zフィールドで受け止めた瞬間、
才藤は理解した。
(どんっだけ、火力あげてんだよ! 重いなんて次元じゃねぇ! 無理! 耐えられ――)
ドガンと吹っ飛び、
壁にめりこむ才藤。
「零児ぃ!」
即座にかけよってきた聖堂を雑に押しのけ、
才藤は終理を睨みつつ、
喉を嗄らさんばかりに、
「聞け! 酒神終理! お前に託す!」
「ん? 何か言いまちたか?」
「くれてやる! お前が一人で出来るというのなら! 俺などいらないというのなら! 喜んであんたに! 世界を救ってきた最強で最高のヒーローであるあんたに全部くれてやる! だから、こいつらには手をだすな!」
「おやおや、レイたん。さっきから、ずいぶんと直接的なモノ言いじゃないでちゅか。いつもみたいに、ファントムトークを駆使した『カッチョいいヒール』を演じなくていいんでちゅか?」
「俺だって理解できている! 俺はあんたに……『ヒーロー』に憧れて、でも、ヒーローになれなかった、ただのクズだ! 分かっている! 理解している! だから!」
「だから、恥ずかしくて、つい、ヒーローのまね事をする時には悪ぶっちゃっていた、と。とてもじゃないけど、真正面からヒーローを演じる事はできなかったと。この迷宮を攻略し始めた時から気付いていまちたけど、レイたんは、ずいぶんな厨二さんでちゅねぇ」
「認める! 俺はただ、カッコつけていただけの無能だ! 本物なんかじゃない! 全てあんたの言うとおり! 何の価値もない俺なんか、とっとと殺してくれていい! だが、頼む! こいつらには手を出すな! 頼むから……聖堂を……殺さないでくれ」
「ほむほむ。……ん……あ、申し訳ないでちゅ。ちょっと考え事をしていて聞いていまちぇんでちた。もう一回、最初から言ってもらっていいでちゅか?」
「っ!! くっ……」
泣きそうな顔になった才藤に、
終理は、
「冗談でちゅよ。なんて顔してんでちゅか。ははっ」
軽く笑ってから、
「レイたん。どうせ全部消えるんでちゅよ。オイちゃんはこの世界を丸ごと創り変えるつもりでちゅから」
「丸……ごと……?」
「オイちゃんの視点だと、この世界はゴミでちゅ。アホとクズだけが跋扈している地獄。せっかく、オイちゃんという光があるのに、それをまったく有効的に活用できず、むしろ、そのオイちゃんを嘆かせてばかり。こんな世界……」
スゥっとトーンが低くなり、
ボソっと、
「……いらない」
彼女の心に反応でもしたのか、
ミスターZのメインセンサーがギラリと鈍く光った。




