第92話 「戦姫絶叫しますわ」
朝食を終えると、屋敷の中が一斉に慌ただしくなり始める。
「急報、急報!」
急ぎ、駆けつける見張りの兵士。
「……来ましたわね。」
ラミスはカチャリと、ティーカップを置く。
…………。
兵の数は、よく理解している。ヘルニア帝国兵の数はおよそ二千。……そしてあの、古の怪物である豚が五体。
対して、こちらの兵士の数も同じく二千。……なのだが。しかし、今回は少し違う。
姉妹が四人全員が揃い、さらにクリストフ将軍、グレミオとガルガ隊長と。公国の最大戦力が、揃っているのである。
二千の兵は、ガルガ隊長とグレミオに任せれば、恐らく勝てるだろう。
……問題は豚五体である。
公国の最高戦力である、姉リンなら豚を倒せるのだ。その間にクリストフ将軍と二人で、残りの豚四体の時間稼ぎをすれば、勝利への道が開かれるかも知れない。
……いや。ガルガ隊長はクリストフ将軍なら、豚を斬れると言っていたのだ。もしかすると豚に勝てる力を秘めている可能性もある。
…………。
ラミスはそっと瞳を閉じ、頭の中で幾度も戦い。豚との戦いの対策を練る。
……そしてラミスは遂に、ある一つの結論を導き出す。
…………。
「……え?犯人、私でしたの!?」
ラミスは絶望の色が隠せなかった。
あの、夜な夜な麗しい姫君達の眠りを妨げ。狡猾で残忍極まりない犯人である、"眠れる森の美女〈スリーピングダンサー〉"
……あれが、自分だったのだと。
あのゴスゴス犯が。
ラミスの表情は、青ざめ。その顔からは絶望の色が隠せなかった。
ラミスは酷く後悔し、自らの行いを悔い。そして嘆き悲しんだ。
ヘルニア帝国の軍勢を見て、ツインデール公国の兵達は皆、愕然とする。
……ラミスもまた、その光景に愕然と肩を落とし絶望する。
「……そんな。どうして。……私が犯人だったなんて。」
いや正解には、兵士達は初めて見る古の怪物の姿に恐怖していた。
「……私は、何て恐ろしい事を。」
その怪物の存在を知っている筈のラミスでさえ、その光景に目を疑った。
「私が犯人だなんて、何かの間違いですわ……。」
……ぶつぶつ。
ヘルニア帝国兵の数は二千強。……いや三千近いのかも知れない。前回よりも増え、その数を増している。しかし問題なのは兵の数では無い。
問題なのは豚の数である。何時もは……。前回は五体だった筈なのである。
……しかし、今目の前に居る豚の数は何と二十を越えていたのだ。
その恐ろしい光景を目の当たりにし、ラミスは叫ばずには居られなかった。
「優雅では、ありませんわー!」
今はそれ所ではありませんぞ、姫様ー!




