第82話 「身嗜〈みだしな〉みは大事ですわ」
「……ふふ。」
「姫……?髪が大変な事に……。」
「あらー?」
静電気のせいか、ラミスの髪は逆立っていた。
「やはり、この技は制御が難しいですわね。私もまだまだですわー。おほほ。」
そのラミスのあまりにもの強さに、ヘルニア兵達はたじろぎ、動けずに固まっていた。その間に、手鏡と櫛で髪を整える姫様。
……その手鏡と櫛は、何処から出て来たのですか?姫様。
「あら、乙女の必需品ですわよ?」
……くしくし。
「……さてと、そろそろですわね。いらっしゃるのでしょう?出てらっしゃいな。凄腕の剣士さん。」
…………。
──ザッ。
「呼んだか?」
毎度の如く、凄腕の剣士ではなく。何故か、代わりにセルゲイがやって来る。
…………。
ラミスは身構える。……セルゲイは、やはり姫を舐めてかかってくる。なので、とりあえず初手"双牙"!!
──ドガガッ!!
それを難なく止めるセルゲイ。
…………。
「つっ。……おいおい、嬢ちゃん。とんだじゃじゃ馬じゃねーか。俺じゃ無ければ、死んでいたぜ?」
ラミスの蹴りで本気になり、大剣を構えるセルゲイ。
「いくぜ!」
────────。
──ギャイン!
セルゲイの大剣を、ラミスは鳳凰天舞の構えで全て弾いていく。
──ドガガガガガ!!
ラミスはセルゲイの攻撃を全て見切り、その攻撃の全てを脚で往なしていた。
「……くっ。」
──ギャイン!
「おいおい、マジかよ。この俺の大剣を、防具も無しに全て防ぐとはな。」
「……ふふふ。」
しかしラミスは一切攻撃せず、ひたすら防戦一方であった。
「…………。」
──ガガガガガ!!
少し離れ、距離を取るラミス。
「どうした?お嬢ちゃん。防戦一方じゃ、俺は倒せないぜ。」
「…………。」
ラミスは攻撃をせず、ただひたすら防御に徹していた。そして距離を取っては、辺りをちらちらと見て気にする。
「……?」
ラミスは、グレミオ達の安否を気にしていた。一応、グレミオは剣豪の称号を持つ隊長である。ヘルニア兵士が例え何人居ても、そうそう倒される心配は無いだろうが。ラミスは戦いながら、遠巻きにちらちらと見て。グレミオ達を心配した。多少怪我をしている兵士もいるのだが、今の所は大丈夫の様だ。
…………。
──ザッ。
そして、恐ろしい殺気と共に奴は現れる。……あの、凄腕の剣士が。
「何をやっている、セルゲイ。」
セルゲイは、チッと舌打ちをして凄腕の剣士を睨み付ける。
「下がってろ、まだ勝負は終わってねぇ!」
「終わってますわよ?」
──ドゴォ!!
一瞬で鎧が砕け散り、そのまま地に沈むセルゲイ。
『22045回目』
「フフフ……。やはり、手加減して戦っていたのか。」
「…………。」
──姫神拳奥義二十四式、夜叉咬み。
ただボディを狙う姫咬みと違い、最初から鎧を着ている敵を想定して放つ奥義。その技は、相手の鎧を打ち砕き、ボディに強力無比な一撃を放つ。
…………。
……いや、もうそれ。ボディである必要あるのでございますか?姫様。




