第53話 「タイガー&フェニックスですわ」
──ギュオォ!!
姉リンの動きの速さは、凄まじい物があった……。まさしく電光石火の如く、敵を蹴散らして行く。
──ザシュ!
「……ひっ、ひいぁ。」
「うわあぁぁぁぁー!!」
リンのあまりの強さに、ヘルニア兵士達は逃げ出して行く。
「なっ!?何をしておるか、貴様らぁ!逃げずに最後まで戦わぬかぁ!!」
指揮官らしき人物が、何やら馬上で叫び出す。
──ザシュ!
しかしすぐに姉リンの刃により、馬から転げ落ち地に伏せた。
…………。
近くにいるヘルニア兵達は全て逃げ出し、最後の一人である指揮官を倒し……。
リンは寂しそうな瞳で空を見上げる。
…………。
「……ごめんなさい、ラミス。」
リンの頬に、涙が伝う。
「私が、私がもっと早く来ていたら……。」
リンの瞳いっぱいに、涙が溢れ出す。
「貴女を失わずに済んだのに……。」
涙を拭うリン……。しかし、涙はぼろぼろと溢れ落ちる。
「貴女を、救えたかも知れないのに……。」
リンは涙を拭いながら、横目で妹ミルフィーを見る。
──こつぜん!
「あれっ!?いない!?」
先ほどまで確かに、ミルフィーがここに居た筈だと、キョロキョロ妹を探すリンお姉様。
──したたたたたたた。
「お姉様ぁーー。」
にっこにっこしながら、元気良く走ってくるラミスとミルフィー。
…………。
──!?
「あれ??生きてる!?えっ?……あれっ!?」
「?」
「えっ?えっ!?」
「どうしたんですの?リンお姉様。……何をそんなに驚いてらっしゃるの?」
「え?いや、えっ!?」
「?」
「えっ……?さっき貴女、死んでたよね?」
「勝手に殺さないで下さいます?お姉様。私はご覧の通り、生きておりますわよ?」
「えっ?えっ!?……足、足は?無かった筈よね??」
「それは、ミルフィーの魔法ですわ。お姉様。」
頬に手を添えながら、妹ミルフィーの頭を撫でるラミス姫様。
……なでなで、ですわ。
「魔法?どういう事!?先ほどから私には何の事だか全くわからないわ……。」
……?
「お姉様、もしかして……。」
──!?
──ズシン!!
突如大地が震え、建物が揺れる。
……聞き覚えのある足音がする。
「ブヒィ!」
「な、何なの?……あの怪物は!?」
初めてみる古の怪物の、その異様な姿に驚く姉リン。
怪物と共にわらわらと集まって来る、ヘルニア兵士達。
「お姉様、ここは一旦引くべきですわ。あの豚さんには刃も通りませんの、流石にお姉様でも……。」
──しゅぴっ。
「ラミスー?私は誰かしらー?」
「リンお姉様ですわ。」
「その通りよ!私の辞書には"逃げる"なんて言葉は無いのよ!あんな豚なんて、スライスしてボンレスハムにしてあげるわ!」
「あら?お姉様。私はローストポークの方が好みですわ。」
「ひぃぃ。>_<」
まだ怪物の姿に怯え、目を閉じたままのミルフィー。
──!?
「ラミスっ!?」
ラミスの背後から、ヘルニア兵士が忍び寄りラミスに掴みかかってきた。
慌てて双剣を構え、駆け出すリンなのだが。ヘルニア兵はラミスの背後にいる為、この角度だとラミスまで巻き込んでしまう……。間に合わない!
──ドゴォ!!
「プリンセス延髄!」
ヘルニア兵士に、ラミスの強烈な回し蹴りが決まる。
「……そこは私の、射程範囲内ですわ。」
くるんっと、華麗に一回転するラミス姫様。そして、どさっと崩れ落ちるヘルニア兵士。
…………。
「えっ。」
…………。
「えーっ!?」
「あら、どうされましたの?お姉様。そんなに驚かれて。」
「えっ??……いやっ、え!?」
かなり驚きのご様子なリンお姉様。
「私も少々、闘えますのよ?」
──!?
「ブヒィ!」
豚の巨大な棍棒が、姉リン目掛けて振り下ろされる。
──ズザァ。
素早く後方に下がり、攻撃を避けるリン。
キンキンと双刃を合わし鳴らせ、ラミスを横目で見ながら話しかける。
「どう?ラミス……。いける?」
「フフフ……よろしくってよ、お姉様。ラミスは何時でもいけますわ。」
「わっ、私も援護しますっ!」
震えながらもラミスに近寄るミルフィー。
ふふふ……。
ラミスはにこりと微笑んだ。
「さあ、反撃開始と行きますわ!」




