第85話 「何だか先程から、お耳の調子が悪いですわ」
──ザッ。
剣を構え、ジリジリと間合いを図る両者。
…………。
一体どちらが強いのか?……ラミスは両者の実力をほぼ互角と見ていたのだが、先程ゲイオスの本当の実力を垣間見てしい、分からなくなっていた。
その張り詰めた緊迫感の中、少しの不安がラミスの頭を過る。
──ザッ。
「……行くぞ、リンとやら。」
「…………。」
「……お姉様。」
勝負の行く末を祈る様に見守るラミス。しかし、姉リンの顔が曇るのに気が付く。
「……お姉様?」
顔が曇り出し、何かに怯えた表情をする姉リン。
「……え?」
姉リンは怯えていた……。姉リンが感じる、ゲイオスの殺気はそれ程迄なのだろうか?
「ちょっ……何でよ!?」
……ガタガタと震え、酷く怯え出す姉リン。
「……何で!?」
「お姉様っ!」
────────。
「何でこいつ、私の名前を知っているのよ?」
「…………。」
「…………。」
「私には、何も聞こえませんわよ?お姉様。」
ラミスはまた、聞かなかった事にした。
…………。
──ヒュッ。
先に動いたのはリンだった。そのリンの動きに合わせ剣を走らせるゲイオス。
──ザシュ!
一閃。
……勝負は一瞬でついた。敗者はドサッと地に沈み、二度と起き上がる事は無かった。両者の間にはそれほど迄、実力に違いがあったのだ。
ラミスはまたもや、両者の実力を見誤っていたのだと。自らの実力不足を、感じずにはいられなかった。
「…………。」
「私も、まだまだですわね。……お姉様。」
「らっくしょーよ♪ざっとこんなものよねー!」
上機嫌で子供の様にケタケタと笑い出す、リンお姉様。
「……流石、お姉様ですわ。」
ラミスは、安心して気が抜けたのか。緊張の糸が切れ、その場に倒れ込んだ。
「ラミスー!」
ラミス姫の元へ、すぐ様駆け寄る騎士グレミオ。
「……しっかりするんだラミス。目を開けてくれっ!」
「ふふ……。グレミオったら。ちょっと倒れただけで、大げさね。目ははっきり開いておりますわよ?」
「……そっ、そうか。すまない。ちょっと君が心配で。」
辺りを見回すラミス。
ヘルニア兵の姿は、見当たらなかった。恐らく残っていたヘルニア兵士、二百近くはグレミオ達が倒したのか、逃げ去って行ったのだろう。
「ねえ、グレミオ。味方の兵士さん達は無事なの?」
「え?……ああ。一人怪我が酷いが命に別状は無い。皆、生きてるよ。」
「そう……。それは、何よりですわ。」
そう言ってラミスは、倒れ気を失った。
「ラッ、ラミス姫っ!?おいっ、しっかり……。」
…………。
「眠っているだけよ、心配し過ぎ。」
姉リンはフフッと笑いながら、ラミスの頭を撫でる。
「よく頑張ったわね、ラミス。」
「……んー。むにゃむにゃ、もう食べれませんわ。」
食べ物の夢でも、見ているのだろうか?グレミオに抱き抱えられながら、寝言を言い出すラミス姫様。
「そういうば、ナコッタは何処ー?居るんでしょ?」
「はっ。ご案内致します、姫様。こちらです。」
「リンお姉様ー。」
たたたたっ。
兵士に聞いたのだろうか。リン姫の名前を呼びながら走り、そのままリンに抱き付くナコッタ姫。
「お姉様もご無事でしたのね……。良かった。」
再会を喜ぶ姉妹。
……ラミスは長い長い戦いの末、初めて凄腕の剣士に勝利し。
22045回目にしてようやく、姉ナコッタを救う事に成功したのであった。




