第58話 「生ハムでもいいですわ」
あの豚が。あれだけ苦戦して倒した化け物が、後四体も居る……。
…………。
「私が時間を稼ぐわ!!貴女達は一人でも多くの民達を連れて逃げて!もちろん小さい子供達は最優先よ!」
「お姉様!?」
「わかりましたわ、お姉様……。急ぎましょう、ミルフィー。」
「えっ。は、はい。お姉様。」
そう言って、ラミスとミルフィーは子供達を連れて走り出した。
「さあ、こっちよ!お急ぎになって……。」
「ふー。」
リンは静かに息を吐き、改めて大量に集まってくるヘルニア兵達の姿を見る。……そして剣を構えた。左腕が使えない今この状況、あの強固な外皮を持つ豚は、恐らく倒せないだろう。ならば……。
「片っ端から斬り刻むわよ!」
──ザシュ、ザシュ!
リンはとりあえず、標的をヘルニア兵士達に絞り攻撃をしていく。
「ヒャッハー、逃がさねぇぜ!」
ヘルニア兵士達が逃げ遅れている民達に、襲い掛かっていた。
──ヒュッ!
そのヘルニア兵士の後ろで、空中を舞っているラミス姫様。
──ドゴォ!
ラミスの華麗な蹴り技が炸裂する。
「ぐあっ!」
──ドガガガガッ!!
隙を見せ、油断しているヘルニア兵など、ラミスの敵ではない。
──ガガガガガッ!!
ヘルニア兵士を次々に蹴り飛ばしていく、ラミス姫様。
「あっ、ありがとうございます。姫様。」
「お礼はよろしくてよ。時間がありませんわ、早くお行きなさい。」
「は、はい。」
…………。
……リンお姉様は、大丈夫かしら?
姉の身を案じ、リンが戦っている方角を見るラミスだったが。次々とラミスに襲いかかる敵兵のさ中、姉の心配をしている程の余裕はラミスには無かった。
「今はお姉様を信じるしか、ありませんわ。」
──ガガガッ!
ラミスは襲い掛かるヘルニア兵士達を、必死に蹴り飛ばしていった。
──シュバババババッ!
ヘルニア兵達を次々と斬り裂いていくリン。だがしかしあの豚はどうする事も出来なかった。やはり片腕では……。左腕がこの状態で勝てる程、生優しい相手では無い。
「ブモォ!」
豚がリン目掛けて勢いよく、棍棒を振りかざす。
──!?
リンは身をひるがえし、これを間一髪で回避した。
「……そろそろ限界ね。」
ぜぇぜぇと息を荒げ、よろめきながらも立ち上がるリン。
「次会ったら、ロースハムにしてあげるから覚悟する事ねっ!」
リンは剣をブンブンと振りながら豚に怒り、ラミス達の元へと走り出した。




