第89話 「だいたい牢屋に住んでますわ」
確かに、まだ問題は数多く残されている。
明日のヘルニア帝国の軍勢。……特に豚に、まだ勝てるかどうかすら定かではない。……しかし、ラミスの長い長い戦いの中、これほど安らぐ夜は無かっただろう。
四人の会話は、夜遅く迄終わる事は無かった。そろそろ明日の戦いに備え、休もうという話になる。
「ご一緒のベッドで、寝てもよろしいですか?お姉様。」
「もー甘えん坊さんねっ。ミルフィーは。」
やたら嬉しそうに、とりあえずミルフィーに抱き付くラミス姫様。
「あ、あら。じゃあ私もご一緒しようかしら?」
釣られて、仲間に混ざる姉ナコッタ。
「何してんのよ?あんた達。早く寝るわよ。」
既にベッドの中に、潜り込んでいる姉リン。
……流石ですわ、お姉様。
「ふふっ、皆さん。本当に甘えん坊さんばかりですわね。」
ラミスは久しぶりに、心の底から笑えた
しかし、大型のベッドとは言え。流石に四人は少し狭く。ぎゅうぎゅう詰めになる。
「ふふっ。たまにはこういうのも、いいですわね。」
……四人は幸せそうに、すやすやと寝息を立てていた。
ラミスは心地好い微睡みの中、想う。ずっとこのまま、四人一緒に居られたらいいのに……と。
……明日。明日勝てば希望が開かれる。
明日勝てば。
いや、この四人なら。姉妹四人全員が揃った今なら、ヘルニア帝国にだって勝てるかも知れない。
ラミスはそう信じて、深い眠りに就くのだった。
…………。
……すやすや。
……ぐーぐー。
とても幸せそうに、安らかに眠る姉妹四人。彼女達の眠りを妨げる者など、誰一人いないだろう。
…………。
……すやすやですわ。
…………。
……すやすや。
──ゴスッ!!
……?
……おや?
──ガスッ!!
……おやおや?
ラミスは瞳を閉じながら思う。
──ゴスッ!
……どなたか大変、お寝相がお上品では無い方がいらっしゃいますわねぇ。
私の顔に当たっている、この可愛いあんよは、一体どちらの国のお姫様の御御足かしら?
──ゴスゴス!
…………。
……うーん。
ラミスは気にせず、眠る事にした。
ラミスが目を覚ますと、ベッドは既にラミス一人だった。
「あらー?」
「おはようございます、お姉様。目が覚めましたのね。もう、朝食の準備が出来てますわ。」
「……おはようミルフィー。いい朝ですわね。ふふっ。」
んーと、背伸びをするラミス姫。
「ミルフィー、それでは朝食を頂きに参りましょう。」
……すたすた。
「おおおお姉様。その格好でで、ですか!?」
「……ほえ?」
…………。
あー。
「お姉様、すぐにメイド達を呼んで参りますっ。……あっ。ロクサーヌがいらっしゃるのですね。」
ぱたぱたぱた。
……あー。
駆け出して行くミルフィー。今まで朝目覚めたら、だいたい牢屋の中でこんにちわ、状態だった為。すっかり馴染んでしまい、そのまま朝食に向かおうとした自分に、少し落ち込むラミス姫様であった。
……優雅さが、少々欠けておりましたわ。




