33話 俺も、誰かを……
33話 俺も、誰かを……
華日は、ギリっと奥歯をかみしめてから、一度、深呼吸をして、
「あたしなんかよりも遥かに辛い人生を歩んできた才藤零児なら、『あたしの気持ち』を『無責任にぶつけられるかも』って……そんな期待をするのは……ねぇ、どうしても、ダメな事?」
「……」
「雅ちゃん」
そこで、華日は、頭を下げて、
「手伝うって言ったのに、ごめんね。あいつと雅ちゃんがうまくいくようにするの……無理」
そんな華日の想いを受けて、
聖堂は、
「クソが……」
苦々しい顔で奥歯をかみしめ、
「酒神華日。よく聞け。貴様が何を思い、何をどう考えようと関係ない。あいつを殺すのは私だ。世界で一番、あいつを憎んでいるのは私だ。誰よりも、あいつを恨んでいるのは私だ。あいつの事は、私が、この世の誰よりも……殺したいほど……」
「うん、知ってる」
華日は、聖堂の目をジっと見て、
「でも、ひかない。そう決めた」
★
授業に出る気になれなかった才藤は、
旧図書館横にある自習室の机で、
保存されていた古い新聞を五紙ほど読みながら物思いにふけっていた。
ここにある全ての新聞に掲載されている記事の共通項は、
謎のスーパーヒーロー・ミスターZの華麗なる活躍。
(ミスターZの存在を知って……死ぬほど憧れた)
ミスターZの記事に目を通している間だけ、才藤の心は安定する。
ミスターZの偉業に触れている時だけ、常に才藤の心を苛んでいる『スカイツリーのてっぺんで片足立ちしているような不安定感』が一時的に霧散する。
(この世界は捨てたものじゃないんだって、初めて思えた。俺を迫害するクズだけじゃない……死ぬ気で世界を良くしようとしているヤツが、この世界には確かにいる)
それを想うと、涙があふれた。
生まれて初めて、生まれたことを嘆かずにすんだ。
(俺も、誰かを救えるんじゃないかと思った)
だから、中学の時、行動に移した。
『すべての痛み』を飲み込んで、
『すべての絶望を塗りつぶす漆黒』になろうともがいた。
(……無様な話だ。結局のところ、俺の根本にあるのは、『高潔な正義感』なんかじゃなく、『誰かを救えば、自分も救われるかもしれない』という打算でしかなかった)
才藤は、ふぅと溜息をつきながら、窓の外に視線を送る。
妙に爽やかな輝きが、世界を照らしている。
(結局、俺は救われず、ツケだけが残って苦しむハメになった……救えたヤツも多少はいるかもしれないが、根本の解決なんて何もできず、しっちゃかめっちゃかになって、恥ずかしい黒歴史になっただけ……)
視線の先、遙か上空でおりなされている蒼穹と白菫のコントラスト。
(ああ、ヤベぇ……このゾーンに入るとまずい)
人生を振り返ると苦しくなる。
絶望と後悔と羞恥しかない過去。
(肥溜みたいな人生に振り回されてきて……現在は、攻略できないと世界がおわる迷宮に挑戦中。おまけに、時間的な問題で、ほぼ詰んでいる状態。……なんだ、これ……なんで、俺ばっかり、こんな目に……つっ……胃が痛ぇ)
くしゃくしゃと頭をかきむしる。
(あぁ、痛いぃ……胃が痛いぃぃ……ぐぬうぅ……)
常に感じている『極度のストレス』による内臓の鈍痛。
いつもは必死に無視しているが、
たまに耐えきれなくなって、
『痛い、痛い』と、心の中で叫んでしまう。
(なんで、俺ばっかり、こんなに苦しまないといけないんだ。なんで……)
流石に苦悶がオーバーフロー。
人生という地獄に対して、
臓物が全力で嘆いている。
――そんな時、
「サボりはダメでちゅよぉ」
急に声をかけられ、才藤は、ビクっと肩を揺らす。
振り返ると、ニタニタと笑っている巨乳のギャルJKがそこにいた。
そのギャルは、流れるように、
才藤の一つ隣のイスに腰掛け、
「オイちゃん、授業をサボるのとか、よくないと思いまちゅ」
(酒神終理……)
「悪い事はダメでちゅ、絶対なんでちゅ。オイちゃん、サボる人とか軽蔑しまちゅ。許せないでちゅ」
「……この時間にここにいるって事は、あんたもサボってんじゃ……」
「え? ……はっ!」
目をひんむき、両手で顔を隠しながら、
「……き、気づかなかったでちゅ……まさか、知らず知らずのうちに、オイちゃんがこの世で最も忌避している愚行に興じていただなんて……恥ずかしいでちゅ! 滑稽でちゅ! 無様でちゅ! ああ、死にたいでちゅ! 生まれたことを謝りたい、そんな今日この頃でちゅ!」
(やべぇ……こいつ、聖堂以上の変態だ。探せばいるもんだな。聖堂以上の変態。いや、まあ、探してねぇけど……つーか、最近、多くね? 探してないのに、必死に探しても中々みつからない級のド変態に遭遇する機会が、ここ最近、ちょっと多すぎね?)




