第70話 「先陣を駆けますわ」
……悲しんでばかりは、いられない。ラミスは"強く"なる事を決意した。
ラミスは東の森で二人の兵士と合流し、そのままミルフィーの元に向かう。
「ミルフィー!」
「お姉様ー!」
ひしっと抱き合い、再会を喜ぶ姉妹。
ラミスはミルフィーを抱きしめ、頭を撫でながらある程度の経緯を説明する。
「かくかくしかじか~しかのこのこのこ~ですわ。」
……ラミスは、しばらくミルフィーと話をしていた。この辛い戦いの中、ラミスにとってミルフィーと話をしている時間は、何よりも心が安らぐ一時であった。
この後は、またあの豚との厳しい闘いが待っているのだから……。
…………。
くるり。
「所で、ガルガ隊長はどうなさいますの?そろそろヘルニア兵と化け物が、やって来る頃合いですが。」
「なっ!?」
「ヘルニア兵がっ!?ばっ、化け物!?」
……そこは、全く話していなかったラミス。
かくかくしかじか、する姫様。
「無論、闘う覚悟です。」
「ですわね!」
「……そうですわ、ミルフィー。ミルフィーの魔法もお願い致しますわ。」
「私も頑張ります、お姉様。でも私、治療の魔法しか使えないので、あまり戦闘のお役には立てないかと……。」
──あら?
「ああ。そっちではなくて、攻撃魔法ですわ!この前ミルフィーが使ってましたわ!!」
「えっ!?攻撃魔法?」
……これも話していなかった、ラミス姫様。
しかのこのこのこ~姫様。
未来を見てるから、知ってますのよ。・~・
「さあっ、ミルフィー。やっておしまいなさーい!」
凪ぎ払え!ですわー。
「はっ、はい。お姉様。」
迫り来るヘルニア兵に、魔法を喰らわそうと目を閉じ、必死に力を込めるミルフィーだが。……全く発動しない、攻撃魔法。
「……出ませんわ、お姉様。」
…………。
「あらー?」
そっ、そんな筈はっ。以前、確かにミルフィーは攻撃魔法を、ヘルニア兵に使っていた筈なのに……。
──??
「おかしいですわね……。」
……他に、何か条件でもあるのだろうか?
「まあ、出ない物は仕方ありませんわね。護衛兵の皆様、ミルフィーの事はお任せしましたわよ。」
軽くストレッチして、可愛く背伸びする姫様。
「んー。」
「それでは参りますわよ、ガルガ隊長。」
「はっ。姫様!」
ラミスはそのまま走りだし、敵兵の真っ只中に突撃して行った。
…………。
「……は?」
…………。
「ひっ、姫様!?」
「お、おおおおお姉様ー!?」
──初手、姫様。
いきなり敵兵のど真ん中に、突撃するラミスを見て驚く二名。……ラミスは、"そこ"も全く話してなどいなかった。
おほほほほ、と高笑いしながら走り去るラミス姫を、ガルガ隊長は急いで追いかける。
おほほほほですわー。




