第79話 「私〈わたくし〉の双牙を止めるとは、やりますわ」
しかし、この男。セルゲイは姫の双牙を止めたのだ。恐らくガルガ隊長と同等か、それ以上の実力者と思われる。
…………。
セルゲイは、きちんと姫をを強敵と認識したのだろうか……。大剣を構え、ラミスとの間合いを取った。
…………。
ラミスは思考を巡らせる。ラミスはその頭の中で、何度もセルゲイとの戦闘を繰り返していた。その攻撃パターンを、幾通りも予想し対策を練る。
セルゲイはその自信からか、兜は着けていなかった。
……つまり、ラミスが先ず狙うのは、必然的に頭部となる。
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先に動いたのはセルゲイだった。ラミスは予想していた通りに、セルゲイの大剣に合わせ。鳳凰天舞の構えで、その大剣を蹴り、叩き落とす。
…………。
「……あら?」
ラミスは何時もの様に、天井を見上げていた。……ラミスが予想していたよりも、遥かにセルゲイは強かったのである。
「私も、まだまだですわね……。」
今のラミスでは、あの男の大剣は対処出来ない。ならば、回避するしか方法は無い様だ。ラミスはセルゲイと再戦する為に、西の村を目指し走る。
「豚さんや、あの凄腕の剣士に負けるならともかく。あの程度の相手に遅れを取るなんて、私もまだまだですわー。」
ラミスは西の村までの草原を、物凄い勢いで駆け抜けて行った。……はっきり言って、もう既に馬の数倍速い。
……ひょこ。
毎度の如く、可愛く窓からひょっこり覗き込む姫様。……そして、そそくさと中に入る。
「お姉様ー。ラミスですわー。」
──ドカッ!
「たっ、大変です!グレミオ隊長!クリストフ将軍!敵兵がっ、ヘルニア兵がすぐそこまで来ています!」
「むぎゅっ。」
またもや、顔面から床に叩きつけられるスタイルのラミス姫様。
「…………。」
「……わっ、忘れてましたわー。」
仮にも一国の姫である、ラミスを突き飛ばし。酷く青ざめ、あわあわと取り乱す兵士。そしてこの、圧倒的起き上がりにくい空気の中、おもむろに起き上がるプリンセスラミス。
「……こほん。んんっ。」
「……私はフェニックスの巫女、プリンセスラミスです。私は、大地の聖霊の声を聴いていたのです。決して床で、倒れていた訳ではありません。そして、顔面から床に行くタイプでもありません……。」
…………。
…………。
うん、よし。これはもう辞めておこう。
……そう心に、固く誓うラミス姫様であった。
──そして始まる、セルゲイとの"死闘"!




