44話 いたい男。
44話 いたい男。
才藤は、一か所だけ、ほかよりも若干柔らかい部分を見つけると、その部分に、親指を当てた。
「すぅう」
大きく息を吸い、丹田に力を込めてから、
グ、グ、グっと三回強く押してから、
もう二回、親指で二回押した。
その瞬間、
ドゴォオオンン!!
と、巨大な爆裂音が響く。
凶悪な火力の爆裂をモロに全身で受けた才藤は、
その場でプスプスと煙を吐きながら仰向けに倒れている。
(いってぇぇ……いてぇ……いてぇよぉ……くっそぉ……)
激痛の中で、
才藤は、奥歯をかみしめながら、
(マジで、貫通ダメージなんて設定するんじゃなかった……あぁ、痛いぃ……胃痛が可愛く思える激痛だ……くそがぁ……ぁあ、痛いぃ……)
才藤はボロボロになっているが、
しかし、そのおかげで、壁に大きな穴があいた。
密閉状態ではなくなった途端、
羽金の容体は、驚くほど回復していく。
「すぅう……はぁ、はぁ……すぅ、はぁ……」
冗談みたいに、ほんの数秒で、呼吸が安定していく。
人体の不思議。
「大丈夫か、羽金」
「すぅ……はぁ……はぁ……ぅ、うん。閉じ込められてさえいなければ……平気……ほ、ほんと、ごめん。心配かけて」
「気にするな。君はいつも私達を助けてくれている。いつも、いつも、細かな雑務を全て君に任せてしまい、すまないと思っている。私を含め、こんな面倒な連中を、いつも裏から支えてくれて、本当に感謝している。……君は……とても大事な仲間だ」
銃崎は、そう言うと、羽金に肩をかした状態で、
『ボロボロになっている才藤』の横を、
何も言わずに通りぬけていく。
そして、全員に、
「さあ、進もう。何が起きたかよくわからんが……運よく道は開けた。そこのマヌケは放っておけ。『くだらない』ケガしかしていない」
「……」
才藤は、全身を駆け巡る痛みの中で、
(俺の方も、全然くだらなくねぇっつーの。どう見ても重傷だろうが……なに、ドヤ顔で皮肉ってんだ。銃崎のボケがぁ……ムカつくわぁ……死ねばいいのに……)
才藤の事など全く気にせず先へと進む上級生三人。
残された才藤と、その痛ましい姿を見下ろしている華日と聖堂。
二人の美少女は同時にため息をついた。
――聖堂は、才藤に近づき、頭をパシンとシバく。
「……痛い……」
「確かに貴様はイタい男だ」
「雅ちゃんの言うとおりね。なんで、そう、無駄にひねくれたマネしか出来ないのかしら」
言いながら、二人は、ダンジョンに潜る前に銃崎から渡されていたポーションを才藤にぶっかけた。
希少な薬を二つも使ったので、
才藤の体は、みるみる内に治っていく。
「あー、痛かった」
立ち上がると、肩を回しながらそう言って、美少女二人に視線を向け、
「てか、お前ら、バカじゃね? なに、貴重なポーションをこんな所で使ってんの」
「バカは貴様だ、クソ愚か者」
「ほんと、バカよね、大馬鹿」
自分の横を抜けていく二人。
――才藤は、そんな二人の背中を睨みながら、
「……うっせぇ、ぼけぇ。全員、死ねぇ」
バツが悪そうな顔でそう呟いて、彼女たちの後を追った。
才藤は『しばらくは距離をとって歩こう』と思っているらしく、
銃崎たちに追いつかないよう、ノンビリ歩いていたのだが、
前方の曲がり角付近で、
五人の美少女達が、壁に密着するステルスゲースタイルで、
静かに曲がり角の向こうを観察していた。
何があったのだろうと、ゆっくりと近づいていき、聖堂の肩をポンと叩き、
「何があった?」
「黙れ。虹色がいる」
「え、マジ? ぃや、でも条件は満たして――」
才藤も、身をかがめ、壁際に隠れたまま、曲がり角の向こうに視線を送ってみた。
すると、そこでは、
虹色の輝きを放つ、
『ドッジボールみたいなの』がピョンピョンはねていた。
(んー……げっ! あれ、虹色じゃねぇ! レイントラッパーだ)
『虹色』によく似ているが、実は『倒してしまうと、様々な最高位のワナが発動してしまう』という、とんでもなく面倒なモンスター。
「ダメだ。アレはレイ……おろろろろろろ……」
久々に感じた吐き気。
強烈な不快感が全身を駆け巡る。
(こ、これもネタバレ扱いになるのかよ……クソがぁ……)
どうにか飲み込んだものの、
悪心と眩暈は止まらず、頭がクラクラする。
「うぅ……ぉぇ……」
「才藤。うるさい、黙れ」
羽金の件以来、態度が露骨に冷たい銃崎が、
才藤の頬を、愛情のない平手でぶっ叩いてから、
「こんなのは放っておいて、虹色を確実に狩るぞ。全員、続け」
「ま、まて……ダメ……」




