第97話 「絶望と言う悲しみの渦に、飲み込まれて行きますわ」
…………。
ラミスが気が付くと、そこは何時もの牢の中で。そして何時もの様に天井を見上げていた。
…………。
……はわ。
……はわわわわわ。
「何ですの、あの化け物は。」
もう少しだったのに……。後少しでヘルニア帝国に勝利し。ツインデール城を、ツインデール公国を取り戻せたと言うのに。
それなのに。……ああ、それなのに。
突如現れた新たな怪物、豚王。
「あんな化け物に、勝てる訳ありませんわ。」
……豚さん祭りですわ。もう、豚さんは見たくありませんわ。
あれ程の強さを誇るクリストフ将軍が。あの豚達を、一撃の元に屠る公国最強の剣聖が。それもたったの一撃。それも一瞬で倒す怪物、豚王。
……それは、まさに化け物だった。
決して人に倒す事など出来ない、化け物。怪物は倒せないからこそ、怪物なのだ。
ラミスは後一歩の所まで勝利を確信し、その勝利がただの幻だったと知り。ラミスの目から、ほろりと涙が零れ落ちる。
「……うう。」
ラミスの涙腺が崩壊し、その目から涙が溢れだす。
「あんまりですわー。」
ラミスは転がった。
……ごろごろ。
「横暴ですわー。」
……ごろごろ。
「不条理ですわー。」
……ごろごろ。
「後ちょっとでしたのに、もう少しだと思いましたのに。やっと、この長い戦いが終わると思っていましたのにー!これは流石に、あんまりですことよー!!」
……じたばた、じたばた。
「もう、ムリですわー!」
……じたばた、じたばた。
「もう、やですわー!」
……じたばた、じたばた。
「もう、痛いのやだー!」
……じたばた、ごろごろ。
ラミスはぎゃん泣きした。そして何時も以上にじたばたし、ごろごろした。
それ程迄に、ラミスの絶望は計り知れなかった。ラミスは転がるしか無かった。ぎゃん泣きするしか無かった。じたばたせざるを得なかった。
流石にあんな化け物に勝つ事など、もう人である以上不可能だろう。公国最大の戦力が揃っている筈なのに、それなのに。全く歯が立たず、クリストフ将軍でさえ手も足も出ない怪物。
ラミスはただ泣き叫び、ごろごろする事しか出来なかった。
……ラミスは諦めた。いや、悟った。この世には、人の身では決して抗えない事がある事を。
そう理解したラミスはもう、二度と立ち上がる事は無いだろう。
……ラミスの心は、そんな深い絶望の渦に沈んで行った。決して出る事の出来ない、絶望と言う名の監獄に。ラミスの心は、次第に引きずり込まれて行くのだった。
「フヒヒヒヒヒヒィ、久しぶりだなぁ…………姫。」
「あら?ごきげんよう、シュヴァイン王子。」
──キリッ。
そう!例えどんなに絶望しようとも、例えどんな化け物が姫の前に立ち塞がろうとも。必ず、この拳で打ち倒す。
どんな時でも"優雅"に常に"絢爛"に、そして"美麗"に!……それこそがラミスである!
この程度で屈するラミス姫様では無い!
「そんな結末は、観客が望んでいませんわよ?」




