第69話 「このラミスを、捕まえてごらんなさーいですわ」
「なっ、何だ!?」
ヘルニア兵士達は、いきなりの出来事に理解出来ず、戸惑っていた。
油断しているヘルニア兵など、ラミスの敵ではない。
──ドガガガッ!
ひたすら蹴りまくる、ラミス姫様。
……しばらくすると騒ぎを聞き付け、武装した兵士達が集まり、ラミスの周りを囲み始める。……ヘルニア兵達に囲まれるラミスの姿を、城の民や子供達も気が付き、心配そうに姫の姿を見つめていた。
ラミスはそんな子供達や民達の姿を見て、哀しい目をする。
ラミスは大勢のヘルニア兵達に囲まれる中、民や子供達に深々と頭を下げた。
「……皆様大変申し訳ございません。我が公爵家が不甲斐ないばかりに、皆様に大変辛い思いをさせてしまい。公爵家を代表し、このラミス。民の皆様に深くお詫び致します。」
民達が、ラミスの言葉にざわめき始める。
「そんな……。姫様。」
ラミスの姿を見て、涙を流す民達。
「このラミス。必ず皆様を助けに戻ると、お約束致します。必ず皆様を救い、このツインデール公国を取り戻すと!私は……。私はここに誓いますわ!」
「……それまでこの愚かな姫に、少しばかりのお時間を下さいませ。」
…………。
「……ひ、姫様。」
多くの民達がその言葉に感激し、また涙を流す。
「へっへっへ……。お姫さんよぉ!ここから逃げ切れると思ってんのかぁ?」
…………。
「それでは皆様、ごきげんよう……。ヘルニア兵士の皆様も、首を洗ってお待ち下さいませ。」
ラミスはスカートの裾を掴み、見事なプリンセス挨拶を披露する。
そう!例えどんな時でも。常に"優雅"に"絢爛"に、そして"美麗"に!……それこそがラミスである!
──ババッ!
ラミスは天高く後ろに飛び上がり、空中を華麗に舞った。
「なっ……!?」
そのラミスの、まるで宙を漂うかの様な華麗な姿に……。ヘルニア兵達の動きは一瞬止まり、その美しさに目を奪われた。
──ドガガガガガッ!!
空中から、恐ろしい程強力な蹴りを繰り出すラミス姫様。そして着地し、そのまま物凄い速さでスタコラ走り去って行く。
…………。
「お、追えー!」
──ぴゅー。
……当然だが重い鎧を着た兵士に、ラミスの足に追い付ける筈などない。そのラミスのあまりの速さに、ヘルニア兵達は皆諦めた。
…………。
タタタタタタッ。
ラミスは東の森に入り、そのまま走り続ける。
…………。
「ごめんなさい……。今すぐ救う事の出来ない無力な姫で、ごめんなさい。必ず……。必ず、皆様を救いに戻ります。必ず民達を救い、公国を取り戻すその日まで。私は諦めませんから……。もう少し、ラミスにお時間を下さいませ。」
…………。
ラミスのその目には涙は無かった。その瞳は、必ず救い出すと決意に溢れていた。




