1話 才藤零児の日常。
1話 才藤零児の日常。
――翌日の朝。
登校すると、
(おやおや)
才藤の机は芸術的な有様に変貌していた。
マジックで、『死ね』や『キモい』と大量に書かれており、
教科書等が破られた状態で散乱しており、
机の中には生ゴミや、小動物の死体が詰められていた。
(うぅわっ……子猫やハムスターの死体まである。まさか、このために殺したんじゃねぇだろうな。引くわぁ)
視線を動かして、クラスメイトたちの顔を確認してみた。
このクラスにも3割ほど存在する『比較的マトモ』な連中は、
才藤の様子を、少しだけ心配そうに窺っていて、
『比較的普通』な6割の連中は、無責任なヤジウマをしている。
そして、最後の1割は、
俗に一軍・イケてるグループと呼ばれている風見達で、
犯人特有のあからさまな顔でニヤニヤしながら才藤を見ていた。
(俺が地下迷宮研究会に入ったから……かな? クラスカーストの王様的には、『軽くイジっていたカス』の『妙な成り上がり』は非常に遺憾であるため制裁を加えることと相成りました的な? まったく……教科書や机はともかく、小動物の死体で遊ぶのはやめとけよ。ここまできたら、流石に笑えねぇぞ)
しんどそうな顔でため息をついていると、
「おいおい、サイトー、どうした? なんかあった?」
風見が声をかけてきた。
「んー、うーわ、お前の机、どしたん? ヤベぇ事になってんじゃん」
その発言の直後、取り巻き連中の笑い声がクラスに響いた。
笑っている連中に、才藤は視線を送ってみた。
別に睨んではいない。
どんな顔をしているのか見たかっただけ。
連中は、才藤が冷たい視線を送っても、
楽しそうに笑っていた。
(スゲェな。どういう精神構造してんだろ。ちょっと、お前ら、周りを見てみろ。比較的マトモな連中がゴリゴリに引いているぞ)
そこで、風見が、才藤の肩に手をまわしてきて、
「まあ、でも、お前ってリア充のエリートだから、このくらいは何ともないよな? むしろ、良い事と悪い事がつりあって、人生が均等になった的な? よかったな」
(理屈が超展開すぎて理解がおいつかないな)
『さて、どうしたものか』と考えていると、
「ちょっと聞いた話なんだけどさぁ……お前の親父って連続強姦魔なんだって?」
(ん? まさか調べたのか? 別に隠してないから、少しその気になって調べれば簡単に分かるだろうけど……んー、つまり、こいつは、少しその気になって俺のバックボーンを調べたってことか。どんだけヒマなんだ。俺みたいなカスのことは、無視しとくのがベストなんだけどねぇ)
心の中で呟いてから、
「確かに俺の父親は最低の鬼畜だ。で? それがなんだ? だから石を投げても構わないだろって言いたいのか?」
「あ? んな事言ってねぇじゃん。なに? 被害モーソー? 引くわぁ。てか、キズついたわぁ。おい、謝れよ。手をついて」
「それ、どういうギャグ? どうせなら、もう少し面白い事を言ってくれない?」
「……なんだ、その態度」
才藤の揺るぎない態度に、
本当にイラっときたらしく、
「ガチで言ってんだよ。謝れ」
そこで、風見は、取り巻き連中を煽り、リズミカルに手を叩いて、
「ど、げ、ざ! ど、げ、ざ!」
すると、取り巻き連中はもちろん、
ヤジウマしていた連中の中でも、何人かが乗ってきて、
結構な合唱になった。
土下座コールを一身に浴びた才藤が、
(土下座ねぇ……別にやってもいいんだけど……さてさて)
呑気にそんな事を考えていると、
流石に見かねたらしい『比較的マトモ』な連中の中でも、
特にマトモな、学級委員をしている女子生徒の山村が、
「あの……風見くん、流石に、そろそろ……ちょっと、やりすぎじゃない?」
おずおずと、しかし、勇気を出してそう言った。
そんな彼女の勇気を目の当たりにして、
それまでずっと超然としていた才藤が、初めて動揺を見せた。
(や、ヤベぇ! この展開だけはマズい! 俺へのヘイト(敵意)がそのまま山村に移っちまう)
ブワっと冷や汗が出る。
(クソバカ女が……俺のことなんざ、無視してりゃいいのに……俺の顔色、ちゃんとみろよ。この程度でヘコむほど、俺はまともじゃねぇんだよ、くそがぁ!)
心臓の鼓動が驚くほど速くなる。
「あぁ? やりすぎぃ? ねぇ、山村さぁん……何がぁ?」
風見は、山村に対して、かなり威圧的に、
「俺は酷い事を言われたから謝ってほしいってだけなんだけど? 何がやりすぎ? あ? マジで、どういう意味? あ?」
「ぃ、ぃや、ぁの……」
ついに、うつむいて、プルプル震えだした山村を見て、
才藤は覚悟を決めた。
クラス中に聞こえるくらい『大きく舌打ち』をしてから、
スゥゥっと息を吸って、
『スーパーサイコパス才藤零児』は、
「引っこんでろ、ブス、ごらぁ!」
喉をつぶす勢いで叫んだ。




