38話 俺たちで、ハッピーエンドを捏造する。
38話 俺たちで、ハッピーエンドを捏造する。
「ちゃんとしたバランス調整なんか、当然やっちゃいないんだが、『さすがにこれはダメだろう』っていう最低限の線引きはしちまった。最強アイテム『英雄の剣翼』はそもそもこの世界に存在しないし、最強職業『ハッカー』や『ヒーロー』になれるのは……ミスターZだけっていう……イカれた……設定に……」
そこで、才藤はハっと顔をあげて、
酒神――ミスターZの目を見る。
「そう言えば聞いてなかったが……あんたの職業……まさか……」
「ハッカーとヒーローとエンジニアのトリプルでちゅ」
「は、はは! はっはぁ!! っっしゃぁあああ! 見えてきた……見えてきたぞ。って、ちょっ……トリプルって事は、あんたの職業ランクSS+? す、すげぇな。よくそこまで上げられ……ん、ちょっと待て。あんた、これまでに、ハッカーのスキルを使いまくったりしてないだろうな? アレは使いすぎると頭がバグる諸刃の剣――」
「ラスボスまではヒーローのスキルだけで余裕でちたから、心配いりまちぇん」
「ぁ、ああ、そうだよな。……あんたの頭脳があるなら、言わなくても分かるだろうけど、これからも、無茶はするなよ。ミスターZが発狂して『狂人』にクラスチェンジだなんてシャレにならないからな。ちなみに、これは冗談じゃなく、マジで、頭がおかしくなって異形種系にクラスチェンジってシステムが存在するからな。ほんと、頼むぞ。……さてさて、こうなってくると、取れる手段が大量に増える……はてさて、どうする」
そこで、才藤は真剣な表情で黙りこみ、
(アドレスの変数をいじって、剣翼の複製品を……いや、ダメだ。コピーの所有者はスキル使用者になる。意味ねぇ。じゃあ、譲渡不可のシステムを変更……いや、だめだろ。もともと複製するとピンキリの劣化版になるのに、さらに解除ペナルティで劣化しちまう。そんなもん、使い物にならねぇ。となると、ゲームシステムそのものの変更くらいしか……って、んーなの、ダメに決まってんだろ。システム変更なんざ、めちゃめちゃSAN値(正気度)減少が激しい狂気の沙汰じゃねぇか)
うんうんと唸りながら、
(じゃあ、フラグ処理をちょいと弄って、酒神を戦場に引っ張り出す……だめだ……フラグ処理は、ミスると、迷宮全体がバグっちまう。有効的な手段となると……くそ……ハッカーは最強なんだが、それゆえに調整が難しいのと、デメリットが大きすぎるのがネックなんだよなぁ。酒神がどうでもいいヤツなら、テキトーに使い潰すんだが、ミスターZをバグらせる訳にはいかんからなぁ……ぇっと、えっとぉ……そうだ!)
結論にたどり着くと、
才藤は、酒神の目を見つめ、
「酒神。俺たちがサヴァーテと戦闘する時に、ちょいと乱数を調整して、こっちのクリティカル率をあげてくれ。それだけなら、ほとんどSAN値は下がらないはず――」
★
――第ゼロ校舎のエレベーターは二つある。
地下迷宮研究会の部室の奥、メンバー以外は使えない『レトロ全開大正ロマンチック蛇腹エレベーター』こそが、真理の迷宮へと続く唯一のルート。
全メンバー(酒神終理以外)が乗り込んだのを確認すると、
銃崎は、三桁のパスワードを打ちこんで降下のレバーを引いた。
ギィオンギュオンと奇怪な音が響く。
直後、瞬時に、メンバーの服装が、
制服から、それぞれのジョブに応じた戦闘服に切り変わった。
『銃崎』は、パラディンらしい重武装に、
顔の左半分だけを隠すドラゴンの仮面を装着しており、
『羽金』は、サムライにしては可愛らしすぎるミニスカ浴衣の上から、
胸板と籠手と手甲だけのライトな甲冑を纏っていて、
『怪津』は、桜色のマーメイドラインドレスを見事に着こなしている。
――きっかり二秒後、エレベーターはガクンッと超高速の降下を開始する。
一瞬だけ、凄まじい浮遊感に襲われたが、
なぜだか、それは、すぐにおさまった。
「これのパスワード、三桁しかないのよね?」
華日に問われて、銃崎は目線だけで反応を示す。
「1000回試せば、地下八階に続くパスワードが分かるんじゃない?」
「それを、今まで、誰も、一度も、やらなかったと思うか?」
「……で、結果は?」
「何も起こらない。たどり着いていない階層のパスワードを打ちこんでも無意味ということだ。おそらくは、到達データが自動記録され、その記録された情報を元にしないと行き来はできないのだろう」
両者の話を横目に、
才藤は心の中でつぶやく。
(その推測は正解なんだけど、エレベーターでいけるのは七階までなんだよなぁ。そして、サヴァーテを倒した後は『階段への扉がある玉座の間』に入れないから、七階の左奥にある秘密部屋から八階に転移するしかない。ま、んなことぁ、どうでもいい。酒神のチートを使って、とっととサヴァーテを殺して、階段を下り、最奥の部屋にいく。そして酒神と一緒にハッピーエンドを捏造する。大事なのはそれだけ。……必ず、世界を変えてやる)




