第71話 「今日は何だか、調子がいいですわ」
驚くヘルニア兵士達。
ツインデール兵は少なくても、五十人程はいる。それなのに、初手姫様である。ヘルニア兵達が驚くのも無理は無いだろう。
──ドガガッ!
瞬時にヘルニア兵を、十数人蹴り飛ばして行くラミス姫。
ここは山の中腹である。ガルガ隊長は、ヘルニア帝国軍の襲撃に備えて、万が一の時の為に山中に陣取っていた。
その高低差により、地の利はこちら側にある。
……それだけではない。
この段差が激しい山中においては、ラミスにとってかなり有利で相性のいい戦場と言える。
──ドガガガガガ!
ラミスはヘルニア兵の攻撃をひらりと華麗に回避し、次々とヘルニア兵達を蹴り飛ばしていく。本来ラミスが倒せる敵兵の数は、精々十数人程度である。
普通ならばラミスの攻撃は、その堅い鎧や兜に阻まれ、致命傷等を与える事は厳しい。
……しかし、この戦場は少し違う。
この様な山の中では、敵兵の侵入経路はかなり限られる。ラミスはその中で、一番中央の道の高低差がある崖に目を付け、自ら敵兵の中へと飛び込んで行った。
──ドガガガガッ!
そして、ヘルニア兵士を次々と蹴り飛ばす。堅い鎧に阻まれ、ほとんど致命傷を与える事が出来ない筈のラミスの蹴りも、この高さから落ちれば話は違ってくる。当然多少なりの怪我をし、ダメージを受け。そして頭から落ちる等、打ち所が悪ければ大怪我をし、最悪の場合死に至るだろう。
──バババッ!
ラミスは攻撃を素早く回避し、次々とヘルニア兵を撃退していく。……その数は既に二百を超えていた。
「……ひ、姫様!?」
「お、お姉様……?」
その活躍に、味方の兵士やミルフィーまでもが驚いていた。
…………。
……体が軽い?
ラミスは先ほどから、自分の体に多少の違和感を感じていた。
…………。
自分はこれ程までに、素早く動けただろうか?
はたして自分の蹴りはこれ程、威力があったのだろうか?
そして、ミルフィーのいる東の山へ向かう最中。自分はこれ程までに、足は速かっただろうか?
…………。
まあ、微々たる差でしかないし。たまたま調子が良いだけなのかも知れない。……ラミスはあまり気にしない事にした。
「……ははははははっ。」
ラミスの活躍を見て、ガルガ隊長が笑い出す。
「俺も負けては、いられませんなぁ!」
ガルガは大剣を振りかざし、ヘルニア兵目掛けて振り下ろす。
──ザシュ!
そして凪ぎ払う。
──ザン!
ガルガ隊長のその刃は、一度に十数人の敵兵の体を引き裂いた。
──ザシュ!ザシュ!!
「ひっ、ひいー!」
ガルガ隊長の、その凄まじさに。ヘルニア兵達は恐れをなし、次々と逃げ出して行く。
「はーはっはっは!見て下され、姫様。ヘルニア兵共が恐れをなし、逃げて行きますぞ!」
──シュバッ!
「まだですわ、ガルガ隊長。」
「ひっ、姫様!?何時の間に!?」
何時の間にか、ガルガ隊長の隣に移動し、何やら険しそうな瞳で遠くを見つめるラミス姫様。




