第93話 「お姉様、あの豚さんは硬いのですわ」
「…………。」
「……そんな。」
五体なら。豚の数がいつもと同じ数の五体であるなら、何とか勝てる可能性もあったかもしれない。
五体だけなら、リンお姉様、クリストフ将軍と三人で時間を稼ぐ事さえ出来れば。今日と言う日を乗り越え、帝国を打倒し、このツインデール公国を取り戻せる事が出来たかも知れないというのに。
…………。
「二十四。いえ、二十五体いますわね。」
……二十五。その数が重くのし掛かり、絶望を感じずにはいられなかった。
…………。
しかし、戦わなければいけない。そして、勝たなければならない。
……だが、一体どう戦う?どうすれば勝てる?豚の数は二十五体。しかし、こちらはあの豚とまともに戦えるのラミス含めて、三人しかいないのだ。
他の者ではあの豚の硬い外皮に傷一つ、付ける事さえ敵わないだろう。ラミスでさえ、その硬い外皮に守られた豚の体を、貫けるかどうかも分からないのだから。
自分に出来るのは、時間稼ぎだけなのだと。……ラミスは理解していた。
…………。
何か、何か打開策は……。
何も答えが出ないまま、帝国の進軍が始まる。
…………。
「あれくらい私が行って、ちゃちゃっと片付けてあげるわよ!」
昨夜、あれだけ説明した筈の姉リンが、何やらやる気満々のご様子なので。ラミスは慌てて姉リンを、ひしっと抱き締め。いや、持ち上げて制止する。
……ひしっ。
「ちょっ、ちょっとラミス!何をするのよ。」
「あの豚さんは、滅茶苦茶硬いんですのよ。お姉様。一旦落ち着いて、何か打開案を……。」
「えー。」
──ドゴォ!
前回同様、豚が前に出て、一斉に城門を叩き出す。
……まずいですわ。
「ラミス、もうやるしかないわよ!覚悟を決めなさいっ!」
──キリッ!
「おっ、お姉様。」
「だから、早く下ろしなさいよー。」
……じたばた、じたばた。
いや、姉の言う通りだろう。他に何も打開策が無いのが現状なのだ。
……しかし、豚二十五体。
「ブヒィ!」
流石に城門を叩く、あの古の怪物に勝てる未来が見えなかった。
──カチャリ。
そんな中、クリストフ将軍はおもむろに剣を抜き、姫達に一礼をする。……そして。
「それでは、行って参ります姫様。」
「えっ?クリストフ将軍!?」
クリストフはそう言い、城門の上から飛び降りた。
「将軍?ここから飛び降りる何て、幾ら何でも無茶ですわっ!」
……いや、あの。ラミス姫様もよく飛び降りていらっしゃいますよ?
飛び降りる将軍の姿を見て、慌ててラミスも飛び降りようとする。
「おっ、お姉様。私達も。」
「姫!?お待ちをっ。」
飛び降りようとする、二人の姫を慌てて止めに入るグレミオとガルガ隊長。
「ちょっ、グレミオ!?」
──ザシュ!
「……えっ?」
その光景に、ラミスは自分の目を一瞬疑った。
「プ、プギィ……。」
──ズシン。
クリストフ将軍の刃の元に、悲痛な叫びを上げ倒れる古の怪物、豚。
……それは一瞬の出来事だった。
一撃。
たった一太刀で、あの強靭な怪物の硬い外皮を貫き豚を倒したのだ。
「……クリストフ将軍。」
その将軍の強さに、ラミスも兵達も皆驚いていた。
……すたすたすた。
豚を一刀の元に斬り捨て、さらにクリストフは豚達に歩み寄る。
──カチャリ。
くるんと剣を持ち直すクリストフ将軍。
「ブヒィ!」
仲間を殺られて怒り出したのか、豚達は一斉にクリストフに襲いかかる。
「…………。」
剣を構えるクリストフ。
「……邪魔だ。」




